6

「起きた?」

……

カットラが起き、体を起こす。

恐怖の涙は影を薄めてはいるものの顔の引き攣りはそのまま。

それゆえの警戒心が、彼を奮い立たせた。

「…」

右手をスウッと何事もなかったかのように挙げようとすると、

「無駄、ここ、私の精場」

言われてみれば周りは黒。

奥行きも光も感じられない。

唯一感じるのは、二つの意識。

その手をカットラが窄めると、続いて威も起きた。

彼はもう観念したのか周りを一瞥した後立ち上がり、

「ここは何処ですか」

と見えない相手へ疑問を投げかけた。

「私の精場。二人ともよく寝てたからこんな暗いんだけど……」

パチンとクラが指を鳴らすと、周りの闇が晴れたのち三人が黒い床の上で浮き彫りになった。

怨の気配はしない。先程怖がっていた自らが嘘のようだったと二人が思うほど。

「改めて、クラだ。先ほども言ったと思うがここは私の精場。また極限状態のため広さは無限だ」

「極限……」

二人が首を傾げる。

「お前たちにも精場はあるだろう?まあそんな話は私よりアカの方が詳しい」

そう言いながらクラは二人に背を向け黒い地面に手を置く。

しばらくして出てきたのは、先刻二人が見た牛だった。

「ヒッ……」

「……」

カットラは声を上げ、威は口を閉じる。

だが両者にある感情は恐怖のみ。

「これ、二人ともさっき見たと思うんだけど。恐ろしいよね。顔についてたのは………まあ惡の塊ってことで」

「あの……」

「なんだい?」

「僕たちはなぜ、ここに連れてこられたのですか?」

「……………へ……………?」

「…」

「…」

「…」

………………

沈黙を破るものはいない。

誰もその答えを持っていないから。

「くそー、汚穢……」

「なにか」

「いえなにも」

威のツッコミに知らん顔をする。

「うーん」

混乱していたと思いきや今度は悩み始める。

クラはある意味での鬼才だった。

「あっ、じゃあこうしましょ」

先刻とはまた違った話づかい。

「…」

答えを待つ二人。

いつのまにか身構えてすらいた。

「あんたたち、もう行ってなさいよ」

「…は?」



ブン!



二人は、消えた。

汚穢の精場へと向かったのであろう。

だが精場へと残ったのは、クラだけではなかった。

一匹の怨。

それは先程の牛ではなく、龍のような風貌のもの。

墓靄のものとは瓜二つだ。

「なぜ、行かせた」

「あの子たち、可愛いよね」

「お前は感情の伝え方がなっとらん」

ぷいとそっぽを向いて龍は地面へとすぐに帰っていく。

「これだけは忠告しておくよ」

「ん?」

「本当のお前を見せない限り、子供たちとは壁があるままよ」

「…………努力はするよ」

完全に地面に帰った後、クラは地面へと跪いた。

「……難しいな、わからないよ」

一筋の涙が、闇へと消えた。

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