第5話 別れ

 僕たちは応接室? に連れて来られました。

 団長様がおっしゃるには、一人一人を別室に呼ぶので待っていてほしい、とのこと。

 そして、誰が何番目に呼ばれるか、も教えられました。

 僕たちは奴隷ですが、ありがたいことに、騎士様が丁寧に呼びに来てくださるらしいです。

 肝心な僕が呼ばれる順番としては、最後になりました。




 順番を教えられたとき、周りの大人の奴隷は疑問を持った様子でも、特に何も言わなかったのですが、5番だけは騎士様に質問していました。

 

「すいません、騎士様。コイツは……、3番は見て通り、まだ子供なのですが……。最初に話さないのですか?」


 そんな5番の質問に、騎士様は困ったようにおっしゃいました。


「それが私たち騎士側も子供は早めに話した方がいいのでは、と提案したのですが……。騎士団長と宰相様曰く、少年の相談はかなりの時間を要すると思われるので、最後にして欲しいとの事です」

「そう、ですか……。わかりました」


 5番の表情は僕から見えなかったので分からないのですが、何故か5番の拳が震えていました。

 僕には、彼の反応の意味がよく分かりませんでした。




 そんなやり取りもありましたが、奴隷の皆は特に不満はないようです。

 順番に不満が出なかったのは、そもそもとして奴隷の数が多くないのも一つの要因でしょうか。

 

 僕たち奴隷には、それぞれ番号が振られています。

 例えば僕は3番ですが、この番号というのは最大で7番までしかありません。

 というのも、僕たちの番号は“遊び部屋”に呼ばれる順番でしかないからです。

 では、なぜ7番までかというと、一週間が七日間しかないのが原因だと思っています。

 つまり、一週間の始めは1番が、そして一週間の最後は7番が遊ばれるのです。

 でも、この番号はあまり意味をなしてなかったように思います。


 いつの間にか、遊び相手が遊びたいときに、順番に呼ばれるという規則に変わっていたからです。

 規則が変わった原因は、とある奴隷が人形のようになっていたからです。


 僕は詳しくは分からないのですが、これを“死”というらしいです。

 僕が見た“死”は瞳に光がなく、言葉も発さず、人形のようになっていた1番と2番です。


 遊び相手の方がおっしゃるには僕の両親だったらしいのですが、その時どんな感情を抱いたか詳しく覚えていません。

 ただ、人形が怖いものだと思ったと同時に、激しい感情を抱いたような気がします。

 それが何のかは未だに分かりません。


 誰かが遊びに耐えられず“死”を迎えると、外から奴隷を補充していたようです。

その時から日にちではなく、順番を表す名前になったような気がします。

 ちなみに、現在の欠番は4番と7番だそうです。

 なので、今回面談を受ける奴隷は、僕を含めて五人だけです。


 そうして、奴隷たちが一人一人と呼ばれていきました。


 まず始めに呼ばれたのが2番でした。

 彼女はとても我慢強い人だった印象があります。

 彼女が遊び部屋に連れていかれると、声を抑えようとした悲鳴が漏れて聞こえるぐらいでした。

 他の方は、大きな声で叫んでいたのを覚えています。


 彼女は相談に向かう前に、一言話していきました。


「最悪な場所で出会ったけれど、これからは自身の幸せの為に頑張りましょうね」


 奴隷の皆へ向けての言葉なのか、自分自身に向かって言ったのかは分かりませんが、そう言いました。

 そして、騎士様に連れていかれるのかと思いきや、僕に身体を向けて言いました。


「屋敷にいたときは何も出来なくてごめんなさい。耐えることで精いっぱいで、君に意識を向けられなかったわ。これからどうなるか分からないけど、将来何かあれば頼りなさい。何か助けられることがあるかもしれないから」


 そう言って、彼女は騎士様についていきました。




 次に呼ばれたのは6番でした。

 彼もまた我慢強かった方です。

 ただ、彼は2番とは違い、遊びの時は思いっきり叫んでいました。

 では、何が我慢強いのかというと、自室へ戻った時に感情を表に出さないのです。

 彼の部屋からはすすり泣く声も、自死を願う声も聞いたことがありません。


 彼も騎士様に連れられる前に言いました。


「2番のやつが何か言ってたから俺も言ってくわ。あんまり俺は感情を出すのは得意じゃねぇけど、今すごい嬉しいんだわ。やっと解放されるのかってよ。お前らも似たようなもんだろうけど、これからは幸せになりてぇな」


 そして、6番は僕に近づいて言いました。

 

「あんな中でよく生き残ったよな、お互い。俺もお前の助けになれなかったからよ。まぁ、なんだ、またいつか会ったら飯でも行こうや」

 

 彼は不器用にも朗らかに笑い、騎士様についていきました。




 次は5番でした。

 新人とはいえ、僕の中で一番関わりがあって、僕に意識を向けてくれた人でした。

 色んな話を聞かしてもらいました。

そして、それは僕を助けてくれたような気がします。


 彼は部屋に残っている僕と1番を見て言いました。


「まぁ、あん中ではいろいろあったが、まぁ、人生これからだからよ。お互い頑張ろうや」

 

 そんな事をぽつんと言ってしばらく経ったあと、騎士様が5番を呼びに来ました。

 5番は騎士様に一言何やら言って、僕に向かって来て言いました。


「お前が生き残っている姿を見て、俺は救われたからよ。なんかあれば頼りに来な。騎士様たちに、最初にどこ行くかは伝えるからよ。……じゃあな」


 5番は目に涙を溜めて、騎士様と共に部屋を出ていきました。




 部屋には僕と1番が残りました。

 彼はあまり印象に残っていません。

 ですが、彼はそこそこ古株で、遊び部屋に来るのは遅かったですが、一緒に仕事をしていたときは本当に丁寧で謙虚な印象だった気がします。

 ただ、遊び部屋に入ってからは少し不安定な様子でした。

騎士様に救出されてからは、落ち着いているような気がします。


 彼は5番が出ていき、数分ほど経ったあと、話し始めました。


「皆行きましたね。僕も少しすれば呼ばれるでしょう」


 つぶやくように1番は言いました。


「君は働いていた時も一生懸命で、仕事覚えも早く、賢かった。……あの部屋に入れられてから、君に意識を向けられなくてすみませんでした。一番年下の君は、もっと守られるべき存在のはずなのに……」


 彼はそう言って深く頭を下げました。

 そして、顔を上げると真剣な表情で言いました。


「これから君がどうなるかは分からない。これからも苦しい日々が続くのか、幸せに過ごせるのか……。どちらにせよ、いつか君と出会えたときに、君が心から笑えていることを願っているよ」


 彼は言い終わったのちに、柔らかく笑いました。

 そのあと、騎士様が1番を呼びに来られるのにそんなに時間はかかりませんでした。


 最後は、僕一人が部屋に残りました。


 僕はこれからどうなるのでしょうか。

 奴隷の皆は“幸せ”を求めているようでしたが、“幸せ”って何なのでしょうか。

 僕には何も分かりません。

 生まれながらの奴隷である僕は、何が幸せで何が不幸せなのかも分かりません。


 これまでの僕は不幸せだったのでしょうか。

 僕には分かりません。


 ……僕には、分かりません。

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