ep32魔神ちゃん止まって!:いびつな魂の生き人形と、汚れをものともしない拳!
「祝福なき孤独な存在……あなたもまた、与える側なのですね」
そう言い残すと、羽を生やした人モドキはガクリと
(あまりにもあっけなさすぎる。これほどのことをしておいて、そんなはずは……)
クゥちゃんは疑問に思ったまま、ひとまず貫いた拳を残りカスの傀儡から引き抜いた。
ビチャリと音を立て拳が汚れに塗れたのをみて、クゥちゃんはしかめ面になった。
見渡す景色は辺り一面、土のトゲだらけ。一つ一つが大きく
トゲの根元にはそれぞれ脈動する黒い肉塊があるが、そこからどこかに繋がって糸が張っているのが見える。しかしその糸は所在なく広場の中心で途切れていた。
親玉に繋がっていると思ったが、先ほどまで見えていたのは気のせいだったのか、今はどこを見ても見当たらない。
「あの魔獣なら北東に向かっていくのを見た、数人を伴ってな……」
突然聞こえた声の方を振り向くと、マネコリスが立っていた。その姿は傷だらけで、痛々しかった。切り傷、擦り傷、打撲痕……一方的だったかのような死なず生かさずの有様だ。
「そう……」
素っ気ない返事を返して、マネコリスの反応を見た。
「君のような強い者がいるなんて聞いたことはなかったが……君は何者なんだ」
身長にはあえて触れず、幼い容姿にもかかわらず常人離れした身体能力の持ち主であるその正体を探ろうとしているのか、マネコリスは視線を合わせ、真実をその瞳に映し出そうとしていた。
だが、やはり体力の限界も近いのだろう。マネコリスはふと視線を外し、そびえ立つトゲの根元に背を預けて腰を落ち着けた。そして息を乱しながら、しかし再び視線だけをこちらに向けた。
「今はクゥ。ただのクゥだよ」
「そうか……。 それにしても、君にはアレの力は通用しないのか……。これは光明なのかもしれないな」
「どういうこと?」
クゥちゃんは座り込むと、首をかしげて見つめた。
「あいつには意識を乱す力がある。記憶に潜み、魂に絡みつく。そうやって同士討ちを謀ったんだ」
俯いて、焼き付いた記憶を拾うように語っている。
「でももういない、私が殺した」
運よく敵の攻撃が当たらなかったか、躱したか、どちらにせよもう存在しない脅威の話をされ、興味を無くしたクゥちゃんはそっぽを向いて立ち上がる。
「違う。あれはもう抜け殻と言ってもいい。今はもう別の者に潜んでいる。 よく見ろ、見覚えのある者の死体がここにないだろう。おまえたちが会話をしたあいつの死体が……」
気になる言葉に再び顔を向けると、そう言ったマネコリスの頭には、ノクスマリが被っていた大きなとんがり帽子がのっているのに気が付いた。
「その帽子……」
「これはもともと私の物だ、不要な時には預けていたが……今は違う。そしてもう、預けることは出来ないだろうな……」
マネコリスは表情に影を落とし、帽子を深く被った。
マネコリスはノクスマリがどこへ行ったのかを見ていた。しかし自分はもはや動くこともままならないのだと、クゥちゃんに追うことを懇願した。
「小さな君にお願いするのは胸の痛むことだが……頼もしいと思ったんだ。だから君に――」
言い終わる前にクゥちゃんは手で制止した。無言のまま、ただその方角を話すのを促していた。
「あ、あぁ……あっちだ……」
マネコリスはなんとか腕を上げ、その方角を指し示す。
そうしてクゥちゃんは方角を知ると、すかさず走って行ってしまった。
「……はぁ、頼もしいな…………」
頼ることしかできない自分に嫌気がさした。それと同時に、クゥちゃんの心強さに少し嬉しさも覚えてしまった。
なぜだかわからないが、あの子ならなんとかできるような気がする。そんな木漏れ日に差す光のような安らぎを感じた。
けれどマネコリスは、こんなところでただ待つことしかできないことに折り合いがつけられない。
自分の至らなさを愛せばいいのか、奮い立てばいいのか。ともあれ、こんな状態ではまともに結論を出せそうもなかった――。
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