ep36魔神ちゃん止まって!:蒼い輝石から魂の声に耳を傾けて。

 

 倒れた二人の体から、何かが煌めいた。

 

 クゥちゃんがゆっくりと近づいて、ピクリとも動かなくなった彼女たちをうかがう。

 

 ノクスマリの手には、鉱石のような何かが握られていた。

 マネコリスの腹部に深々と刺さって、心臓に達しているのは明らかだった。

 青く輝く鋭い先端が背中から突き出し、致命となっている。

 彼女を抱いているマネコリスの手にも、同じものが握られ、背中から腹部に掛けて貫通していた。瞬間的に認識して同じものを複製したのだろう。

 しかしなぜそれが刺さっているのか分からない。

 単にお互い、命を奪いたかったのか……。

 

 静寂の中、ふたつの身体がぴたりと重なっていて、自分一人だけが残されたように感じる。


 (そうだ、兵士は?)

 クゥちゃんは辺りを見渡す。

 兵士たちは槍や剣で刺し合ってとうに絶命していた。同時多発的に精神を侵されて、互いを攻撃するように仕組まれたのか。

 気づかない間にもこうして命は失われていたことに、恐怖の感情が湧いた。


 なんで、どうして……。

 疑問に惑っていると、二人が突き刺しあった鉱石が淡く光を放ち始めた。


 「これは……」

 クゥちゃんは屈んで、鉱石をまじまじと観察する。

 

 中から何かが聞こえた気がした。

 

 間近に耳を寄せて、傾聴する。「大丈夫、大丈夫だから」「今はこれでいい、これを持って君はここを離れるんだ」

 鉱石の中から聞こえる声はノクスマリと、マネコリスだった。

 何がどうしているのかわからないが、二人の意識が……あるいは魂だろうか――鉱石の中から想いが聴こえた気がした。


「わたしは、どうしたらいい……」

 クゥちゃんは、皆が倒れたその場所で、ただ途方に暮れた。森の中、空を仰ぎ見て、ぼーっと。

 ただ何も考えられなくて、見えている筈の青空なんか、どこにも入っていかなかった。空虚な黒が頭を支配していた。宇宙の黒が、青を飛ばしてしまった。


 すると、ふと脳裏に先ほど別れた友人の姿が焼き付いた。

「トレイル……」

 トレイル・ラース。黄色い髪の少年のような少女。爆熱魔術で剣を焦がし、溶かした、キスア・メルティの依頼人……。


「もし……」

 

 もしも、あの人モドキの力が、その場にいた誰もかれも巻きこんで、心をぐちゃぐちゃにしてしまうものだとしたら……。

 もし、トレイルにあの悪意が潜んでいるのだとしたら……。


 

 心に灯がともった。

 そして、駆けだした。

 

 許せなくなった。あいつを、そして――自分を。


 (無事でいて……トレイル)


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