5
グギャァァァァァ!!
龍が叫ぶ。
痛みに。
「間に合ったか」
オキシが死ぬと予知したその一瞬。
何者かが彼女を助けた。
愛想もなさそうにお姫様抱っこをしている。
それはこれまで汚穢の精場にいたはずの…
「アカよ」
だが彼女を知っているわけもないオキシは自分を抱いている相手に困惑する。
「……ひとまず……」
「皆まで言うな」
降ろしてと言うはずだったオキシはいつの間にか歩道橋に下ろされている。
「……あなたは?」
「先ほども言っただろう。アカだ。ソレ以外はまた後でな」
と言い、彼女はオキシの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「頑張ったな」
「……」
断る理由もなくオキシは頰を膨らませて赤く染める。
が、目の前では龍が起き上がっていた。
「アカさん!!後ろ!!」
覚えたての名前をオキシは恥じらいもなく叫ぶ。
アカはその純白そのものの髪とこちらも白く緩めの服を揺らし、微弱にも光る体をくるりと敵に回した。
「照れるなぁ、我が子に名前を呼ばれるのは」
そして龍は、爆ぜた。
それまでの過程は一秒に6,7回踏ままれていたはず。
だが爆ぜたのは1秒。
そしてオキシというただの人に見えたのは、白光と共に悲鳴すらをもあげずに爆発する幻の存在。
「終わった」
その一言で、墓靄とオキシの争いは終わってしまった。
「ぇ」
先程まで殺さまいと尽力していた龍がいとも簡単に倒された。
まだあの女か判別できていないのに。
「アカさん、あの化け物はなんなんですか?」
「あれ?あれは墓靄って言う女の子の精獣。精獣っていうのは、精が具現化してできた獣のこと」
墓靄。
だが名前を頭の中で連呼する前に、オキシはある疑問を抱いた。
「その、墓靄って子は、無精者では……」
「今はね。だが無精者というのは今のところ君だけだ」
………
自身の勘違いに驚くより、孤独を先に彼女は感じた。
「いえ、違います」
が、歩道橋の下からの刺客。
墓靄が口を開いた。
「アカさんと言いましたね。私の発作を止めてくださり、ありがとうございます」
「……発作?」
完全に精獣を霧散させたと思っていたアカは、顎に手を当てそちらへ目の焦点を向ける。
「そうです。私は30に一度このような発作が起こってしまいます」
「ではいつも君はどうしていたんだい?」
「いつもは私の周りの五人に一夜中降印で封印してもらっていました」
「………なるほど、噂の五従か……」
「何か」
「いや何にも」
つい口を滑らせてしまったアカは顎の手をうちへと持っていく。
「で、君は精を使えるのか?」
今一番オキシが気になっている質問を、アカは代わりにする。
自身の子供が苦しんでいるのを、彼女は黙って見ていられなかった。
「いえ、使えませんけど……」
(...)
(...)
(...)
三人の間に墓靄のすっとぼけたような声が響く。
(成程、無自覚ね。多分。)
アカは一人で理解を完結させ、手をパンパンと叩いた。
「オーケーオーケー。突然だけど、二人は争い続けたい?」
「…」
「…」
望まぬ血。
そんなものは両者流したくはなかった。
考えが最初と違っていても。
「じゃあ二人は、これからどうする?」
今度は答えによってはどちらかを殺す質問。だが二人は即答。
「「仲直り」」
嘘も裏もないその声に、アカは驚く。
自身が見たことのない人間だったから。
「ふっふっふっ、いいね、正直で」
これからのこの二人の関係。
ますます深いものとなっていくだろうとアカは確信する。
たとえ強さに限界のある二人だったとしても。
たとえ属性の違う二人だったとしても。
そう、彼女は確信する。
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