EP2 想う匂い

 夏休み初日は誰しもが浮かれている。1学期が終わり25日間という長い休みが来たという実感が、多分全国の学生はみんな好きだ。

 もちろん俺も好きなうちの1人だ。その証拠に今、朝の10時になった今でもなお俺はベッドの上にいる。

 本当にこんなダラダラできるのは久しぶりな気がする。きっと今日から俺含めて特に帰宅部の人たちはこうやって朝はずっと横になっていて、昼から夜中にかけて活動をして、最後深夜に眠る。そんな生活で昼夜逆転してしまうのだろう。実際俺も中学の頃はそうだった。

 しかし、今はもう高校生。そんな生活になるわけには行かないから俺は夏休みと冬休みにはアルバイトを入れている。だから俺はここで起きる。

 俺は気怠い身体にムチを打って立ち上がりググッと伸びをした。

「よし、降りるか」

 階段を一段一段降りる度にモワモワと熱気を感じる。2階は俺が起きてからずっと扇風機をつけていたから涼しかったが、1階はひどい。俺は降りてすぐにエアコンをエアコンのリモコンを手に取り、すぐに冷房をつけた。

「あっちぃ…、歯磨かないと…」

 シンクから出る水は思ったより冷たくて、なぜだか少し嬉しい気持ちになった。

 口をすすいだ後、俺は冷蔵庫からペットボトルのぶどうジュースを取り出して一口飲んだ。そのままそれを持って仏間に行った。俺は姉さんの遺影の前の座布団に座った。

「おはよう姉さん。今日から夏休みで、1時からまたバイトがあるから行ってくるね。」

 ぶどうジュースを一口飲んだ。そして右上の柱に掛かったキーホルダーを見た。

「椿さん、おはようございます。俺、実はいまだに椿さんが亡くなった事を受け入れきれてないんですよね。だって、まだそのこと知ってから2日しか経っていないんですもの」

 近くの公園で子供が遊んでいるのだろうか。無邪気な声がここまでしっかり聞こえる。

「楽しそうですね。夏が好きな椿さんが今いたら、外で遊んでいる小学生と大して変わらなかったのかもしれませんね。て、失礼か」

 また一口ぶどうジュースを飲んだ。

 線香をあげようと箱とマッチをとった。

「あれ、そういえばこれって変わらず一本でいいんですかね?椿さんの分も必要なのかな…」

 俺は少し悩んだ挙句、線香を2本さして火をつけた。

「こういうのってやっぱり1人1個がいいですよね。何も知らない素人の考えですみません。あ、そろそろ準備して行くので、姉さん、椿さん、行ってきます」

 俺は立って仏間から出た。線香の匂いがいつもの2倍する仏間は蒸し蒸ししていた。

 

 午後12時半、立派な腰掛けに座る男がいた。

 男は古そうな掛け時計を見て言った。

「コーヒーでも飲みに行くか」

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