異世界を救えと神に派遣されたがただのモブでした
@morukaaa37
第1話 左遷
上司の女神様は、額に青筋を立てながら、オレの目の前に座っていた。
ちなみにオレも座っている。女神様とは違って地面に正座だが。
突然呼ばれ「ここに座れ」と言われてから、数分間この状態である。
そろそろ気まずい雰囲気があたりを包んでいた。
てか、なんで呼ばれたんだろうオレ。いや、思い当たる節はありまくるんだけど
「私が何故お前を呼んだかわかるか?」
「…え、全然」
ようやく発せられた言葉に素知らぬ顔でそう答えると、女神様の眉がヒクッと上がるのが分かった。 あれ、地雷踏んだかな?
「私は下界に逃げた悪魔を捕らえて連れてこいと言ったはずだよな。何故、お前は一年たっても悪魔を連れてこない」
悪魔という言葉にオレは一瞬冷や汗をかくが、すぐに平静を装いこう答える。
「いや、あれ、神様達が封印ミスったからってオレに押し付けてきたやつじゃん。そっち側の不手際だろ」
オレの言葉に女神様が一瞬言葉に詰まったのが分かった。責任転嫁最高!相手に負い目があるとすごい効くし!
だが流石は女神、すぐに落ち着くと厳かな表情でオレの方を睨んできた。
「それは、私たちも申し訳なく思っている……だが、それとこれとでは話が別だ。何故お前は、捕まえた悪魔をこちらに引き渡さない。お前が既に悪魔を捕らえていることは伝わっているぞ」
女神様に訝しげな目で見られ、オレは更にまずいなと思考する。
確かに、オレは悪魔を既に捕まえていた。ぶっちゃけ言えば、下界に降りて1時間ぐらいで捕まえた。悪魔って気配がビンビンだから分かりやすいし。見つければこっちのもんだぜ。
まあ、捕まえれたのはいいんだけど、下界に降りてから一年ぐらい経った今、オレは悪魔を返すことなどすっかり頭に残っていなかった。
何故かって?それはな────言いたくない!
「ちなみに、こんな映像も届けられている」
黙っているオレを見かねたのか、女神様の言葉に続き、オレの目の前に映像が現れた。そこには、裸の状態でアレなことをしているオレと黒髪の少女の姿があった。エロい。
「あぁぁぁ!!それは色々とダメ!ぷ、プライバシーの侵害!」
オレは相手が上司だということも忘れ、そう叫ぶ。だが、女神様は青筋を更に強く浮かべながら、大魔王さながらの迫力でオレの方を睨んでいた。
「黙れ。この1年間何をしてるかと思えば、女といちゃついていたとはな。しかもこの女、例の悪魔だろ?仮にも天使のお前が悪魔と性行為とは私たちを舐めてるのか?自分の口から言うか試したが、やはり誤魔化そうとするとは、神を舐めるのもいい加減にしろ。それで、何か文句はあるか?おい、どうなんだ」
なまじ顔つきが綺麗なのだけに、怒るとかなり怖い。いや、マジで怖い。なんたって、世界の創造主。オレを消すくらいわけないらしい。
「い、いえ、オレが悪かったです。マジでごめんなさい悪魔は今すぐ返します」
余計なことは言わない。冗談の一つでも言えばオレの首が飛ぶ……物理的に。
オレが深々と土下座をしていると、頭の上に足を置かれたのが分かった。足の裏の感触がいやに舐めまかしい。
屈辱っ……でも甘んじて受け入れるしかないっ……オレが悪いんだっ(歓喜)
「はあ……。なあ、クロ。私はこれでも、お前を評価しているつもりだ。元人間の割には使える奴だと。だがな、こうも残念なことをされると、天使をやめさせようかと考えてしまうんだよ。なあ、私はどうしたらいいんだ。不出来な部下の首を切った方がいいのかな」
女神様の足がオレの首の裏におくられる。お仕置きプレイを楽しんでいたけどそんな余裕ないね!やだ、僕まだ死にたくない!許して!
「……まあ、いい。悪魔を無力化はしているようだから、別の天使に回収へ向かわせた。それと、この映像はお前の同僚に拡散されているから、それが今回のお前への罰ということでいいだろう」
「えー、いやそれは………あ、ありがとうございます」
頭を強く踏みつけられ、オレは慌てて言葉を変える。怖えぇ、この神様。全然癒されねぇよー、どの顔で人類の救世主名乗ってんだよー
オレが頭の中で愚痴っていると、頭にかけられた重圧がなくなるのが分かった。女神様が足をどけてくれたらしい。ありがとう女神様!
女神様は、オレに顔をあげるように指示する。
女神様の顔を窺うと、呆れた顔でオレを眺めていた。
「まったく、無駄な時間を過ごさせた。これからお前にはキリキリ働いてもらうから、覚悟しろ」
「ええ、マジかよ……」
「ん〜、なんだ?不満でもあるのか?」
女神のスマイルなのにちょー怖い。なにこれ、悪魔じゃん。あの子は小悪魔って感じですごく可愛かったのにな……こっちの方がよっぽど悪魔だ
「いや、不満っていうか。いつも同じことばっかしてると飽きるというか。たまには変わり映えのあることもしたいなと」
「なんだそれは。悪魔との過ちへの言い訳か?」
ジト目でこちらを見てくる女神様。
「いや、違うます!女神様だって何千何万って時間を過ごしてるんですからオレの気持ちもわかりますよね!」
オレの叫びは少しは女神様の心に響いたらしい。女神様は、「ほう」と片眉を上げ何かを考えているようだった。オレは、なにを言い出すのかと冷や冷やである。
……てか、改めて見るとやっぱ女神様の顔面レベル高いなぁ、性格がアレだから普段は意識しないけど、黙ってたらただの美女じゃん。変なオーラ出てる、おっぱい揉みたい
何やら考え込んでいる女神様の顔を見ながら、黙ってそんなことを考えていると、女神様が怪訝な表情を浮かべてこちらを睨んできた。
「おい、私の顔に何か文句でもあるのか」
「え?い、いや、なんでもないですけど」
「ほんとかぁ?例の悪魔の女と比べてたんじゃないか?」
「いやいや、まじホントなんでもないんでその拳を下ろしてください。むしろ綺麗だなと思ってたぐらいなんで」
オレが慌てて両手を振りそう答えると、女神様はキョトンとした顔をした後、ハッとしたようにオレを睨んできた。
「ちっ、この女たらしが。そんな安い言葉で私を落とせると思うなよ」
「いや、思うわけ……こんな分かりやすい地雷、流石のオレも踏まな────ちょっ!!」
オレの頬を拳が光速で吹き抜けていった。肌からつらっと血が流れたのが分かる。
ええ…当たってないのにこれかよ……怖いよぉ、やっぱ地雷だよぉ
「誰が地雷だって?」
「あはははははははは、可愛い部下の冗談だよなぁ。冗談ですよ?いや、ほんとまじ信じて下さい。これ天使ジョーク、オーケー?」
話が通じない相手には言語を変えるのが一番だ。
「ノーオーケー」
オレの腹に衝撃が走った。無駄に身体が硬いので腹の中が震度レベル8である。
やっぱ許されないか、知ってた
「おえっ……気持ち悪い。天使なのに吐きそう……」
「ふん、私の蹴りを受けてその程度という方がおかしいがな。無駄に丈夫な体に感謝するといい」
体をくの字に曲げ苦悶するオレの頭を、女神様はまた踏みつける。
あー、もうとりあえず逃げてぇ。どうしよう、仕事に逃げるとか社畜みたいで嫌だけど、この状況から逃げられるならなんでもいい気がしてきた。
「おい、クロ。いつまで寝そべってるつもりだ。さっさと顔を上げろ。ほら、どうした。地雷女の足にすら負けるのかお前は」
くそ、この女ねちっこい。やっぱ、地雷だよ。面倒くさいところがそっくりだ。
「すみません……謝るんで、そろそろ足を退けて貰えるとありがたいです……ほんと、仕事頑張りますんで勘弁してください」
オレの言葉に女神様は黙ってオレの頭をぐりぐりと踏みつける。ペン回しと同じ感覚で人の頭を踏まないでほしい。
「ふむ、そうだな。仕事を頑張ることはいいことだ。存分に励め」
「はい、なので足を────」
女神様の言葉にオレは続こうとすると、女神様に顔を蹴り上げられた。
「っっ───いきなり何を…!」
すぐに文句を言おうとするオレだったが、突然顎を手に取られ強制的に女神様と目を合わせられる。
え、なに!?キスされんの!?歓迎します!
「なあ、クロ。さっき仕事に変わり映えがないと寂しいと言っていたな」
オレの予想とは裏腹に、女神様は不敵な笑みを浮かべこちらを伺っている。
「いや、飽きると言っただけで別に寂しい
とは─────」
「言っていたな?」「はい言いましたすみませんっ」
オレが頷いたのを確認すると、女神様は椅子を降りてオレに顔を近づけてくる。女神様の長い黒髪がオレの頬にかかるのが分かった。
「それでは、君に面白い仕事を与えよう」
不敵に笑う女神様の瞳は嗜虐的に光っている。これはまずいやつだとオレの脳内警報が音を立てていた。
「すみません、面白い仕事は他のやつにでも与えてやってください!オレはいつもので────」
「固いこと言うな、クロ。私とお前の仲だろ」
オレは一ミリも女神様と特別な関係でいた覚えはないが、これ以上反抗するなと顎を掴む手の圧力が如実に伝えてくるので反論などできるはずがない。
「オレに、なにしろって言うんです」
不安に満ちた声でそう言葉を繋げると、女神様は楽しそうに口を歪めながら、こう言った。
「異世界転生して主人公を助けてこい」
束の間の静寂。
オレはこの短い台詞をゆっくり噛み砕き、とりあえず一番気になったことを聞くことにする。
「主人公ってなに?」
「知るか」
端的かつ適当に答えられた。オレが不満の目を送ると、女神様は顎から手を外し説明を始めた。
「君が言っただろ。女神様も同じ時間の繰り返しで退屈じゃありませんかって。その質問に答えよう。イェスだ。私たちはとても退屈している。君のように性行為が出来るわけではないからな」
「……皮肉ダル」
「黙れ。まあとにかくだ。私たちが退屈しないためにはどうするべきか。やはり何か娯楽があった方がいい。つまるところ、下界の様子を観察することだ。人間の生き様は見ていて楽しいものがあるからな」
「まあ、分かりましたけど。それと、俺が転生するのに何の関係があるんだよ」
オレの至極もっともな質問に、女神様は一瞬だけ視線を逸らした。
その仕草がもう嫌な予感しかしない。
「……実はな」
女神様は一度咳払いをしてから、妙に事務的な口調で語り始めた。
「この世界の創造主は、私一人ではない」
「知ってます。なんか偉そうなのがいっぱいいるんでしょ」
「次は顔だぞ」
即座に蹴りそうになったのを、女神様はぐっと堪えたらしい。大人だなあ。
「全部で十二柱。私を含めた創造主が、それぞれ管理している下界が存在する」
「へー」
「そしてな、困ったことに」
女神様は指を一本立てる。
「現在、そのうち十一の世界に魔王が存在している」
「……多くね?」
「多い」
即答だった。創造主でもそこは認めるらしい。
「魔王がいる世界には、決まって勇者が現れる」
「テンプレだな」
「テンプレだ」
女神様は不満そうに頷いた。
「そして勇者には、補佐役が必要になる。知恵を与え、時に導き、時に尻を叩く存在がな」
「……それ、もしかして」
「そうだ」
女神様は、美しい顔に嫌な笑みを浮かべる。
「天使だ」
オレは嫌な汗をかいた。
「ちょっと待て。おい、それって」
「各世界に一人ずつ天使を送り込み、勇者を魔王討伐まで導かせる」
「オレがその一人?」
「正解だ、クロ」
全然嬉しくない正解だった。女神様のさっきまでのイライラした表情がニヤニヤに変わっている。美女に虐められるのは嫌いじゃないが、面倒ごとは大嫌いだ。
「いやいやいや!十一人も天使いるなら、別にオレじゃなくていいだろ!」
「残念だが」
女神様は、どこか楽しそうに肩をすくめる。
「問題を起こした天使が、他にも何人かいてな」
「仲間がいたのかよ」
「ちょうどいいだろ?」
まさかの人材整理だった。
「それでだ」
女神様は、さも当然のように次の爆弾を投下する。
「各世界で魔王が倒された後、勇者たちを集める」
「……集めて?」
「勇者同士で最強決定戦をさせる」
沈黙。
「……は?」
「聞こえなかったか?最強決定戦だ」
「なんで!?」
「暇だからだ」
即答すぎるだろ。
どんだけ暇なんだよ。
「まあ聞け。創造主同士で賭けをするんだが」
「サイコロでも振っとけよ」
「自分の世界の勇者が勝った創造主は、負けた創造主になんでも言うことを聞かせられる」
女神様の目が、楽しそうに細められた。
「今まで案としてはあったが、実行はしていなかった」
「でしょうね。今からでもやめません?」
「だがな」
女神様は、オレの顎を掴み、強引に視線を合わせてくる。
「問題児の天使が複数名出た」
「……」
「そして、お前が最後に背中を押した」
あ、これ完全にオレが引き金だ。
「ちょうどいい。開催しよう、と今私が決めたわけだ」
おい、俺原因かよ。他の天使ども何してんだよ。天使が悪いことしちゃダメだろ。仕事舐めてんのか。
女神様は満足そうに頷いた。
「というわけでだ、クロ」
「ちょ、ちょっと待っ」
「お前は下界へ行き、勇者を補佐し、魔王を倒させろ」
さっきから、この女神、俺の言葉をフル無視してやがる。未来への不安にストレスで胃がムカムカする。でも、殴れない。理由は怖いから!!
俺は怒りをエネルギーに、必死に首を横に振った。
「無理無理無理!絶対ロクなことにならない!」
「安心しろ」
「何を!?」
「お前が死んでも、魂は回収する」
「そこじゃねぇ!」
女神様は立ち上がり、見下ろすようにオレを見る。
「一応言うが拒否権はないからな」
「パワハラだ!こんなの許されていいはずがない!」
「お前自分がどの立場なのかもう忘れたのか?成功すれば、罰は軽減してやろう」
「失敗したら?」
「考えたくないな」
笑顔で言うな。
オレは床に座り込んだまま、天井を仰いだ。
「……はあ。分かりましたよ。行きます。行きますよ。行けばいいんでしょ。」
「分かっているじゃないか」
「勇者、どんな奴なんだよ」
「それは行ってからのお楽しみだ」
可愛い女の子だったらいいな。転生するってことは、人間になるってことだろ。ってことはそういうことだよな。うん。なんか楽しくなってきたぞ、
女神様は満足そうに手を叩く。
「では準備に入れ。転生手続きは私がやる」
「よろしくお願いします」
「む、やけに素直になったな」
「いや、そんなことないですけど」
訝しげな表情が目の端に映るが、気にしない。
「まあいいだろう。お前の行動は監視されてる。変なこと考えても無駄だぞ。」
「やだな。変なことってどんなことですか」
「女神の口から何を言わせる気だ?」
トドメの一発が頭上から落ちてきた。
踵落としっ。
「なんなんだよ!もう、早く行かせてくれよ!下界の方が俺に優しかった!」
「なんだその言い草は。私に蹴られなんて感謝してもいいぐらいだぞ。」
「どんな自己評価だよ!」
「ふん。そんなに早く行きたいなら行かせてやる!ほら、さっさと行ってこい!」
「え、ちょ、まだ心の準─────」
女神様の手が急に光ったと思うと俺の視界がぼやけ始めた。
「あ、言い忘れていたが、勇者に会うまでお前の力は封じられることになっている。だから、勇者に会えば自然と気づくはずだ。それまで死なないよう気をつけることだな」
「え、それめっちゃ大事なこ」
「ではクロ。またな」
俺はこの時の女神の顔を一生忘れないだろう。
消えていく意識の中、俺はそう思った。
異世界を救えと神に派遣されたがただのモブでした @morukaaa37
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