35. 魔性の女(23)

葛城社長に呼ばれ、六本木のABC商会の本社ビルへ出向いた。

学校の大きな教室のように整然と並んだ社員の机と向き合うかたちで、広いガラス張りの役員室が正面に張り出していた。

葛城社長は、創業者が長く愛用したローズウッドの古材で特注したデスクをそのまま使っていた。

その横の大きなスチールデスクは、未亡人となったエミリー専務が出社したときに使うらしいが、今は空席となっている。


社長のデスクに対面した3人掛けのソファーの端に、白いミニのワンピース姿の紗耶香が足を組んで座っていた。

ガラスの扉をノックして入室すると、立ち上がった紗耶香はガラス窓のブラインドを半分だけ下した。


葛城社長は立ち上がり、机の向こうから手を伸ばしてがっちり握手した。

北米に半月近く滞在していたので、あちらのビジネスマナーが板についていた。

「いやあ、セールス旅行は大成功だった」

満面の笑みを浮かべる葛城社長はは、外国旅行から帰ったばかりのひとが振り払おうとしても振り払えない高揚感をまだまとっていた。

それとも、若い紗耶香と新婚旅行気分で北米を回って幸せいっぱいなのか?




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