第6章『出会いと約束』
第31話
〜ゾナリス到着から一夜明けたストワード中央 アントワーヌの自室〜
「おはよう、アレスト」
「あぁ。おはよう、アントワーヌサン。あれっ、レモーネサンはいないのか?」
「彼女は少し調べ物をしに出ているのだ」
「ふぅん」
アレストがアントワーヌの向かいに座る。
「それで、昨日は話が途中だったね。テリーナサンの件」
「......アレスト」
「......」
「ランプに封印されていた神のことは、レモーネから聞いたのだ。僕も昨日まで知らなかったのだ。オーダムの魔女とシャフマのツザール村のごく一部の人間しか知らないのだ」
「誰かがイタズラにでもランプを壊したりなどしたら、大陸は無事では済まないのだから」
アントワーヌは頭を抱える。
「......シャフマ神、だな」
「そう、なのだ」
「『砂時計』を創るときにその神の魔力を使ったという話だ。シャフマの国が成る原因になったわけだな。俺たちとは因縁がある」
「そしてそれが、ザックの魔法で解き放たれた」
「テリーナの体に、シャフマ神が......」
「あぁ。まさかとは思うが......」
アレストが一瞬言葉を詰まらせる。しかし、すぐに口を開き直し、
「テリーナサンの体に、砂時計が入っているかもしれないな」
と、静かに言った。
アントワーヌが青ざめる。
そう、それが最悪のシナリオだった。
(そうなのだ、アレスト......。僕は、それが怖い)
(あの恐ろしい『砂時計』の魔法が使える神が、テリーナに『砂時計』を植え付けていることが)
(恐ろしかった、だから君に電話をかけたのだ)
「っ......アレスト、一緒に確かめてくれ」
『砂時計』の有無を確かめる方法はたった一つ。
所有者の疑いがある人物の背中を見ることだ。
〜シャフマ中央 アントワーヌの家 前〜
ザックは足がすくんでいた。あれから......大統領アントワーヌの家に雷を落としてから......2週間と4日。
アントワーヌの家の前で、動けずにいたのだ。
(俺を監禁したのがアントワーヌの可能性も高いのに......)
相当怒っているだろう。
(ゾナリスや父さんの手前、死刑を取り下げて話に応じると言っただけかもしれないし)
相当恨まれているだろう。
(すまない、って頭を下げたくらいじゃあきっと許してもらえない。死刑は免れても何十年も懲役させられるかも)
足が上がらない。自分はまだ見つかっていないのだ。
(このまま、どこかに逃げてしまおうか)
簡単なことだ。引き返せばいい。
(だが......)
(父さんの助力がなければ、デヴォンたちはどうなる?)
(ゾナリスは『アレスさんならなんとかしてくれる』と言った)
(デヴォン、ヴァレリア、リュウガ......)
(ダメだ!俺一人じゃあ、救えない)
「っ......ラビー、行くぞ!正面から!!!」
「うん!お兄ちゃん!」
ザックがラビーの手を強く握る。汗で濡れていたが、ラビーはなにも言わなかった。
「鍵がかかってるよぉ〜」
「当然だな」
そりゃあそうだ。誰に雷を落とされるかも分からないのに、無防備なはずがない。
「裏口探す〜?僕、そういうの得意だよぉ」
ラビーが走って裏に行く。
「いや、ちょっと待て!怪しまれるだけだ!」
それを追いかけるザック。
裏は庭になっているようだ。柵が邪魔してよく見えないが。
「お兄ちゃん、こっちから入って!僕はぁ、向こうの方から入る!」
裏庭には、小さな花がたくさん生えている。
「おいおい勝手に決めるなよ、怪しまれたら話どころじゃあなくな......」
ふと、花畑の真ん中にいる金髪の少女が目に入った。
(......誰だ?)
片目を隠した、お下げ髪の少女。真っ青な瞳に、ゾクリとする。
一本の白い薔薇を持ち、白いブラウスと黒いスカートを着た少女。長い金髪がストワードの冷たい風に揺れている。
(近くで顔が見たい)
吸い寄せられる。本能と呼ぶべきか、熱い衝動。
ザックは柵に片足をかけ、小さな声で浮遊魔法の呪文を唱えた。トスンッ......。静かに地面に足を降ろす。
「......えっ?」
突然現れた黒髪の青年に、金髪の少女が目を見開く。その反応に、酷く目眩がした。
(クラクラする......だが、悪くない)
動けずにいる少女を真っ直ぐ見つめながらゆっくりと歩いて近づく。
至近距離。息がかかるほど、2人の顔が近づいた。
「あんた......」
「......え、ええと......?」
「俺と、結婚しないか?」
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