5

「では、行ってくる」

「ああ、行ってこい」

クラの出発を汚穢は手を振りながら見守る。

口には微笑。




「まだ……?」

殺した感触はあった。

雷で人を焼き焦がす感触というのは良いものではなかったが、悪くもなかった。

だが、まだ生きているというのか。

あの少年は。



恐る恐るカットラは軽い穴の空いた地面へと足をすすめる。

その左足で三歩目をすすめたその時。


パァン


「………!」

足からの出血。

その血は膝を通り、地面へと達する。

まるで戻りたがっているかのように。

「チッ」

右太ももの付け根を両手で抑えながらその場を後にする。

右足は痛みで動かすことができなくなった。

戦いの最中だというのに彼は弱々しく腰を下ろす。

近接への対応の悪さが身に染みる。

精場へと行ったとしてもそこは雨。

あの梟と少年のように、同情してくれる人など居ない。



そんな時、威は彼から距離をとり肩の梟をただ見つめていた。

「ありがと、枌」

「くるっぽー」

彼の攻撃のタネは簡単。

雷が天と地を結ぶその時、自身の上を枌が守り、下へはピストルを思いっきり投げ避雷針の役割を行わせる。

電導体だからこそできる芸当。

彼の銃がアルミニウムでできていてもできない。

そして行った行為はそれだけであるはずもなく、さらにその前に四発を地面へと打ち空洞を作っておく。

その空洞の中に、ダミーを貼っておいたもう一丁の銃を片方と一緒に新しいものを上にして投げ入れる。

下敷きになった残弾が残っていないものはそのままに、新銃は雷を通り抜ける。

そして元々掘ってあった穴へと単純な精を使い入れる。

そう、もう一丁は、アルミニウムで出来ていたのだった。

「機転が効いたな」

自身へ賛美の声を上げる。

混乱させた上攻撃を当てることができた。

あの盤面では最高の一手だったであろう。

だが彼がまだ生きていると言うのもまた事実。

さて、これからどうするか、と言ったところで












無怨が


響く。


何かが


降りる。


そして


怨が


叫ぶ。




ォォォォォォォォォォォォ…




汗が土へと垂れる。

その体、顔を硬直させたまま威は汗を垂らしていた。

自身の体温すらも感じない。

ただ、ただ、恐ろしい。

何かこの世に存在してはいけないようなものが降りたような感覚。

降隣だからこそわかる感覚。

精がなければ感じれない、感覚。

「ははっ………」

薄ら笑いをあげてみる。

その頬は引き攣っており、きれいな童顔を醜くする。

自信を落ち着かせようという行動が、さらに不安を掻き立てる。

先程の男ではないとはすぐわかる。

だからこその恐怖。

見えないものがこれほどまでに恐ろしいとは、思ってもいなかった。





「なんだ、この形は……」

雨をもう一度降らしていたカットラは、水越しに伝わるその形に、畏れを覚えた。

いやそれだけではない。おそらく彼が人生で一度も経験しないような感覚を、今体験しているのだ。

ああ、恐い。

誰か、誰か………。





「見いつけた」





ゾワゾワゾワ




息が止まる。

目は閉じている。

完全な無防備状態。

だがそれ以上に、好奇心が優った。





「一苦労、と言ったところだな」




目の前にいたのは、異形の牛。

頭はなく、ただそこに四本足で立っているだけ。

その内側には、何もなかった。

血も、臓器も。




「あゝ……」

これから殺されるんだ。

だったら………




威は弾丸を素手で思いっきり牛へと投げる。

その速度はピストルには遠く及ばないが、何かの効果がかかっていた。

最後の足掻き。




カットラは自身の持っている+電荷を全て牛へと渡し、-電荷を自身へと貼り付ける。

ごめんね。




「はぁ」

「……………!」

「そんなもので止まると思ったのか……、心外だよ」




ペチョ、と。

両者の頬に黒い何かが触れる。

形は人の手そのものであるが、感触は気色悪いの一言。

それが二人の顔を、覆うように触る。



「……」

もはや悲鳴すらも出ない。

声が喉を通ってくれない。




「まあいい、一度、眠ってもらおう」




目の前の視界がぼやける

ああ、これか。

まだやることは、あるのに……………。

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