第452話 王国騎士たちとの戦闘

 俺たちを取り囲む、二十人近い数の王国騎士たちが、一斉に襲い掛かってきた。


 四方八方から掛かってくるが、完全に均等に散らばっているわけでもない。


 一定程度、敵が固まっているところはあるわけで──

 となれば、うちの後輩の餌食だ。


「くくくっ、邪悪な王国騎士たちよ、真なる闇の力を思い知るがいいっす。ほとばしれ、漆黒のいかずち──【ダークサンダー】!」


 小柄な魔導士姿から発せられる愛らしい声とは裏腹に、激しくとどろく爆音。


 無数の闇色の稲妻が、騎士たちが固まっていた一帯へと降り注いだ。


 悲鳴とともに、効果範囲内にいた四人の王国騎士が、バタバタと倒れていく。


「は……? な、なんだあの魔法は。闇魔法か?」

「一撃で全員やられた!? どうなってやがる!?」


 驚きの声が、王国騎士たちから聞こえてくる。

 二十人近くいた敵戦力は、たった一発の魔法攻撃でその二割以上が失われていた。


「クソッ、何だか分からねぇが、あの魔導士姿のガキはヤベェぞ」

「あいつから先に片付けろ!」


 それを見た王国騎士たちが、弓月のほうへと多くの戦力を向ける。


「ヒッ、ヒィッ……! うちが一番の雑魚だって気付かれたっすよ!」


 後輩は三下のような悲鳴をあげて、怯えた素振りを見せた。


 でも実際、それは少しまずいんだよな。

 俺と風音だけでは全方位をカバーすることはできないし、弓月の白兵戦闘能力は心もとない。


 レベル差があるから、すぐにやられることはないと思うが、それでも何かしらの対策は講じてやりたいところだ。


 俺も魔法発動の準備は済んでいる。

 どの魔法を使うか。


 攻撃魔法の威力は、弓月のそれには遠く及ばない。

 風音と協力しても、範囲攻撃魔法で何人もの熟練覚醒者を一掃できるとは思えない。


【エリアプロテクション】でもいいが──ここは敢えてのこっちか。


 俺は弓月のほうに向かおうとしていた一団めがけて、魔法を発動した。


「そこで止まっていろ──【アースハンド】!」


 弓月のほうに向かっていた四人の周辺、足元の地面が魔法の輝きに包まれる。


 次の瞬間、地面から出てきた無数の「土の手」が、男たちの足を掴んだ。


「なっ……!?」

「なんだこれは!?」

「クソッ……! う、動けねぇ……!」


 土の手に両足を掴まれた男たちは、その場から移動できなくなった。

 これであの四人は、弓月に近接戦を仕掛けることができない。


【アースハンド】は51レベル段階でスキルリストに出てきた魔法だ。

 見ての通り、範囲対象への移動阻害効果を持つ。


 だいぶ前に修得はしていたのだが、ようやく日の目を見ることができたな。


「おおーっ、大地くんやるぅ。私はそんな芸はないから、【エリアクイックネス】!」


 さらに風音が、補助魔法をかける。

 味方全員の敏捷力がまとめて強化された。


「今度は【クイックネス】の範囲掛けだと!?」

「なんだこいつら、知らねぇ魔法ばっかり」

「構うな! ヤっちまえば一緒だ!」

「応よ。芸達者だからって、調子に乗ってんじゃねぇぞガキどもが!」


 残る王国騎士たちは、怯んだ者もいたものの、その多くは構わずに攻撃を仕掛けてきた。


 俺には三人が、剣、槍、斧で同時に襲ってくる。


 剣使いが通常攻撃、槍使いと斧使いが武器にスキルの輝きをまとわせる。


「おらあっ!」

「くらいやがれ、【二段突き】!」

「くたばれやぁっ、【強撃】!」


 襲い掛かってくる三人の覚醒者。


 俺は、コンマ一秒を刻む時間感覚の中で、状況を慎重に見極める。


 特に防御の必要があるのは──【強撃】持ちの斧使いか。

 俺は斧使いの攻撃を盾で防御し、ほかの二人の攻撃は当たるに任せた。


 ──ガガガンッ!


「「「は……?」」」


 王国騎士たち三人の、何が起こったのか分からないという呆然とした声。


 いずれの攻撃も、俺の防御を貫通することはなかった。

 ダメージは体感で0。


 慌てて跳び退る三人。


 そのうちの一人、斧使いに、俺は追いすがって反撃を仕掛ける。


「こっちの番だ──【三連衝】!」

「ぐわぁーっ!」


 神槍による三連撃を受けたそいつは、もちろん一手でノックアウトだ。

 白目をむいて、どさりと地面に倒れ伏す。


「なっ……!? こっちも一撃だと!?」

「お、おいおい、どうなってやがる!? ダメージも通った感じがねぇぞ!」


 慌てふためく残りの二人。

 そこに後続で二人、おかわりが現れた。


「バカ野郎! 三人がかりで何やってやがるお前ら」

「で、でもよ! なんかおかしいんだってこいつ!」

「うるせぇ! なら四人で仕掛けるぞ!」

「死ねやゴラァアアアアアッ!」


 今度は四人掛かりだ。

 まあ俺のほうに敵が集中してくれるのは、楽でいいんだけどな。


 というわけで、その後も戦闘継続。

 このとき俺には、周囲を気にしながら戦う程度の余裕があった。


 風音と弓月のほうも大きな問題はなさそうだと確認しつつ、あらためて自分の戦いに専念する。


 その戦いはほとんど消化試合だった。

 何人で掛かってこようが、俺にダメージはほとんど通らない。


 一撃の威力が大きい【強撃】持ちは優先して倒したし、あとはチラホラ飛んでくる魔法攻撃で少しダメージを受けるぐらいだ。


 ノーダメージに戸惑う相手を、反撃で一人ずつ着実に仕留めていく。

 終盤は相手も戦意を喪失していたが、逃げようとした者も追いかけて丁寧に倒した。

 人質を取るとか、妙な動きをされても面倒だしな。


 俺が担当した敵を片付けた頃には、風音と弓月もそれぞれに、襲ってきた王国騎士たちを倒し終えていた。

 俺が【アースハンド】で足止めした四人も、弓月が魔法で一掃したようだ。


 つまり、動ける敵はもはや一人もいなかった。

 戦闘終了だ。


「「「イェーイ!」」」


 勝利を祝って、三人で手を打ち合わせる。

 退避させていたグリフも呼び寄せた。


「いやー、危ないところだったっす。先輩の援護がなかったら、火垂ちゃんなます切りにされちまうところだったっすよ」


「あの足止め、結構大きかったよね。一度に掛かってくる敵の数が減ったから、だいぶ対処がしやすくなった感じ。大地くんって地味な魔法の使い方、かなり上手じゃない?」


「それはあるっす。先輩は地味な魔法の使い方がうまいっす。さすが存在そのものが地味な先輩っす」


「お前は何かしら俺をディスらないと気が済まんのか」


「痛い痛い痛い痛いっ! 先輩、頭ぐりぐりはやめるっすよーっ!」


 その後、【エリアアースヒール】などを使って全員が受けたダメージを回復する。


「ふわぁああああっ……先輩の力に癒されるっす……」

「この傷が癒される感じ、気持ちいいよね……ああ、いい……」


 二人は何だか知らないが、傷が癒される心地よさに浸っているようだった。

 俺の治癒魔法はマッサージ器か何かかな?


 一方で、ずっと目を丸くしていたのは、襲われていた少女だった。


「す、すっげぇ……何が、どうなってんだ……?」


 呆然とした様子で俺たちのほうを見てくる。

 ちなみに風音が渡した毛布で、裸の身を包んでいた。


「だから言ったでしょ、私たち強いから、信じてって」


「あ、ああ……悪い、あたしが間違ってた……自分の目で見た今でも、あんまり信じられねぇけど……」


 しきりに首を傾げる少女。

 俺はそんな少女に、気になっていたことを問いかける。


「ところでキミ、ガヴィーノって人を知ってるか? 覚醒者で、金髪碧眼の真面目そうな男性らしいんだけど」


「って、そうだ! おいガヴィーノ、みんな、大丈夫か!?」


 少女は慌てた様子で、何人かの倒れた覚醒者の安否を確認しにいった。


 結果、彼女の仲間の命に別状はなかったよう。

 少女は大きく安堵の息をついたのだった。

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