第29話
「……ここはどこじゃ」
龍の姿で飛びすぎてしまった。魔力がパンパンになっていたから放出しながら、飛んで消費していたのだ。
「ストワードの森のようじゃのう。あ……」
目の前には見覚えのある洞窟。帰巣本能か。
「我が住んでおった洞窟じゃな。と、いうことは東へ飛んだのか。中央まで歩ける距離……いや、さっさと向かうべきじゃな。人間の造ったものに頼るのは癪じゃが、機関車に乗るとするか」
ブツブツと独り言を漏らしながらさらに東へ歩く。
「ふん、他のヤツらはどうなったんじゃ。まさかくたばっておらんじゃろうな。一番心配なのはデボンじゃ。細すぎて折れそうじゃからのう」
崖の下から上を見上げる。
「随分遠くまで……」
あの日、崖から落ちたザックの魔力を嗅ぎつけて拾ったところから始まった旅。
ストワードからシャフマへ、そしてまたシャフマからストワードへ。
「うむ。旅も良いものじゃった」
後ろには250年間引き篭っていた洞窟。
「あ……」
そして、この川は。
リュウガがヴァレリアと初めて出会った場所。
〜1年前〜
「腹が減ったのう。魚でも捕りに行くか」
無精髭を弄りながら立ち上がって洞窟の外へ出たリュウガ。
「ん?」
「……っ!」
少女が川の手前で弓を構えている。
「止まりなさい!」
甲高い声。長いスカートはボロボロになっている。
「わ、私が!その洞窟を奪いますわ!」
「は?」
「野蛮な魔族め!人喰い魔族め!人間に洞窟を明け渡しなさい!」
弓を構えて近付いてくる。
あまりに突拍子もない展開にリュウガは黙って突っ立っていることしかできなかった。
「私は、ヴァレリー……ですわ!とっても偉いんですわよ!だ、だから、魔族なんて怖くないんですわ!」
「……ほう?」
リュウガがニヤリと口角を上げる。
「なんだか知らんが、面白い女じゃのう。300年生きておる我に喧嘩を売るか」
「ひっ!?」
「なんじゃ?その矢で我を撃ち抜いてみろ!」
「え、えーい!」
無論、当たらない。
「ふんっ。何がしたいんじゃおぬしは」
「だっ……だって!」
ヴァレリーが大粒の涙を流して崩れ落ちる。
「わ、私、追い出されたんですもの!帰る家がないんですのよ!だ、だからっ、魔族の家を奪うしかないんですのよ!」
「……」
「弓なんて持ったことないのに!ううっ……」
「……そうか。まぁ、寝るだけなら」
「え?」
「寝るだけなら良いぞ」
「……わ、私のこと食べない?」
「食わぬわ。美味そうでもなんでもないわい」
「……ほんと……?」
こうしてヴァレリーとリュウガの奇妙な暮らしが始まったのだった。
ヴァレリーはリュウガといるときはリュウガの前をして動きやすい服装に着替え、髪を一つまとめにした。名前も『ヴァレリア』と呼ぶようにしてもらった。
口調も変え、父親にここにいることがバレないようにメイクも覚えた。
(そうまでして関わりたくなかった男。それがあのスナヴェル公じゃな……)
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