4
「キミ、悲しい?」
自身の精場へと乗り込んだ違反者に対して、サヤは優しい口調で話しかける。
「お前はどうだ」
同じことを考えていた同士に魑魅は悲しさを悟られないように大きな声で聞き返す。
「んー、望み通りの世界になったからいいかな」
「………何をした?」
「いえ何も?」
自身の望む世界。
そんな破壊と再生を繰り返した先に一体何があるのか。
たとえ二人の価値観が違えど、世界はこの世に一つしかないというのに。
水面に二人の姿が映る。
今度は闇ではなく、本当の姿が。
「キミは、魑魅だね」
「お前は、サヤだな」
決まり文句のような言葉を二人は相手へと放つ。
そこからすぐに臨戦体勢をとる。
サヤは素手を構えて。
魑魅は牒剣を構えて。
自然は消滅するわけではない。
再生を繰り返すのだ。
ガッ!
二人の拳がぶつかり合う。
その一撃だけでも波紋が生まれ、周囲へ影響を及ぼす。
だが戦いはこれから。
いつのまにか牒剣はどこかへいっているがそんなことはサヤの頭の中にはないように思えた。
拳のぶつかり合いが緩急合わせながら続く。
肉弾戦が続かないと思い難い状況であったが、
「再生と破壊。どっちが強いかな?」
サヤはそう叫び、自身の右目を掴んだ。
「……」
魑魅は黙りながら彼女を見つめる。
彼は両目で。
憐れみ深く。
「開花鎮子(かいほうちんし)」
そう言い放つと、サヤの周りに統一された花が咲き始める。
その花らは明るく、だが深く、彼女の周りを照らす。種類こそはわからないが、平和を求めるものであることは確か。
「キミたち、よろしくね」
「この花は……!」
「植えてあったはずなんだけどねえ」
クラ、アカが交互に同じことについて言及する。
「死者の花が蘇生することはあり得るという仮説が立ったな」
汚穢が徐につぶやく。
ニィ
サヤの唇が上向く。
「ちなみに言っておくね」
ジリ……
「これはまだ第一段階だよ」
ヒュン
ドン!
「ぐは」
その一声と共に、魑魅は飛んでいった。
腹を殴る音の後の、一発。
音が早くきているという以上事態。
「まだまだ」
バギィ!
「…………!!」
骨が折れる重い音。
彼の右腕は、使い物にならないものとなってしまった。
早すぎる蹂躙。
魑魅の心は、早くも折れかけていた。
「キミ、私の花達を殺したでしょ」
「……」
(結局、この花は何なんだよ……)
敵の出方が予想外、というよりかはうまいと言った方が適切か。
手数を見せる気配がない。
この花、段階、そして精場。
全てが彼の頭の中に響く。
そして導き出した答えは、口には出さない。
「もう終わり?」
「………なわけ」
魑魅は使い物にならない右腕を何とか上げて、人差し指を自身に向ける。
そして左腕の中指は、綺麗なほどに敵に向かって立てられていた。
微かな油断。
そして苛つき。
「キミ、死んでよ」
グチャぁ!!
先刻の予測の音。
(ここ)
ズバァン!!!!!!
「かは」
今度はサヤが血反吐を吐く。
何故だ?
一体どこから………
下を向いて気づいた。
その豊満な胸の間に一本の剣が刺さっていることに。
「ありがとう、牒剣」
ズボォと
剣が後ろから抜かれる。
そしてその血だらけの生き物は、宙を待った後、魑魅の隣へと据わった。
「…」
水面に自身の血が滴っていくのを、サヤはきつい表情で見つめる。
溶けていく自身の生、そして花開く目。
第二段階を、迎えようとする。
「……よし」
小さく歓喜の声を上げた後、魑魅は状況を整理する。
自身の覚醒、相手の能力、音の先行化、そして第二段階……
力量が届いていないことなど百も承知。
だが、戦わなければならない。
戻るためには。
「ふっふっふっふっ………」
不気味な笑い声が月の下で響く。
サヤの花は、開ききっていた。
「キミは、孤独を知ってる?」
優しい声。
だがまるで戦争中に人が人に話しかけられるかのようなか細い声。
どこまでも深く、だが底は低い。
パキパキパキ…………
地面から植物が際限なく目まぐるしい速度で生えてくる。
それらに統一性はなく、どれもかしこも人を傷つけるためにでいているような、だが綺麗な花。
まるで彼女の心情を表しているかのようなそれに、魑魅はビビりながらも剣を中に浮かせる。
刃先は青く、暗い。
「………ビビんな、ビビんな、ビビんな………」
自分に対して言い聞かせるためのことは、全て虚空を舞う。
だが彼の勇気となっているのも確か。
次第に剣は、赤く染まっていった。
「いいね、キミは」
「……」
「本物の友達がいて」
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