第10話 王の子
レイモンに逃げられた。
私を召喚した者を知っている様子だった。それも、一人ではないらしい。
追いかけて問い詰めようとしたときクロードに引っ張られて連れていかれた先に大怪我を負った騎士や魔導士団員たちがいた。
ネヴィル皇子とは別の騎士団たちが討伐から帰ってきたのだが、魔物が大量に出てきて怪我人が多数出てきたので命からがら帰ってきたと言う。
治療魔法が使える魔導士たちが治療を行っているが、ポーションも必要になるため急いで追加のポーション作りをすることになったとクロードからの説明を聞きながら私もポーション作りを始めた。
「どこで出たのですか?」
「王都の隣のハイノバ地方だよ。今までそれほど強力な魔物が出るところではなかったから第二騎士団が向かったけど、魔物が大量に発生していたみたい」
治療している隣の部屋からは叫び声が聞こえる。
討伐時の怪我が想像できなくて、部屋を覗いてみようとしたらクロードから止められた。
それほど酷い怪我なのか……。
「それにしても、ハイノバ地方だなんて」
「何かあるのですか?」
「知っていると思うけど王都から馬車で二時間ほどのところだよ。ここからそれほど遠くないところに魔物が大量に発生していたらどうなると思う?」
マリベルの授業で聞いたことがある。王都に一番近くて交通の便もいいので流通が盛んだと言っていた。二時間で着くというくらい近い場所なら……。
「魔物が王都に来る?」
「可能性は大きいよ。だからネヴィル皇子が急遽討伐に行くことになった」
「倉庫のポーションが使えないのはそのせいですか」
「いつもの討伐より多くの騎士と魔導士団員を連れていくらしい。今、団長と話をしている」
「さっき、ネヴィル皇子を見かけたけど振り返った途端、人が飛ばされていたのよ」
「あの人は特別だよ。呼吸をするように魔法が使えるから」
ネヴィル皇子の魔法を間近に見た直後だからかすんなり納得出来る。だが、ネヴィル皇子の力ばかりに頼って大丈夫かと心配していたらクロードから優秀な魔導士がついていると聞いた。魔導士団のもう一人の副団長でネヴィル皇子と同じくらいの魔法が使えるようだ。その為ネヴィル皇子の討伐には必ず同行していると言っていた。
「レイモンは討伐に行かないの?」
「団長の話だと、レイモン皇子に魔力を使いすぎないようにと気を使っているみたい」
王の後継者は魔法が使えることを前提として考えられているため、配偶者も魔法使いであることが求められている。
王も火の魔法が使えるらしい。そして現王妃は水の魔法が使える。ネヴィル皇子とレイモンもそれぞれ魔法が使える。
アランとゾフィーの母親は風の魔法が使えると言われているが、その子供二人には魔法は引き継がれなかった。
そのことからも、周囲では後継者はネヴィル皇子とレイモンのどちらかで、現王妃が産んだレイモンが最有力候補と言われているらしい。
ネヴィル皇子の母の前王妃は伯爵家の出身で現王妃は侯爵家の出身なのでそれぞれ後見になっているばかりかネヴィル皇子は現王妃に引き取られて現王妃も後見人となっているのもネヴィル皇子が気を使っている理由だろう。そこにアランとゾフィーは存在しないような感じがする。
側室のダニエルは子爵家の出身だが正式な妃ではないとマリベルは言っていた。
ゾフィーがローサンを使ってまで王の病を治そうとしたのもそういった理由からだろう。後継者候補にもならない兄の為にゾフィーが考えたこととしては納得も出来る。
そして、もう一つ気がかりがある。
ネヴィル皇子の魔力はかなり大きいということ。そしてそのネヴィル皇子の討伐隊にいるというもう一人の副団長の存在。
自分が召喚されたことに関係しているのかもしれないと怖くなった。
ネヴィル皇子が討伐に出かけた後の魔導士団の建物には大量の薬草とポーションの瓶が運び込まれていた。在庫が少なくなったポーションを作るための人員も改めて確保されて交代でポーション作りをする。
夜遅くまでポーション作りをして部屋に戻ると目が冴えて眠れなかった。
夕食も終えて、眠れるようにとオリビアがワインを用意してくれたがそれを飲んでもやはり眠くならなかった。それならと皇后宮の庭を散策してみることにした。
夜風が心地よかった。
それほど多くワインを飲んだつもりはなかったが、火照った頬を冷ましてくれるようだ。
迷わないようにと建物に沿って歩いていたつもりが、迷った!
気がつくと木々に覆われた暗闇の中にいた。
どうやらかなり酔っていたみたいでフラフラ歩いているうちに道を外れていたらしい。
引き返し歩き出す。少しすると、建物が見えた。皇后宮ではなく見覚えのない建物だった。
今度こそ本当に迷ったと悟る。そしてその建物から何かが割れる音と叫び声が聞こえて急に酔いがさめて寒気がしてきた。
「リコ様、探しましたよ。さ、こちらへ」
オリビアが駆け寄ってきて上着をかけてくれた。
傍にはレイモンがつけてくれた護衛のヘリオスまでいて、皇后宮まで戻ってくることが出来た。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「心配しました。前を歩いていたはずのリコ様のお姿が急に見えなくなったので」
部屋に戻って、二人に謝る。かなり心配かけたようだ。
「ところで、あの場所の近くには何があるの?」
「静寂の館です。側室のダニエル様が住まわれているところです」
やはりそうだったか。
少し寂しい感じのする館からはダニエルの叫び声とアランの怒鳴り声が聞こえて怖くなった。二人はゾフィーの事で周囲に当たり散らしていたようで、見つからなくてよかったと安堵した。
オリビアがあまりにも心配するので、眠れなかったがベッドに入った。
翌日、クロードと一緒にポーション作りをしていると副団長のハミルトンから呼ばれて怪我人のいる建物にポーションを持っていくように言われた。
「治療はまだ続いているのですか」
「昨日は重体の者だけ治療をするのに精一杯だった。やっと軽症者の本格的な治療が始まったけどまだポーションは足りない」
ハミルトンとクロードと一緒に出来上がったポーションを持っていくと腕や頭に包帯を巻いた人たちが溢れかえっていた。
「すごい……」
怪我人が大量に出たと聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。
クロードも同じだったようで入口でポーションを持って立ち尽くしている。
「ポーションをこちらに」
奥から声が聞こえて慌ててポーションを持っていくと、私やクロードが来ている魔導士の制服と少し色が違う服を着ている人が治療に当たっていて、主に治療を専門にしている魔導士だと教えられた。
「すみません、少しこちらを支えてもらってもいいですか」
腕に深い切り傷を負った人だ。
怪我をした人の腕を支えているとそこに魔導士が手をかざすと光が腕を包み傷が消えていく。
「すごいですね」
「私の力ではここまでしかできません」
若い男性の魔導士からは笑みが消える。かなり疲れた様子だ。ここまでしかできないと言いながらも傷口は塞がっているだけでもすごいと思う。
「あの、手伝います」
気がついたら口にしていた。
魔導士からは治療が終わった人の包帯を巻いてほしいと言われてポーションを持ってついて行く。
治療が終わった人たちの傷口を確認してみるとやはりすごいと感心する。早く良くなるようにと包帯を巻いていると手からキラキラと光が出てきた。
「えっ? えっ??」
「リコ。治療魔法が使えるのか?」
「ええええ?」
自分の手から光が出ているのに驚いているとハミルトンが飛んできた。
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