百四十五話 新たなスタートは……

簡単なあらすじ『クボタさんはアルワヒネを引き留めようとします』




「あのさ、アルワヒネ……」


(やっぱり、まだ俺達と一緒にいてくれないだろうか……?)


この後にそう続けようとしていたのだが……

突然アルワヒネが草むらを飛び出し魔物達の元へと駆け出して行ってしまったので、それは言えず仕舞いに終わった。


そんな彼女はすぐさま魔物達に混ざって大乱闘を始める。


プチ男、エリマは突如として現れた植物少女の襲来に少し驚いているような様子だったが負けるワケにはいかないと思ったのか、すぐに応戦していた。


(ケロ太とルーはさっき彼女を見ているから驚かなかったのだろう)


……なるほど。

葉がひらひらしていたのは『混ざりたくて仕方が無い』という感情の表れだったのか。


俺は合点がいき、ただ一人草むらの中で何度も頷く。


「あー!!!

アルワヒネちゃん!!何処行ってたの!?」


その時、俺が今一番恐れている者の声が聞こえた。


勿論それはコルリスだ。


あーあ、飛び出したりなんてするから……反面教師には合掌し、俺は逃走の準備を始める。


「クボタさんも一緒だったんでしょ?何処にいるの?」


その途中、コルリスはそんな事をアルワヒネに尋ねていた。


ギクリ……

……!!いや、心配する必要は無いか。


例えアルワヒネが俺の居場所を吐いてしまったとしても、彼女の言葉を理解するには結構な時間が掛かるからな。その間に逃げれば大丈夫だ。


そう思っていた……

それを聞いたアルワヒネがすぐに今俺がいる、草むらの方を指差すまでは。


「ちょ!おま……!」


「そんな所に……!

あ、何処に行くんですかクボタさん!!逃しませんよ!!」


発見されてしまい、俺は急いで逃げ出した。


だがしかし、その先でこちらまで移動して来ていたのだろう、偶然日向ぼっこをしていたケロ太郎を見たコルリスが、クボタトシオを取り押さえるようアイツに指示を出した事で俺は捕獲され、逃走は呆気なくも失敗してしまうのであった。


「クボタさん?今日は皆を呼んで昇格のお祝いをするから何処にも行かないでって私言いましたよね?」


「待って……これには理由があって……」


ツッコミを入れたのがいけなかったかもしれない。

あれが無ければ逃げ切れていた、かも……




「へぇ……そんな事が。

……じゃあ今回だけは特別に許してあげます。今回だけですからね?」


俺が無断外出の理由を説明すると、コルリスは納得してくれたようで割に早く解放してくれた。


まあでも、その前に20分程は説教されていたんだけど……


漸く大地での正座を終え、痺れた足を伸ばす。

そんな俺を、大乱闘を終えたアルワヒネが小馬鹿にしたような表情で見つめていた。


コルリスの背後にて……

全く、自分は関係ないと思ってコイツは……


「何やってるの!アルワヒネちゃんもお説教だよ!!」


だが、コルリスは背中にも目があるかのようにすぐさま後ろにいたアルワヒネを捕捉すると、彼女にも説教を開始するのだった。


……ザマアミロ。

俺の感想は以上だ。


そうして説教が始まると、植物少女の顔はみるみる青ざめていった。まさか自分までもがそうされるとは思っていなかったのだろう。


それと、普段優しいコルリスから叱られるなんて事は初めてで驚愕している。というのもあるのかもしれないな。


「ブツブツブツブツ……!!

……まあ、今日はおめでたい日でもあるんだし、このくらいにします!


でもアルワヒネちゃん、今度から出掛ける時は行き先をちゃんと教えてね?


〝心配したんだよ?〟」


コルリスは最後にそう言い、アルワヒネへの説教を終える。


……だが、それが終わったと言うのにアルワヒネはその場を動かなかった。


見ればはっとしたような顔もしている。


……!

驚いているのだろうな。俺達にとって〝それ〟は当たり前の事だと言うのに。


その事に気付いた俺はまだ動かずにいるアルワヒネの肩に手を置き、彼女へとこう語り掛けた。


「アルワヒネ。やっと分かったか?


そうだ。皆お前の事をもう家族同然の存在だと思ってるんだよ。俺だってそうだし魔物達だって……コルリスがそうだったようにね。


だからあの子はお前に怒ったんだ。憎いからそうしたワケじゃない。心配だったんだよ……それが俺の魔物かどうかなんて関係無い。


だから……お前があんな理由でいなくなるなんて言ったら、皆止めると思う。いやきっとそうだ。俺だってそうするつもりだ。


……今からな。


アルワヒネ。今まですまなかった。

寂しい思いをさせちゃったな……謝るよ。


そんな俺が嫌になったのなら……それか、お前が本当に、心から元の場所に戻りたいって言うなら俺はもう止めない。


でも、そうじゃないのなら。

俺は……いや俺達は、ここにいて欲しいと思っている。


言う程、俺達まだそんなに強くはないだろ?

もっともっと戦いってものを教えて欲しいんだ……それに。


俺は家族の中にお前がいる、この『当たり前』をまだ手放したくは無いんだ……それが楽しくて仕方が無いからさ。


だから頼む。

これからも、俺達と一緒に…………あれ!?」


アルワヒネはまた大粒の涙を流していた。


溢れ出る雫を手で拭うも、堰を切ったようにそれは流れ続け、零れ落ちる……今の彼女は、まるで本物の子供のようであった。


だが、彼女は……


そのような状態でありながらも、何度も何度も頷く事だけは止めなかった。


気が付けば魔物達がアルワヒネと俺の周りに集まり始めている。皆、心配そうな表情をしていた……プチスライム達はどうなのか分からないが。


だがそのような目に晒されながらもそれを気にする事なく、俺は彼女を抱きしめた。


「大丈夫。いくらでもここにいたって良いんだ。

そうする事に意味も理由も、役目だって必要無い。


お前は、俺達の大切な家族なんだから」




新たなスタートは誰一人として欠ける事なく、皆で一緒に……


そう心に決めた俺が、そうする事が出来た瞬間であった。

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