第45話 始祖の気まぐれ
アフロディナが再度指を鳴らす。それによって、フレデリカの聴覚が戻ったと同時に、
「今宵の小娘の世話は貴様らに任せる。」
ハンモックの上からの声が聞こえる。
「私は少し外出するが…羽目を外し過ぎるなよ。」
笑いを抑えた様に家の主はハンモックの上からそう言って、姿を消した。
「モンモーモル魔法協会…いえ、モンモーモル大陸の支配者たち全てが代替りね…」
セラフィマがそう呟き、フレデリカに顔を向ける。
「さて、お師匠様の仰せの通り、一通り世話をするわ、メヌエール・ド・サン・フレデリカ…新たな私たちの妹。」
ふっ、と微笑み、セラフィマはヒルメに目で合図する。
ゆっくりと頷いたヒルメは、自らの影に縛り上げられているサロメの前に立つ。
一瞬の閃光。
チン、とヒルメの白刃が鞘に仕舞われたのだとフレデリカは理解した。
「ブヘェッ!!」
影が切られたサロメは受け身をとれずに顔から床に落ち、変な声を漏らす。
「流石お師匠様の魔法です…疲れました。」
ヒルメは額に汗を浮べ、片膝をついて小さく言う。
そんなヒルメに、セラフィマは言葉を返す。
「手加減された魔法でこれよ…私たちのお師匠様は。」
その言葉は、自分に言われたのだとフレデリカは思った。
「伝説の聖地地『シラクサ』、そんな伝説よりも遥かに凄いわよ、ここは…」
セラフィマはフレデリカを導きながらそう言葉を漏らす。
開けられた扉の先にフレデリカは一歩踏み出した。
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「愉快な会議の結果、貴様はどうするのだ…小僧?」
不愉快な会議を終え、モンモーモル魔法協会の本部、その会長執務室で武装を整えていたアンセルムの目に銀色の長い髪が横切り、そう問う。
数百年と生きた『果て』の魔導士であるアンセルムを『小僧』呼ばわり出来る人物は限られている。
「どうするか?見りゃぁ分かんだろ、始祖様よぉ…」
そんな限られた人物の中でもとびっきりの存在に、死を覚悟した男の姿で示す。
「貴様に私は殺せぬか…」
そんな自身の提示した答えに始祖は溜息を漏らす様に言う。
「一瞬…ほんの一瞬だけだがその可能性を考えた。だが、アンタを見た時を思い出して、絶対に不可能だと判断したし、今、それが間違いでなかったと確信してる。」
アンセルムを見下ろす様に宙に腰掛ける始祖と称される空想上であった筈の伝説の魔女にそう答える。
「非常に残念だ…」
始祖はそう笑い、何も無い筈の空間から酒瓶を取り出す。
それをグイッと一息に飲み干し、アンセルムに告げる。
「小僧…貴様は私を失望させた。故に罰を与えてやる。」
その一言と同時に放たれた圧倒的な魔力に、アンセルムの意識が刈り取られた。
『最果て』の先、『終わり』を望む魔女 まるまるくまぐま @marumaru_kumaguma
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