閑話 あの頃の若気のいたり


 日本国内はおろか世界中で莫大なプレイヤーが存在し、その同時接続数は本当に頭がおかしいんじゃないか? と言われている。


 本日はそのゲームのお祭り、大規模イベントの真っ最中である。と言っても参加しても結果が分かっているイベントの種類ではあるから、最初からパブリックビューイングでだったり公式の実況動画で済ませてしまうプレイヤーも多いのだが。


「チート過ぎんだろ大迷惑」

「あれスケーター? あんな動きだっけ?」

「あー、あれな、茉桜まおうスタイル」

「ん? え? オリンピック選手?」

「そそ、彼女が前のオリンピックでやったプログラムの大本。なんでもなデミウス非常識野郎の大ファンで、まさかのオリンピック本番でヤツのコンバットパターンをぶっ込んで金メダルをかっさらうという偉業をしてしまったっていう」


 スペースインフィニティオーケストラにおいてプレイヤースキルには数々の名称が付けられている。

 スケーターというのは、よくあるUFOの動きといえばいいだろうか? 自分の船の正面を相手の船にロックオン、所謂ヘッドオンという状態を保ったまま、敵船を中心に据えた状態で円周上に移動をする技術の事だ。文字通りフィギュアスケートのようにすぃーっと動く事からスケーターと呼ばれる事となった。


「つーかさ、デミウスにプロフェッサーが専属って超迷惑じゃねぇか」

「だーな、あの変態技術者、副砲どころか主砲まで稼働式にするとかってあったまおかしいってレベルじゃねぇよ」

「うちのさ、大将がさ、デミウスに対抗心バリッバリじゃん?」

「あー、マカロニ兄貴か。よくつっかかって返り討ちにあってるな」

「早速あれ、真似したんだわ」

「あー、そりゃご愁傷さま」

「そうなんだよ、あれって稼働式の兵装じゃねぇと無理なんだわ。それならスケーターの方がよっぽどDPS(一秒間のダメージ量、ここでの使い方は瞬間火力の事)が出るっていうね」


 マカロニとは中間距離戦闘のプロと呼ばれているトッププレイヤーで、彼が率いるマカロニ&スミスのウェスタンズバーは、数々の中間距離のプレイヤースキルを開発した事でも有名だ。

 当人はデミウスの唯一無二の天敵である事を公言しており、その微笑ましさにネタキャラ化してるっていう、ちょっと残念なお人でもある。いやクランマスターしているくらいなので、人格的には凄く素晴らしい人ではあるのだが、デミウスが絡むと一気に残念になってしまうだけで……


「デミウス相手だと、やっぱライバルってえーと」

「俺らの勇者いそっぷ君だよな」

「だーなー。デミウスのあれについていけてるってのがどんだけ異常か誰だって分かる。ワイトでも分かる」

「けっ、ハーレム野郎の応援なんかしてんじゃねぇ」

「童貞反応いただきましたー」

「どどどど童貞ちゃうわ!」

「……ダイブ空間とは言え、リアルでその反応とその言葉を聞く日がくるとは」

「重婚なんて認めれられてなくて、あんなにストレートに好意を向けられて一人しか選べないとか、きっついと思うけどねおっさん的には」

「だよなぁ、全員が全員ガチの性格美少女美女ってのが更になぁ」

 プレイヤーたちの話題は迷走を続ける。しかし、イベントは大詰めを迎える。


「にゃはははははは! いやーいやーさっいこうにぃ! たのしーにゃあ勇者!」

「その呼び方を広めて楽しいですか! 僕はそんな大層な存在じゃないです!」

 縦横無尽にありとあらゆる死角から飛んでくる七色のレーザー光条を、ほとんど本能と経験、デミウスというプレイヤーの嫌らしさを加味したナニかで回避し、弾き、時にはかすらせ、必死で食らいつく。

「なんで一人でこれができるのよ!」

「変態なのよ。近寄っちゃだめよ? お姉さんとの約束ね」

「近寄りたくねぇです」

「ちょっとミサイル!」

「ぎゃー! 手が足りないってっの!」

 いそっぷ。SIO(スペースインフィニティオーケストラ)の看板を背負っているようなプレイヤーで、愛称は勇者。

 彼の周囲にはSIOを代表するような美少女美女のオペレーションクルーが揃っており、くちさがない男性プレイヤーからはハーレム野郎との蔑称で呼ばれるが、実際にその人柄を知っているプレイヤーからは、あの性格であの行動であの言動で惚れない女っていねぇだろ、と言われてしまうくらいには最上級の人格者であったりもする。

「やっぱりタツローさんの作った船は凄い! タツローさんを引き込めなかったのが僕の敗因の全てかもしれない!」

「あんな偏屈、お断りで」

「そうね、ちょっと頑固すぎるわ」

「優しいおじさんですよ?」

「まぁ、リアルで色々あったみたいだしね。そこはまぁ、詮索しないのがマナーってものだし、持ち込まないのもマナーではあるけれど、結構エグいらしいってのは又聞きで聞いてるから」

「大人は大変ですね」

 わーきゃー言いながらも何だかんだで猛攻を凌ぎ、デミウスの仕掛けを潰していく彼女達も間違いなく超一流。そこへいそっぷの確かな操船技術とコンバットパターンが合わさると、流石のデミウスでも後手に回ざるを得なくなっていく。


 パブリックビューイング、公式動画で見ていたプレイヤーたちがこれはデミウスの敗北か? と期待を寄せた瞬間、その後のゲームで決定的にその名称が固定化される現象が発生した。


「いにゃあ、いそっぷ君はいつでもオイの予想を軽く越えてくれるにぃ。けどにぃ、残念ながら君の成長を見抜く化け物がいるんだにゃぁ。さて、タツロー謹製の、ポチッとな」


 デミウスをデミウス足らしめるデミウス専用の純戦闘型宇宙船【TⅡR-FC0065 ファイティングスワロー】は、SIOの教授ことプロフェッサータツローという変態職人の手によって産み出された傑作船だ。

 現行全ての生産職が目指すべき頂点とすら言われている船であり、器用貧乏と言われ気味の構成であるのに特化型のどの船にも負けないというおかしな性能を持っている。

 そのシルエットは燕という名称からはほど遠い、まさしくUFO的円盤形の姿をしている。それ自体は悪くはない。円形というのはそれだけで兵装を積める場所が多いので死角が生まれにくいという利点があるので、デザインがダサいという一点を除けば、かなり実用的な選択肢だ。

 その円盤が、タツローの用意したボタンを押した瞬間に変態的な動きで変形したのだ。


「あんれえ? 俺の目がバグったのかなぁ? 変形してねぇ?」

「ああ、集団で幻覚を見てなければ変形してるな」

「……なあ、誰だよデミウスにプロフェッサーくっ付けたの」

「知らんがな」


 目も前でその様を目撃した方はもっと衝撃が強かった。

「何よあれ?!」

「円盤から戦闘機タイプに変形って?!」


 円盤形の船が戦闘機の形になったのだ、デミウス以外の全ての観客、対戦者は目を丸くして驚いた。

 しかし変形はそれだけではなく、戦況に応じてもう一つ、箱形にまで変形するという非常識を行い、あまりにあんまりなトリッキーすぎる戦い方に流石の勇者も対応しきれず負けてしまったのだった。


 これ以降、デミウスとタツローは二人で一組カウントをされるようになり、二人で超迷惑! は公式でネタにされるほど定着していくのだった。

 後にタツローは、徹夜のノリでやったことがこんな大惨事になるとは、と非常に後悔したらしい。

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