第3話 君がいて僕がいて……
「……ロー」
誰かが呼んでる。
「……い……ツローきゅん……」
誰だ? 誰なんだ? 誰が呼んでる?
「ヘタレた鈍感野郎タツロきゅんやーい」
「それストレートに悪口じゃボケ!」
くわっと目を見開けば、口裂けてんじゃねぇかと思うくらいに大きな口で笑うアホの姿が。
「いやいや、流石はプロフェッサーだにぃ、こんな重要なイベントの真っ最中に超爆睡ぶちかますちゃんとかこんのぉデミウス君の目でも見抜けねぃぜYO」
「やっかましい……ん? イベント?」
「ヲイヲイ、これでラストだっていうのにぃYO薄情じゃんかにゃ、実際気合い入れろYOちみぃ」
「……」
最後のミッション。これでゲームが終わる。終わってしまう。これで全部なくなってしまう。
「はぁ、やれやれだにぃ」
一気にテンションを下げた俺にデミウスがわざとらしく肩を竦めた。くっそムカつく。そんな俺達を他のクラメンが面白そうに見て笑ってやがる。
「寂しくないのかよ!」
全然面白くなくて、凄く悔しくて、いても立ってもいられなくて、それが完全に八つ当たりだと分かっていたけど止められずに叫んでいた。
「なんでこれで終了なんだよ! 全然終わりなんて見えてないじゃないか! ふざけるなっ! 全部終わってねぇじゃねぇかよ! ふざけるな! 畜生ふざけるな! 俺の! 俺の居場所を……居場所を……取らないでくれよぉ……」
もう見苦しいわがままだ。涙も鼻水も出まくってぐっちゃぐちゃになりながら叫び続けた。
あーあ、やっちまった。そんな後悔に項垂れ唇を噛み締める。
違うんだよ。俺はこんな空気を作り出したいわけじゃないんだ。皆と、皆と一緒にわいわい楽しみたいだけなんだ、ここに居たいだけなんだよ。ここで、ずっと。
デミウスに馬鹿にされるんだろうな、クラメンたちも呆れてるだろうし。なんで俺はずっとこんなんなんだろう。いつでもいつも不用品で邪魔者で、やっとこんなに認めてもらえたのに……
「そうだよなぁ、たーしかにスンゲェムカつくわぁなぁ」
「え……」
信じられない言葉に顔を上げれば、デミウスがオーバーな感じに額を押さえて外国人みたいに首を振っていた。
「寂しくないじゃと? 薄情じゃのぉプロフェッサーよ。こんなに毎日毎日面付き合わせて遊んでんじゃぞ? 馬鹿者、寂しいに決まっておろうがっ!」
「あ……」
ほほほと老紳士然と笑うTOTOが、少しだけお茶目におどけながら、聞いたことのないドスが効いた声で叱ってくる。
「そうね、そうよ、とてもとても寂しいわ。だってタツローちゃんとの研究楽しくて時間を忘れちゃうくらいだもの。とても、とっても寂しいわ」
「うっぐぅっ……」
綺麗なお姉さんルミ・ステアに優しく頭を撫でられ、再び涙と鼻水が……
「いつかは終わりはやってくる。始まるって事は終わるって事だ。でもな、たしっかに速すぎだよなあ」
ガツンとぶっとい丸太みたいな、筋肉しかついてない腕を俺の肩に回し、ニカッと太陽のように笑う美青年。ルミ・ステアのリアル兄アーローン・ポーだ。
「納得なんてしてねぇよ」
「んだなぁ」
「死ねよ運営って思うわ」
「ありえねぇー」
「寂しいに決まってんだろ? 言わせんな恥ずかしい」
どのクラメン達も納得なんてしていなかった。皆、俺と同じか俺以上に怒ったり悔しがったり悲しんでいた。
だからだろうか、素直な気持ちが口から溢れていた。
「皆、俺、やだよ」
そんな事を言ったところで現実は変わらない。そんな事を宣言したところで何か都合の良い未来が訪れるなんて事は絶対ない。
でも、だからこそ言わずにはいられなかった。
「俺、もっと皆といたい。もっと皆と遊びたいんだ。俺には、俺にはそれしかもうないから……」
俺には、本当に何もないから……
「やれやれにゅあー、仕方にぃのぉ。分かった分かった」
「ええ、そうね、そうよ」
「はは、気持ちは同じだ」
「ほほ、そうじゃな」
デミウス、ルミ・ステア、アーローン・ポー、TOTOの四人に両腕を引っ張られて立ち上がる。
「いいか? 一切合切疑うなかれ。これだけをただひたすらにやり続けろ。それだけだ」
今まで一度だって聞いた事のないような、真面目な声と口調でデミウスが俺を真っ直ぐ見つめて言う。
「信じろタツロー、またいつか会える」
「へ?」
らしくないガチのトーンで肩透かしのような事をのたまった。だけど、何でか、そう何でかそうしなきゃいけない、酷く重たい説得力があった。
「そうね、そうよ、しっかり信じて、私を私たちを信じて」
「ああそうだ、信じろ、そうすれば必ずな」
「ほほほ、信じるんじゃ、さすれば遠くない未来にいずれな」
信じろ信じろ信じろ信じろ、クラメンたちの声がそう言い続ける。
クラメンたちの声に包まれていると、デミウスがずいっと目の前に寄ってきた。
「んだば、またな相棒。また一緒に遊ぼうぜ? 戦友」
ヤツらしいニヤッと口が裂けたような笑顔を浮かべて、俺の頭をポンポンと軽く叩いた。そしたらじゅっと音がして、何だか凄く熱く……熱く?!
「あっつい! あ"っづい"っ!!」
焼けた?! いやこれ焦げたんじゃ?! ってか溶けたんじゃねぇのこれ?!
あまりの衝撃に飛び起きるように立ち上がると、そこには妙な物体がちんまりたたずんでいた。
「ヤットオ目覚メカ? 頭ガ随分ト、オ花畑ナンダゼ?」
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