第10話 二人で過ごせたら 2

ドキドキと胸の高鳴りが止まらない。

もしかして俺……眠桐さんのこと、好き……?

そう思った瞬間、さらに胸の鼓動が速くなった。


――顔、赤くないか?

っていうか俺……ね、眠桐さんと……で、デートしてる……?


そんなことを考えていると、顔がどんどん熱くなっていく。


「大丈夫? 起実くん」


『へっ!? だ、大丈夫……!!! うん……! ダイジョウブデス……。』


……ダサい。俺、今すごくダサい。


どうすればいい……?

このままだと眠桐さんを直視できない。

いや、その前に――そもそも俺、本当に眠桐さんのこと、好きなのか……?


「……起実くん、本当に大丈夫? 熱中症にでもなっちゃった?」


そう言いながら、眠桐さんは俺のおでこに手を当ててきた。


――っ!!


柔らかな手の感触に、思わずビクッと反応して、俺は避けてしまった。


『ご、ごめん!! そ、それにしても、暑いね!!! ね、眠桐さん、喫茶店って、どのあたりにあるの?』


「そ、そうだね……。喫茶店までは、もう少しだよ。あとちょっと、がんばろ?」


『う、うん……』


俺のせいで、ちょっと微妙な空気になったかもしれない。

……自己嫌悪で胸が苦しい。


しばらく歩くと、古びたレンガ調の喫茶店が見えてきた。


「起実くん、着いたよ。私がよく行く喫茶店でね、ここのコーヒーがすごく美味しいの」


『いいね、この雰囲気……落ち着く感じ』


「でしょ!」


会話が自然に弾んで、少し緊張が和らいだ気がした。

俺たちは並んで、木の扉をくぐった。


カランカラン――


「いらっしゃいませ……おや、碧ちゃんいらっしゃい。その子は……?」


「こんにちは、茂おじいちゃん。この子は、クラスメイトの起実壮真くんだよ」


『こ、こんにちは。起実壮真です。よろしくお願いします』


「よろしくね。僕は春山茂史、この喫茶店のマスターだよ」


眠桐さんの紹介に助けられて、俺はなんとかちゃんと挨拶できた。

……別に、コミュ障ってわけじゃない。ただちょっと、緊張するだけなんだ。うん。


「碧ちゃんは、いつものでいいかな?」


「うん、大丈夫だよ」


さすが常連。やっぱり、よく来てるんだな。


「起実くんは何を頼むんだい?」


『えっと……じゃあ、この冷たいカフェラテでお願いします』


メニュー表を見てそう答えると、マスターは優しく笑った。


「少し待っててね」


店内に広がる、ほのかなコーヒーの香り。

時間がゆったりと流れるこの空間が、なんだか心地いい。


「起実くん、ここのコーヒーはほんとに美味しいから、楽しみにしててね」


眠桐さんは、そう言ってにこりと笑った。

窓から差し込む光に、彼女の黒髪がきらりと輝く。


(やばい……好きかもしれない……)


「お待たせしました。こっちがアイスコーヒー、こっちがカフェラテだよ」


『あ、ありがとうございます』


「ありがとう、茂おじいちゃん」


ふたりでコップを受け取って、テーブル席へと移動する。


「ふふ、ゆっくりしていってね」


そう言い残して、マスターは奥のキッチンへ戻っていった。


「ね、いい場所でしょ?」


『うん、マスターも優しいし、落ち着く場所だね』


「ふふ……」


『?』


「ううん。起実くんが、きっと好きそうだなって思ってたから。ちょっと嬉しくて」


――……!!


まったく、眠桐さんは……

どうしてそんなこと、さらっと言えるんだよ……!


そういうとこが……

好きです!!!


その想いをごまかすように、俺は慌ててカフェラテに口をつける。


『……っ! 美味い……』


思わず声が漏れた。

いや、仕方ない。ほんとに美味いんだから。

今まで飲んだ中で一番かもしれない……!


「ふふ、でしょ? 茂おじいちゃんのコーヒーは、すっごく美味しいの」


彼女の笑顔が、まるで夏の日差しのようにまぶしくて。


(なんだか、むず痒い……でも……)


――今、俺は眠桐さんと二人で過ごしてる。


彼女のおすすめの喫茶店で、のんびり過ごしてる。


……夏休み、最高かよ。


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