四節 巫女とジャック・オー・ランタン
「こらー、それはお供え物何だぞ!!」
なにやら角の向こうから男衆の声が飛んだ。
「ヤー♪」「ヤッホー♪」
甲高く弾む笑い声が、夜風に乗って転がってくる。
提灯の灯しびの下を、ひゅるひゅると小さな影が飛び回っていた。
闇を縫うそれは、手のひらほどの小さな炎の妖精たち。
火花の尾を引きながら降りると、神社の祭壇脇に並んでだカボチャやカブの供物へ、わらわらと群がっていく。
炎の妖精は、ヤドカリが殻を探すようにくり抜かれたカボチャやカブの供物に取りつき、ちょっと形を整えると中に自分を灯して身体にしてしまう。
「ごめん、ちょっと騒ぎを治めてくる」
「気を付けてね、この先の神社の境内で合流しましょ」
それを聞いて神流は頷き地を蹴った。
ぐん、と身体が上昇すると、騒ぎの原因を確認する。
炎の妖精が、嬉々としてランタンになった自分たちを見つめ合い、くるくる宙返りしている。
「遊ぶならウィッカーマンの中にしなさい」
カンナは翼も持たぬまま灯籠の列をすり抜け、ランタン妖精たちの進路をひらりと遮った。
冷えた夜気の中で、その声は静かに、それでも鋭く聞こえた。
「んー、遊ぶなら鬼ごっこ」
しかし、妖精人の思い通りになるはずも無く、
「「ワ――」」
妖精の一人が叫ぶとみんなで叫びバラバラに逃げだした。
「まあ、これ以上屋台に迷惑をかけるよりかはマシか」
警備に連絡するよりもここで捕まえてしまった方が楽だと判断した神流は、遠く井戸の中に隠れようとしていた一人を捕まえながら肩を回す。
「ほらお仲間と遊んでなさい」
中身がくり抜かれた事が救いか、頭のカボチャごとウィッカーマンの中に放り込む。
「あと30と少し、2分もあれば戻せるかしら?」
「にげろー! にげろー!」
疾風のように駆け抜け、神流は小柄な身体をひょいと持ち上げ、両手で頭のカボチャを止める。
「んー、まあ見られるだけなら良くある事か、はい捕まえた」
神流の速度に驚いた妖精が炎をあふれさせるもその程度で彼女の皮膚がただれる訳も無く、お手玉の様に投げてやるとキャッキャと笑うのでそれで運んでやる。
「これなら6体づつ運べるかしら」
自然の化身、理不尽後権化たる妖精も神流の前では赤子に等しく、最後の一体もウィッカーマンの内部へと放り込まれる。
神流はウィッカーマンの肩に座ると、軽く息を吐いた。
「ん~1分40、ちょっと遊びすぎたかしら」
中の妖精たちはキャッキャと広がりながら炎を舞わせ、巨大な藁人形の内部が橙色に明滅する。
「ふぅ……これでひとまず落ち着いたかな」
境内から聞こえる笛と太鼓のリズムが、胸の鼓動をゆっくりと落ち込んでいく。
ドロリとした気配が強くなり、おどろおどろしい雰囲気が空気を呑む。
「あら?妖精は全て捕まえた筈だけと」
ウィッカーマンの反対の肩に座るカボチャ頭に声を掛ける。
「ヤホホ、吾輩スティンジー・ジャック。今宵はサウィンの祭なれば、怨霊のたぐいが震えるのも道理でありましょう」
朗らかな笑い声。しかし風が一瞬だけ、背筋を撫でた。
「ああ、お盆の類ね。仮面をかぶる限りは居てもいいけど――隠せてないわよ」
神流の視点がカボチャの奥を深く見つめる。 そこに見えるはずの光は、妙に鈍く、奥底で何かがうごめいた。
「おや、見えますかな?」
一拍遅れて、ジャックの声は笑みに滲む。だが、その笑みには炉端の温かさではなく、地下室にしみ込む湿り気のような冷たさがあった。
「そうね……殺気というより、おもちゃをもらった子供のような顔。怨霊を自称するだけあって自己分析は完璧ね――」
神流はふっと笑みを作ったが、傍の空気はやけに静まりかえっていた。
遠くで笛と太鼓が鳴る。
「……はた迷惑」
カボチャ頭のランタンから炎があふれ、ウィッカーマンごと神流を炎が包んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます