夢か現か異世界か

 さて、短機関銃サブマシンガンで身体をハチの巣にされ気付いたら見知らぬ森の中、というような誰しもが一度は体験するであろう現象に見舞われてから半日。


「つっかれたぁ。あの猿もどき達、執念深すぎるよ」


 酷くしつこい猿もどき達を振り切ったフウの姿は未だ森の中にあった。


「そろそろ見通しも悪くなってきたし、ここら辺で一旦休憩かなぁ」


 この見知らぬ森にも夜は等しく訪れるらしく、太陽は既に木々の陰へと姿を隠し帳が森へ覆いかぶさろうとしている。


 フウは川辺で石を拾ってコの字型に並べ、木の枝や葉に苦労してライターで着火。洗った木筒に川の水を汲み、その焚火へと晒した。しばらくして煮沸の済んだ水に、息を吹きかけ冷ましながら口を付ける。

 そして数度に分けゆっくりと水を飲み欲した頃には、辺りは完全に闇に閉ざされていた。近くの手頃な木に登り中程の幹の分かれ目に腰を降ろし、安定するよう体勢を調整して瞼を閉じる。

 

 それからウトウトと浅い仮眠を挟みどのくらいが経っただろうか。星は姿を隠し空の色も青藍色に色づき始めた明け方、意識を覚醒させたフウは木から飛び降りてグーッと大きく伸びをし周囲に視線を巡らせる。


「んー、やっぱり夢じゃない、よねぇ。周りに生き物の影は無し、と」

 

 森の中は木々の陰でまだうす暗いが暗所での活動は得意分野。空に多少の明かりがあれば周囲の把握くらいは可能だ。まずは手元の装備に問題が無いかの確認を始める。


 昨日確認してから一度も手放していないのだから必要ないだろうと言えばそれはそうなのだが、もはやこれは日課の一つであり、やらないと落ち着かない。


 手元の消音狙撃銃VSSにダガーナイフ、財布にライターまで確認したフウは最後に一応と弾薬箱を取り出し、そこでおかしな事に気付いた。


「あれ?」


 そこに収められていたのは9×39mm弾が一発。これはおかしな事だ。

 元々この森で目を覚ました時、弾薬箱に入っていた銃弾は十発。昨日その全てを狙撃銃へ装填、猿もどきを撃つ際に一発消費したのだから、余りがある筈はない。

 念の為にもう一度確認してみるが、弾倉に装填されている弾の数はやはり九発だ。


「幻でも見てた?いや、じゃあこの木筒は何って話だしなぁ」


 猿もどきから拝借した木筒はしっかりと手元に存在している。


 弾倉に装填されていた弾を一度全て取り出して弾薬箱へ仕舞い、代わりに出所不明な謎の弾一発を装填。少し先の木へ銃口を向け引き金を絞ると、コシュッという銃声と共に弾が幹の中心を穿った。


「しっかりと本物みたいだけど」


 確認するため木へと近寄り手を伸ばしたその刹那、


「っ?!」


 ノイズが走ったかのように幹にめり込んでいた弾の輪郭がブレ、弾痕だけ残して消える。まさか、と弾薬箱に視線を向けると9×39mm弾はが元通り嵌め込まれていた。


 どうも発砲した銃弾が消失し使用前の状態で弾薬箱へ戻っているらしい。


 どういう事?いや、まぁボクとしては助かるからありがたいけど、また謎が増えたね……


 この森で気が付いて以降、身体の変化に運動能力の異様な向上にこれまで見たどんな生き物とも似つかわない猿もどきの群れ。そして今回の使用した筈の銃弾の復元とあり得ない現象が続いている。

 普通に考えれば夢としか思えないが、それは既に試して違うと答えが出た。


 ボクの頭がおかしくなってずっと幻覚を見ている、とか?


 思いつく中では最も現実的にあり得そうな可能性だが、だとするなら考えるだけ無駄という結論になってしまう。何せ、自分が狂っているのでは?と疑えるだけの理性がありながらも幻覚から覚めないなら打てる手がない。


 他に考えうるとしたら、


 ここが地球じゃないか、だ。


 例えば、童話に語られる異界、はたまたSF作品に登場する平行時空、または宇宙の何処かにあるだろう地球に近しい環境の天体。突拍子もない冗談のような話だ。けれど、あくまで空想の域に過ぎないそれらを

 そして証明出来ないという点では人間の意識が死後どうなるかという命題も同じ。そう、そもそも前提としてフウは間違いなく死んでいる筈なのだ。その死と同時に地球とは全く異なる時空へ飛ばされたとするのなら、この森で遭遇した理解不能な事象も『世界を構築する法則や築かれた生態系が地球とは異なるから』で無理やり納得することも出来る。


 そう仮定するのであれば、まずはこの世界における霊長と接触したいところだ。昨日遭遇した猿もどきから考えるに、この世界にもある程度の知性や社会性を有した生き物が生息しているのは間違いない。おそらく、更に高度な知性を有しコミュニケーション可能な生物もいるだろう。


 まぁあの猿もどきが知的生物の頂点だった場合はお手上げだけど。


 そう考えた直後、木々の間を吹き抜けた風に乗ってガキンッという微かな音がフウの聴覚へと届く。それは自然界では中々聞くことのない金属音。


 そちらを見据えたフウの瞳には、期待と好奇心の色がありありと浮かんでいた。

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