十三章



「さて…………どこまで話したか」

「さっきの、なぜお前は私に殺されるだけの理由がないと?お前は泉主だ。鍵の端くれだろう?」

九泉くせんは他の泉とは全くと言っていいほど異なる。寡人自体も。麗春花ひなげし、九泉を攻略することは不可能だ。能力や状況によらず、これは事実として出来ないと理解してくれ。しかし寡人はもしもなれが他の泉の水門をすべて暴けたのならば、その後は流れに身を任せることは可能。はじめからこちらを敵だと見て欲しくはない」

 噛んで言い含めるような調子に鼻から息を吐いた。

「とにかくとてもややこしいことは分かったが、つまりは力の強さがものを言うのだろう?」

「確かに泉外人の天啓とは本人の実力に左右されることが多いが、問題はそう単純ではない。そもそも汝たちには閉める力がない。天門とはず徳門が閉まることにより影現ようげんの兆しとなる。それを強制的に閉める方法が、今のところ思いつく限りではさきほど汝がやってみせようとした泉主泉根を絶やす、という荒技しかない」

「やはりそれしかないではないか」

「しかし実行したとして、はたして上手く天をもたらせるのか。徳門が閉まれば必然泉は腐ってゆく。天門のかたちが整うまでにどれほど時がかかり、黎泉におわす神がいつ目覚めいつ降臨するのかも定かではないのに、その時点で民が消えていては九つの泉の意義も消えることになりはしないか?九泉きゅうせんをもって封ぜられた寰宇かんう、九泉の泉、国とはつまりは民だ。王も民もいなくなったところに天帝と水神だけが到来する。門をこじ開けたのは夷狄いてきだとなれば決して平和な終末とはならないのではなかろうか」

「取引でなく、手を組めと?」

「おや、もうしっかり絡めているだろう?」

 あからさまに嫌そうにしても泉主は動じない。

「……では、目下のところつまずいているのは泉主を殺さずしてどのように徳門を閉じるのか、ということか」

「まあ、現時点では確立された打開策はない。禁忌を行おうとしているのだがら当然。……だが、汝がいないあいだ寡人もぼんやりしていたわけではないよ。取りこぼしがないかといろいろと調べた」

 もったいぶったまま高々と笑う。

「早く言え」

「汝はせっかちだな。少しは」

巫山戯ふざけているのはどちらか。お前のように楽しむ余裕などない」

 眼光鋭く低く言えば、一転、少し寂しげにしてから、気を取り直して話しだす。

「崔遷と共に文献を洗い直した。散佚さんいつしたものも多くまして天門などという秘儀について書いたものはここにも無かったが、それでも無駄足ではなかった」


 しなびた木牘もくとくの山を持ってこさせた。今にも朽ちて崩れそうな古い書き付けだ。もとはつづってあったのか、上下にあなが空いている。割れているものやかびが生えて文字の読めないものもあった。ひとつを手に取ってためつすがめつする。


「これは?」

「随録のようなものだ。誰が書いたのかは分からない。神域での体験記と言ったところかな」

 文字を読もうとしても形を目でなぞることしか出来ない。見知ったものではない。

「今はすたれた古代の文字だ」

 祝詞のりと佛朶フツダの経典と同じようなものか、と泉主と木札を見比べる。これが彼には読めたのだろうか。

「おそらく筆者は稀な九泉人の由歩だったのか、はたまた他国人でここに住み着いていたのか、九泉を出て霧界の旅へ出たと書いてある。――その中にとても面白い記述を見つけた」

 札の山を引っ掻き回し、いくつかを取り分けて並べる。

「赤い木々の庭を見つけた、と。さらには新しい考察もあるぞ。ここは血楓林けっぷうりんではなかろうかと。兵主神いくさがみ蚩尤シユウの血で染まった場所だ、とな」

「お前は知っているのか」

「蚩尤とは、伝承では神々に戦いを挑んだという神だ。世界に初めて『叛乱』の概念をもたらし、族長として九黎きゅうれいの民と共に叛旗をひるがえした、が、やぶれた。九黎族の末裔は今もどこかで生きているという。――彼か彼女か、この書き手はかなり博識だな。奉常府ほうじょうふの博士か何かだったのか、それにしては銘も印もないが。とにかく蚩尤は神々に討ち取られてその血は流れた。ふうの木が赤く染まるのはそのせいだという言い伝えの裏付けとなるやもと書いてある」

「雄常樹のことは」

「ある。樹皮が幾重にもめくれた巨大なものがひとつ、根は九つにうねり枝は八方に広がって血色の葉をつける。獣が匂いに惹かれてやってきた、と」

「匂い……?」

 そんなものあっただろうか、と思い返す。雄常樹はなにか、妖や獣にも特別なものなのかもしれない。

 九黎族の伝承なら、と泉主は顎に指を当てる。「寡人も噂だけは。敗戦して逃れてきた行き場のない彼らはこの神隠かんなびに辿り着き、住まわせてくれるよう水神に願った。その代わりに役目を課された。寡人は彼らのことを閽神かどもりのかみ……監門もんばんだと聞いている。落ち延びてきた九黎の民を天門の守衛として任じたということだな」

「監門……なんだか、無理やりだな。水神は寝ているのではなかったか」

「上古の時代のことは分からない。なにせ泉外人もずっと多く泉民も血が澄んでいて大泉地は繁華繁盛を極め、人とはもっと神に近い存在だった。霧界の外から九黎人がやって来たのなら彼らもまた人ではなく神仙だったのだろう。まず族長が神々に喧嘩を売るような蛮勇の戦神なのだし。それでこのことからして、寡人は雄常にるのはつまりは九黎の苗裔まつえいなのではないかと結論した」

「人でないならなんでもありか」

「九黎はもともとこの大泉地の人々ではない、まったく理の違う者たち。ならば生まれ方が奇異でも不思議ではないな」

「では……孳孳はその民の子孫で、天門の監門だと?そんなこと、どうやっても証せはしない」

「そうでもない」

 泉主は断定をあっさりと否定した。「試してみたし、天門については本人にもなにかおぼえがある」

「試した?なにを?」

「この博士が書いていた匂いについて。霧界で孳孳がどれほど妖と獣を寄せるのかいろいろとやってみたのだ。結果は大当たりだ。異形の獣たちは血にきつけられ、食おうとしてやって来る」

 眉をしかめる。

「お前、それをあの子に無理強いしてはいまいな」

「優しいな麗春花。孳孳を利用しようと思っている割には」

「千五百年生きていようともずっとあのまま、育ちきらないままなのだろう?子どもを無為に痛めつけるな」

「無為に?多いに有意義だったぞ。分かったことは幾つかある。彼らは神に近しいゆえに周囲のものを魅了する。妖でも、人でも。血は獣を寄せる。こぼれた一滴までも舐めさらうほどに好物のようだった。そして雄常樹。彼らはそこから生まれづる。崔遷の聞いた話では皮にくるまっている時は人の姿ではない。おそらく生を受けてはじめに見た種のかたちをとる。皮は幾重にもめくれていた。つまりは、彼ら――――楓氏ふうしは、実際にはめくれた樹皮の数だけ生まれていると考えるのが合理かと思う」

「楓氏…………めくれた、分だけ。では孳孳の他にもいると?」

「しかし妖獣を寄せるのならば生まれてからほどなく捕食されるということ。孳孳は森に偶然迷い込んだ食行しょうにんに拾われたという。そんな稀有な偶然はほぼ起こらない。なら、この地上に楓氏はおそらく孳孳の他には生存していない」

「分からないではないか」

「そう。分からない。人でないものに拾われ育てられているのだとしたら一層分からない。どのみち霧界にいれば餌食となる。あの子は拾われて後は泉地に降りた。ならば少なくとも霧を好み人を嫌う妖たちには手出しできなかったゆえに今日まで生き延びられたと言っていい」

 そして天門だ、と木板をいじる。

「孳孳はおそらく我々よりも天の存在を近くに感ずることが出来るようだ。何かが開き、閉じるものがなんとなく分かると言った」

「天門の開闔かいこうを察知するというのか。やはりそれは監門としての一族の血か」

「まあ砕いて言うならおそらくはそうなのであろうが」

「なら……ならば、あの子自身が門を開閉出来るのではないのか……⁉泉主を殺さずとも徳門を閉じ、不徳門さえ開けられるという、そういうことではないのか⁉」

 可能性に思わず興奮して声を張れば、泉主はどうかな、と初めて難しげな顔をした。

「それほど万能なのか。それならば鍵など必要がない」

「……それもそうか。だが、水神は不徳門の鍵は用意しても徳門を閉める為のじょうは与えなかった。楓氏とやらは監門だ。監門というのは門扉を開閉する役割の者だろう?もしや非常時に門を閉める為の保険なのでは?」

「世界を閉じたときに組まれた条理に非常などというものは考慮されていない。なぜなら天帝とは全知全能の存在だから天帝なのだ。楓氏の使い道は正直分からない。使えるのか、も含めて。現状たった一人しかおらず、使い方を誤れば失い、二度と楓氏が現れない可能性もある」

「次の楓氏が生まれないか、雄常樹を見張っておけば」

「誰が?」

「お前ならばいくらでも人を遣わせられるだろうに」

 すぐ首を振られる。

「そんな定かでないことをずっと監視しておけと?ひょっとすれば何十年、何百年も生まれてこないかもしれぬのに」

「だが」

「それに血楓林はひとつところに在るのではない。現れては消え、とどまっては何処いずこかに移る。なんの力も持たない者がずっと追い続けられるとは思えない」

 それはそうだ、と唇を噛む。

「剥がれた樹皮は調べたのか」

「あれはふつうの樹でもない。まわりの楓とは違って刃も通らなければ火でも焦げない。幹は鋼鉄のように固くて年輪も見れない。楓氏の誕生時期の揆度きたくは出来ない。それに、……もしかすれば孳孳が生きているがゆえに次世代が生まれないということも考えられる。いち泉国の泉主がひと世代に一人しかいないのと同じで。どんな任務で生まれ落ちたのかは本人にも分かっていないが、孳孳は泉地にやって来ることに成功した。それならば次なる者は孳孳が死んだ後で生まれるとも考えられるだろう?」


 すらすらと楓氏が無用であると並べ立てる、よく出てくるものだ。まるで用意していたみたいに。


「楓氏を使うという案自体が不毛だとお前は言っているのか」

「そう取られても構わない。なにせ確としたことがなにも分からない以上は天門には使えない。麗春花、昇黎というものは泉外人の天祐てんゆうを持つ汝たちとは異なり、泉根は人生のうちで一度その機会があれば十分なものだ。人でも人のまがいものでも、そう軽々に天の領域を乱してはならぬ」


 乱せば、何が起きるか分からない。そう呟き泉主はようやく口をつぐんだ。それでただぬるい風だけを耳に感じ、互いに黙想する刻が流れる。

 九泉主は――、…………確信に変わる。この世の理を知ってはいるが、やはりこちらに全てを披瀝ひれきするつもりがない。嘘を言っているようには見えないが、それでいて真に余すことなく話しているふうでもない。あまりに深遠すぎてこちらが理解出来ないと思っている、本当にただそれだけなのか、それとも。


「九泉主。お前は本心ではどうしたいと思っている。九泉主としてのお前ではないお前なら」

「汝はそういう考え方が好きだな。寡人は九泉主でありそれ以外の何者でもない。中天泉帝として、この揺籃ゆりかごを観測する者としてはじめからそう生み出された。寡人の意思はその役割から逸脱は出来ないししたいとも思っていない。許された中で生きることによってのみ他者と世界に影響を与えうる。たとえ寡人自体が大きく針路を変えたいと足掻いても進む方向は変わりはしない。目的地をあらかじめ決められているからだ。ふねがなければ生きてはゆけない。それが泉主だ」

 だから組み込まれていない汝たちがどう動くのかが面白くて仕方がない、と笑った。刹那的でもなく諦観したようでもなかったが、それでも問わずにはいられない。

「お前はそれでいいのか?」

「いい、とは。麗春花、はね、はじめから私だけのものではないのだ。この世界が発生した瞬間から九泉主わたしはただ神の復活の為だけに存在している。良い悪いの正邪を論じても意味が無い。ここは天帝の定めた善で成り立つ。悪は存在しない。それを判じるのは外側の住人である汝たちのみ。私がどうしたいか?この大泉地をどうしたいと?――――それは心に浮いてもどうしようもないことだ。人が自らの腕で空を飛びたいと思っても飛べないのと同じ。思ってもしようのない、夢見がちの愚かな傲慢だ」

「…………そうか。だから泉外人わたしに力を貸すのだな」


 その傲慢を可能にしてしまうから。


「いまさらか。そうだよ、それもある。寡人はどこまで行っても変えようなく、変わりようもない。大泉地の秩序を維持し、天帝が到来するのをただ待ち侘びるだけの管理者。悟ったようだね、そうだよ、そのとおり。寡人はどうあっても、――脅され責められ、生爪剥がされようとも、天に関わる全てを汝には明かさない。生命いのちを懸けて誓いを立てたのにひどい裏切りだと思うかな。けれど限りなく譲歩はしているよ。なぜなら寡人は汝が好きだから。たったそれだけでいい。好きなものの為なら多少のやりすぎには目をつむる。舟板を壊さぬ程度の乱痴気騒ぎと火遊びなら神罰かみなりには撃たれまい。ここは大層窮屈だから、息抜きは必要なことだ」


 どこまでも高みの見物か、と歯噛みした。最初から対等ではなかった。それは分かっていたつもりだし、こちらも一方的に九泉主の慈悲をアテにしていたことも自覚はある。死ぬ思いをして誓いを立てたとて、そうだ。彼が他人に知識の実をどれほど与えるかを決めるのは持つ者である彼自身が決めて良いこと、持たざるこちらは言い値で許された数を買うしかない。取引自体がその範疇からはみ出ることは無い。


 ああ、でも――と笑みをつくった。こいつは話しすぎた。


「すまない、麗春花。汝はもしかしたら死んでいたかもしれない。許しておくれとは言えない。だが、寡人が汝のことをとても愛しているということだけは事実だ。分かってくれとも言えはしないが……」

 謝罪の言葉を聞きながら再び立ち上がった。ゆっくりと息を吸い込み、陽光に鮮やかな色を照り返す花々に目を細めて腕を組んだ。

「ああ。分からない。お前はどこまでも食えない男だよ。だがお前を信じると決めたのは私自身だ。いまさら恨み言もない。……九泉主、お前は観測者で管理者だと言ったな。それはつまり大泉地の調停をする者でもあるということか?」

「当たらずといえども遠からず。椒図しょうずの九泉はそういう役目ゆえ」

「ふん。どえらく大儀な務めだ。ならばやはりお前は神に準じる立場だと言っていい。間違いなく人ではないな」

「…………何か買い被っている?それとも欲しいものでもある?」

 つかつかと歩み寄って白い面紗ふくめんを剥ぎ取った。下には驚いた顔。

「ならばお前は寰宇が壊れたら主に咎めを食らうだろう?」

「そんなことは有り得ぬが、万一あればそうかもしれない」

「今、こうして泉外人と笑えない悪戯いたずらをしでかすほどには余裕がある。――――すでに涸れた泉があるというのに」

 見下ろす表情はぽかんと見返してきて、それから柳眉を下げた。

「なにを考えている?」

「分からないか」「分からない。寡人はそれほど頭が良くないから」

 おどける額に指を突きつけた。

「道化は要らない。これは私が自分で気づいたことだ。墓穴ぼけつを掘ったのはお前。誤魔化しは許さない」

 その指が包まれる。頷いてうべない、さらに苦笑した。どこまでも優しげな態度を崩さない。虫唾むしずが走って振り払い、冴えた眼で射る。自分は無知とはいえ、馬鹿ではない。

「お前は泉人の天啓は血にると言った。つまりは泉主がいなければ影現ようげんにおいて天門をひらけないと言った。なのに、三泉と八泉はすでに涸れているという。九国のうち二つがすでに欠けていて、徳門が閉じ均衡が崩れている。とんでもない一大事だ。それがどうだ?その落ち着きようは。まるで何も問題ないとでもいうように放置している。管理者おまえが他人事でいられるわけがないのに、だ」

 泉主はただ静かに聞いている。

「お前は私を拾って話を聞いてから初めて泉外人の『選定』がつまりはもうひとつの天啓だと知った。ならば泉外人が天門を奪取してどうこうするなんてのは考えには無かったはず。九子が揃わず泉主がいなくても困らないとはなるはずがない。それは寰宇の崩壊と同義なのに、頭を痛めている様子がまるでなく、さらには天啓をけられる王家の血が絶えてしまう国が出て来ることを予見してさえいた。ならばお前は、来たる時を無事に迎える為の措置をとうの昔に打っている」

 手が叩かれる。

「うん。ご名答。さすがは寡人が惚れたヒト……」

 みなまで言わせず襟首を掴み上げた。

「教えろ」

「なぜ?」

「私が己で見つけた間隙かんげきだからだ」


 泉が欠けても問題ないとは思えない。そうであるならば封印を九つに分けた意味がないからだ。解鎖には必ず九重門全てが揃わなければならない。彼は放置しているわけではない。すでに打開策を実行している。だからこちらに付き合う暇がある。


「私は一欠片でも可能性があるなら全てをやってみる覚悟だぞ。なりふり構っていられないからな。だから教えろ。泉根のいない、泉が腐った国の天門でどうやって影現を迎えるつもりなのか」

 泉根がおらず、天啓を得る者がいないのに解決する方法があるのなら、そうならば――隙が、ある。泉外人が大泉地の大綱たいこうにつけ入るほころびが。

 威圧に、泉主は微笑みをたたえたまま両手を挙げた。

「汝の志を侮っているつもりはなかった。だがそんな発想もなかったから言わなかったのだ。――いいよ、うけたまわった。それで少しでも寡人と共に時を過ごしてくれるのならお安い御用」

 しかし薄い唇で紡いだ降参は赤子をあやすような響きを含んでいて、知ったとてどうせお前には無理だ、と暗に示されている気がした。


 この男の態度には飽き飽きする、と引き絞った衣を離す。しかしながらまともに受け止めて気を乱すのも疲れる。彼はいくらいきどおったところで鹿の角を蜂が刺すようなもの、効き目はない。


 …………なら、私とてお前を使ってやる。


 九泉主は惚れた弱味があるからこそ恩情を垂れ流す。ありがた迷惑を超えて気味が悪いほど優しい。それはこちらがいくら拒絶しても逆恨みもしない純粋なもの。それだけは分かった。ならばその足許を見て、利用するだけ利用して、なるたけ聞き出すしかない。彼の持つ膨大な知恵を、なるべく多く。


 泉主は乱れた胸元をゆっくりと整えながら口を開く。

泉柱せんちゅうの一は泉を侵してはならぬ。混ぜてはならぬ。泉とは……流れ巡る命の水にほかならない。ここはからだ。ひとつの親から生まれた分身こどもたち。――――すなわち龍生九子りゅうせいきゅうしの国」



 かみの末裔は敵のしそんに語った。水と血の物語、あまりにもろいこの世界のあらましと行く末を。――――己のことは全て閉ざして。




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