第44話 汚部屋
「聖地シラクサ…」
実在したという驚きと、その聖地がここなのだという驚き、そして、その地に自分が立っているという歓喜で、フレデリカはそれ以上の言葉が出ない。
全ての魔法書が収蔵された天に届く塔。
そんな伝説通り、どこまで続くのか分からない程伸びる、目視では確認出来ない天井。
魔法の全てが手に入る場所。無数の魔導書をフレデリカはうっとりと見つめていた。
「確かに、ここは俗にいう聖地シラクサよ。」
フレデリカの前にセラフィマが立ちそう言う。
「私の家を勝手に聖地扱いするな。私がそのように言ったことなど一度もない。」
不機嫌そうな声がハンモックの上から聞こえる。
「と、いうように、シラクサは想像上の伝説。現実はお師匠様のご自宅よ。…こここそが伝説を超えた本当の聖地。」
セラフィマの言葉。
伝説では、アフロディナの存在する場所が『シラクサ』であるので、その解釈は間違っていない。
「ここが聖地ねぇ…」
しかし、足の踏み場もない程物が散乱した室内を見て、フレデリカは疑惑の目を向けたのであった。
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「汚いし、整理整頓って言葉が存在しないけど、ここが魔法使いの聖地であるのは間違いないわよ。」
ゴチャゴチャと散乱する本や脱ぎ捨てられた衣服に雑貨、その他様々な物に埋め尽くされた部屋を冷たい目で見ながら、セラフィマは溜息混じりに言った。
「汚くなどない!!片付いているんだ!!私はどこになにがあるか掌握している。何万回と言っているが、これが私にとって最もベストな配置なのだ!!」
ハンモックの上から不愉快そうに発せられる声。
「と、いうように、片付けは全く出来ないダラしない人だけど、紛うことなき最強の魔女よ。」
脱ぎ散らかされた下着を摘み、セラフィマは言う。
その大人な下着をハイライトの消えた瞳で見ながら、フレデリカは呟く。
「ダメな大人じゃない…」
潔癖に近い程の綺麗好きなフレデリカには赦し難い現実だった。
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「始祖が実在し、再臨しただと?しかも、その始祖が『最果て』3人の師というのか!?」
モンモーモル魔法協会の会長、『果て』の魔導士アンセルム・ノルドクヴィストを糾弾する声。
「だから、そう言ってんだろ!!あんたら政治家には理解出来ないだろうが、あれは間違いねぇ、本物だ。」
何故ありのままの事実を伝えただけなのに、千と数百年も年下の肥え太った政治家に、『果て』に到った自分が責められなければならないのか…
アンセルムは頭に血が上るのを感じながら、拳を握りしめて答える。
「ふんっ!本物か…忌々しきコートヴァの『最果て』、売女のセラフィマにも及ばぬ君が言うのだから、きっとそうなのだろうな。」
魔法使いという存在を見下した政治家の言葉とその表情。
アンセルムの握り締めた拳から血が滴る。
「しかし、始祖がなんだというのだ?しょせん一人。我らモンモーモルの力をもってすれば、恐れるに値しないだろ。」
特に肥え太った男の声に、賛同する肥え太った政治家たち。
「ただ長く生きただけ…情けない魔法協会の会長を、我らが助けてやろうではないか!!」
盛大に起こる賛同の声と笑い声を背にアンセルムは退出する。
「情けねぇ…愛した国を国民が滅ぼすとはなぁ…」
煙草に火を付け、煙を吐きながら呟くアンセルム。
「俺も
幾人も先立った顔を思い浮かべる。
間違いなく、あの無能な連中は争いを起こす。
しかも、決して人が触れてはならない次元の相手に対して。
愛する祖国の為、吸い終わった煙草の吸い殻を魔法で燃やしながら、アンセルムは誓う。
「どうせ死ぬなら、国の…いや、モンモーモルの為にだ…」
有事となった際に自身のやるべきことを整理し始めた。
誇りや価値観を全て捨て去って。
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「私が良いと言っているのだから、どうでもよかろう…」
圧倒的な魔力を放出しながら、不機嫌さを隠さずに言うハンモックの上のアフロディナ。
その言葉と同時に、セラフィマとヒルメが跪く。(今だに影に縛られているサロメは目を瞑っている。)
「貴様は聞く必要はないな。」
アフロディナが指を鳴らすと同時に、フレデリカの聴覚が消え去り、身動が取れなくなる。
ハンモックの上から伝えられた言葉。
何を言っているのか、フレデリカには全く分からない。
しかし、『最果て』の3人が深く頷いたのを見て、何かが始まるというのだけは分かった。
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「久方ぶりだが、私が解決する。」
現状と各員に指示を下した後、アフロディナは3人の弟子たちにそう告げる。
「「「師の仰せのままに。」」」
頭を垂れる3人の『最果て』。
自ら大ぴらに動くことをやめた師が、動く。
その喜びと同時に、『終わり』が近いことw知る。
「手っ取り早く、大陸ごと消すか…」
「やめて下さい!!」
大きく欠伸をしても起き上がった師に、セラフィマは本気で怒鳴った。
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