56「矢印 ↑ 」

 犯行は早朝に行われた。少路しょうじつばめという一人の少女の命が無慈悲に奪われた。犯罪人とはすべからく捕まるべきだ。殺害現場である野原にはげんが落ちていた。被害者との関係は分かっていない。捜査線上には三人の人間の名前が浮上した。一人目の名はぐらよう。彼は音楽教師として彼女が通う学校に勤めていた。二人目は、わきおと。午前七時ごろ、彼の車が現場を走り去るのを見た人がいた。野分には前科や前歴の類いはない。三人目の名は少路すばる。彼は殺された少女の継父。殺された女子は通学途中に、道で胸飾りを拾い、それを鞄にしまったらしい。これは後に持主が名乗り出たので少女のではない。現場に居合わせた地域住民によると、現場近くの倉庫Dにて誰かが路上を監視するように佇んでいたと、答えた。また、血が付いた洋服とナイフが拉麺昴来軒ぼうらいけんの裏手で発見される。その刃物が致命傷を与えたと推定。加えて、詳細な情報。路上を眺め佇んでいた不審人物は、目測で身長百八十。強そうな長身の大男。歳は二十代前半から三十代。警察は、情報提供者に賞金授与との発表。そうでなくともいつ目には目を歯には歯をと、被害者の遺族たちが報復的正義を振るいかねない。読者の皆さんにはだれが犯人か突き止めてほしい。さて遺体そっくりな人形を用意して犯人の襲撃時を模した検証が行われた。殺された子には性的暴行の形跡があった。その格好は乱れ、無惨な姿だった。検証の結果、ごく少量の被害者の血が、死体発見現場を北へ百メートル行った先、林で見つかる。少女の継父のすばるは警察とのやり取りで血も涙もない発言をする。だが取り乱すほど溺愛していた一面も見せる。ようは損傷したつばめの胸飾りに眉をひそめる。なぜなら作者が彼であるからだ。おとは許しを請うた。だがそれは、名音の早とちりであった。彼は不法投棄の処罰と思ったらしい。

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