248.見えない目的
「ふあ……朝かな……? って重っ!?」
【でゅふふ……おばあちゃん……】
「誰がおばあちゃんよ!」
起き上がろうとしてなんだか背中が重いなと感じたあたしが首を動かすと、よくわからない寝言をしながらレスバが覆いかぶさるように抱き着いていた。なのでサッと振りほどいて転がしてやる。
【地獄のゆりかご!? ……おや、カナ……どうしてわたしは同じベッドに……】
「部屋が無くて一つしかベッドの無いところだったからよ。ったく、寝相が悪いったらないわね」
【寒かったからいいじゃないですか……今はわたし達しかいないんです、協力し合いましょう】
「ははは、こやつめ」
レスバが不敵に笑みを浮かべたので、あたしは笑いながら布団で巻いてやった。久しぶりに簀巻きとなったレスバがベッドの上で跳ねながら言う。
【さて、とりあえず町に着くことができましたけど、まずはギルドですね】
「そうねって、あんたも随分タフになったわねえ」
【……魔王様が操られて、前の世界では無駄な争いだった可能性も捨てきれないという話になりました。そしてこの転移魔法による全員がバラバラに飛ばされるという結末。正直、どこかで引きこもって穏やかに暮らしたいくらい、ここまでの旅は辛かったですよ】
「……」
真面目な顔で話しているレスバにあたしも茶化さないようにした。
あたしは召喚されて元の世界に戻るという目的で一応ここまでやってきた。だけど、レスバは前の世界からの因縁をずっと引きずっているのよね。
リクと戦った記憶のある彼女はもちろん人間と戦っている。それは魔王の命令で、だ。
だけどその魔王が操られていて、まともな状態じゃないことに気づかず従い、人を殺し、魔族を殺され、泥沼の戦いが続いていた。
最終決戦で消えてこの世界に来てもまだそれは続き、そしてその理由が先日、明かされた。
あたしがレスバの立場なら同じことを考えるだろう。
【でも、わたしはカナ達が居たから旅そのものは楽しかったですよ。それだけは救いですね。本当ですよ】
「それは同じ気持ちね」
しかし、レスバはにっこりと笑ってそんなことを口にした。
まあ、エルフの森からここまでずっと一緒に寝食を共にしたからそれはそうだ。寝首を掻くなんてことも無かったし、今も謎の寝言をして抱き着いてきていたくらいで敵対の意思は全然感じられない。
「あたしもここで一緒に飛ばされたのがあんたで良かったわ。おかげでそこまで悲壮感は無かったもの。うるさいしレスバ」
【ふん、お互いさまってやつですよ。それにリクさんやフウタさん、ミズキも無事でいますよきっと。またみんなでキャンプでもしたいですね】
「……そうね。そのためには行動と行きましょう。ひとまず着替えも無いし、場所の把握と金策が先決かしら」
あたしが笑うとレスバは簀巻きから脱出してベッドの上に正座をして指を立てて話を続ける。
【ですね。わたし達もドワーフの国を攻めた者は居ないので、この世界がわたし達が旅した世界と同じではない可能性も考慮しないといけないかもしれません】
「こ、怖いことを言わないでよ……でも、そうか……渡り歩く者……」
渡り歩く者という存在は前の世界で暗躍し、こっちの世界に転移させて魔族と人間を争わせた。
で、あの島を拠点にして、見える範囲の国を支配して勢力を広げるつもりだった。それを五十年続けていて、各国に将軍を送っていた――
「よく続いたわよね、魔族は歳を取りにくいとしてもレスバは五十歳越えているわけでしょ?」
【そうですね。人間換算でピチピチの十九歳ですけど】
「嘘だあ。……ん?」
【どうしました?】
「いや、よく考えるとおかしいなって思ったのよ。いくら人間が多くても魔族……特にレムニティやブライクさん、メルルーサさんのような将軍は圧倒的に強いわよね」
【アキラス様のことも思い出してください】
レスバがハンカチを取り出してホロリと涙を流す。あたしは不機嫌な顔でそれに返す。
「あいつは迷惑をかけられたからいいのよ! それで、将軍が集まって一気に攻めればレッサーデビルを使うより早くいくつか国を落とせたんじゃないかなって」
【それは、その通りですね……これも魔王様の宣言で各国を攻めろって通達でしたが、それが渡り歩く者だったと】
「うん。そこがよく分からないのよね。前の世界も魔族のために世界を征服するという目的だったみたいだけど、やり方がまどろっこしいの」
まるで侵攻をわざと遅らせているといった印象を受ける。
これはブライクさんとビカライアが加わった時に思ったけど、前に魔族は仲が悪いから手柄を独り占めしたいとレスバが語っていたこととは異なるなと感じていた。
誰かに「そういう風になるよう唆されている」のではと。
【確かに……】
「物分かりのいいブライクさんとメルルーサさんが特殊なのかもしれないけど、レムニティも話しは通じそうだったもの。アキラスとグラジールはちょっとアレだったけどさ」
【不仲を装う……渡り歩く者が企んだことかもしれません】
「それでも、魔族が不利になる行動をしているのはわからないけどね。さて、推測はこれくらいにして出かけようか。路銀は全部無くなっちゃったしギルドに行かないと」
【ご飯……】
そこでお金がないことをレスバに伝えて立ち上がる。するとへにょっとした顔でレスバがお腹を押さえていた。
先立つもの欲しいし、情報も欲しい。
リクとの旅で彼がやってくれていたことは本当に助かることだったのだと、こういう状況になってよく分かるわね……
「おばさんありがと! 馬はもう少し預かっててもらっていい?」
「あら、おはよう。水くらいしかやれないけど預かってあげるよ。金策、頑張りなよ!」
【助かります! では行きましょうカナ】
荷物をまとめて部屋を出る。
昨日、チェックインした時と同じドワーフの女性が受付に立っており、挨拶を交わしてチェックアウトを済ませて外へ。
「ソアラ、朝ごはんはもうちょっと待ってね」
【行ってきます!】
厩舎に寄って顔だけ見せておき、ギルドへ向かう。ソアラは『お気をつけて』と言った感じで顔を上げて見送ってくれた。
そのままレスバと一緒に町へ繰り出すと、夜では見れなかった光景が目に入ってくる。
「おおー、ドワーフばっかり」
【やはりそういう国なのでしょう。ギルドの場所は宿の女将さんから聞いてきました。こっちです】
「聞いてくれたのね、ありがとレスバ♪」
【情報は生きていくうえで重要だとリクさんも言っていたでしょう。ご飯を食べるため頑張りましょう!】
先に外に出ていたあたしの代わりに聞いてくれていたらしい。そういうのも自分でやらないといけないことを悟り、今まで旅は本当にイージーモードだったのだと思う。
今の件を反省しながら、二人で周囲を確認しながら町を歩いて行く。
「あら、人間? 珍しいわね……」
「何しに来たのかしら?」
ドワーフはあたし達を見てひそひそと話をしていた。とはいえ悪感情は見えず『どうしてこんなところに』という困惑の方が強かった。
【そういえば他種族とはすれ違いませんね】
「どういう国なのかしら……あ、ここ?」
【ええ。入りましょう】
レスバが先に立って入り、後からついていく。建物はもちろ他のギルドと変わらない印象だ。だけど、鉄の匂いや煤汚れといった独特の雰囲気があった。
装備で身を固めた冒険者の姿も見えるが、どの人も背が低い。さらにガチガチの装備で兜も完璧に急所をガードできるものをつけていた。
「おー? 人間の嬢ちゃん?」
「珍しいを通り越してレアだな。どうしたんだ?」
そこで身長よりも大きな斧を担いだドワーフに話しかけられた。気さくな感じだったので、ちょっと話を聞いてみるかと対応することにした。
「ちょっと道に迷っちゃって。お金も無いから依頼を受けたいんだけど……なにかあるかしら?」
「ほほ、そうかそうか! それは大変……って道に迷った!?」
「え?」
【ん?】
道に迷ったという言葉でかなり驚いていた。どういうことかしら?
あたしとレスバは顔を見合わせて首を傾げ、彼等の言葉を待つことにした。
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