夢日記
鵙の頭
不自由
不自由だ。
「太郎。おはよう」
「おはよう。母さん」
不自由だ。
「朝ごはん、トーストよ」
「ん。ありがと」
僕は、不自由だ。
「……………………」
「……………………」
僕達は、不自由な世界で生きている。
今年 高校二年生になる
静かな食卓、日光が入ってこない自分の部屋、見ることさえ躊躇われる親の寝室。
今も、トーストを食べながら、ほぼもう見ていないような、虚ろな精神でテレビのニュースを見ている。母親と二人。横をチラリと伺った。
同じ物を見ているが、同じ場所では生きていない。
そんなことは、一緒に生きてきた十七年間で分かりきっていた。視線を自分の皿に落とし、ゆっくりと手を伸ばし、トーストを持ち上げ、そして噛む。
味気がしなかった。ジャムも何も塗られていないトースト。それを食べながら太郎は、つくづく自分は自由になれないと心の中で吐くのだった。
そもそも自由というものが分からない。ただ、自分が不自由だということは分かった。家にいるだけで閉塞感が込み上げる。
そんな人生が不自由でないなら、どんな人生が不自由なんだろうか。
息苦しかった。毎日を生きるのが。人間が一番適応しているはずの陸の上に住んでいるのに、ずっと水中にいるかのように息苦しい。
味のしないトーストを、牛乳で押し込んだ。静かに立ち上がり、パンのカスが散らばっている皿を持って、軽く水で流してシンクに置いておく。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
食卓から聞こえる声。玄関からは、母の姿は見えない。
太郎にとってはいつものことだ。家より不自由ではない学校に行くため、静かに扉を開けた。
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