第28話
〜ストワード区 中央〜
「着いた……!」
ヴァレリア、ゾナリス、フィオーレが蒸気機関車から降りる。
「ヴァレリアちゃん、すぐに病院へ行こう」
ゾナリスがヴァレリアの肩を掴む。
「大丈夫だし。全然痛くないから」
真顔で言うヴァレリアに、フィオーレが首を横に振った。
「……白魔法で痛みを誤魔化しているからよ。応急手当しかしていないわ。治ってないの」
「でも、ザックたちが……師匠が……!ほら、ウチは大丈夫だし!」
ヴァレリアが両手を広げる。
「っく……!!!」
しかしすぐに胸を抑えて蹲ってしまった。
「っ、嫌だ。ウチも、皆を探しに行かなきゃ……」
「ヴァレリアちゃん。ここはオジサンに任せてよ」
ゾナリスが屈んでヴァレリアに目線を合わせる。
「君は俺の命の恩人だよ。ずっと守ってくれた」
「あ……」
「だから、アレスさんと俺は絶対に君の師匠とぼっちゃんたちを助ける。アレスさんはすごい魔法使いなんだ。信じて」
「……」
「君がここに俺を連れて来てくれたことは、皆を救うことに繋がったから。ね?」
「……分かった」
ヴァレリアが頷く。
「うふふっ、良い子ね。じゃあ私がヴァレちゃんを病院へ連れて行くわ。リスおじは父さんに早く伝えてきて」
「いいの?フィオーレもなにか用があって中央へ来たんじゃ……」
「カルロをからかいに来ただけだもの。うふふっ」
「……それ、カルロぼっちゃんに内緒にしておいた方がいい?」
「当然」
ヴァレリアとフィオーレが案内された病室に入る。
「白魔法はシャフマで使ったって言っておいたわ」
「……ありがと」
「お安い御用よ。手術、大丈夫?怖くない?」
「全然。ししょーに崖から突き落とされたときの方が怖かったしー」
ヴァレリアが眉を下げて笑う。
「あらん。やっと笑ったわね?」
「えっ」
「ずっと難しい顔してたじゃない」
「……オジサンが元気になって安心した」
「……」
「ウチだけじゃ、怪物、倒せなかったから」
また暗い顔になってしまうヴァレリア。
「ごめん、巻き込んじゃって。サイレス使ってくれてありがと」
「いいのよ。お姉さん、かわいい女の子が困ってたらいつでも魔法使っちゃう」
フィオーレがウィンクした。
「なんで、オジサンは怪物を倒せたんだろ……」
ヴァレリアの矢は効かなかったのに。
「知りたい?」
「……!」
「出来るようになりたい?」
「も、もちろんだし!」
「……犯罪でも?」
「えっ」
「うふふっ、退院したら稽古つけてあげるわ」
「や、やるし!ウチ、師匠より強くなりたい!」
「あらん。それ、師匠は知ってるの?」
「……し、師匠には言わないで欲しいし……」
窓からの風が冷たい。北国のストワードに戻ってきたことを肌で感じる。
「ねぇ、ヴァレちゃんの師匠ってどんな人?」
「ええとぉ……。背が高くて、筋肉ムキムキで、古くて大きい傷が胸とか腕にある」
「! ほ、他には?」
フィオーレが前のめりになる。
「赤くて長い髪が遠くからでも目立つんだよねー……」
「素敵な人ねェ〜!」
「声も体もほんとでかいんだよね〜……」
「いいじゃない!うふふっ」
(師匠、大丈夫だよね。あんなに強いもん)
(生きててよ……)
(……今度は絶対、ウチが助けるから)
〜ストワード ???〜
「っ……う゛おおおおっ……!!!」
咆哮。大男が暴れる。
「耐久レベル、10です」
「よし、一旦止めろ」
橙色の髪の男が手を叩く。
「これが純魔族か。初めて見たが、見事だな」
「貴様ァ……!」
「まだ喋る気力があるか」
「……我は……貴様を知っておるぞ…………」
リュウガの真っ赤な瞳が男のミント色の瞳とぶつかる。
「俺は知らない。お前のような野蛮な魔族などな」
機械のスイッチを上げ、出力を上げる音。リュウガが叫ぶ。
「か、会長。止めると……」
「あぁ。忘れていた。すまないね」
「っ……!!!」
「随分ストワードの言葉が上手いじゃないか。人間でも食って力を奪ったか?」
一瞬、リュウガの表情が変わる。
「ふっ……。食ったんだな?はははははは!!!!ころして食ったのか?それとも食ってころしたのか?」
「我がこのまま黙って捕まっておると思うなよ……」
「黙れ野蛮魔族。お前に発言権などない。おい、反応を記録しろ」
「……ヴァレリーにも」
「!?」
「貴様の娘、ヴァレリーにもこのようなことをしておったのか。貴様は……っ!!!」
「娘の話をするな!!!お前に何が分かる!!!」
会長、が、出力機を最大まで上げる。
「コイツはここでころす!!!!!!」
研究室内が大音量の警報音と真っ赤なライトでパニックになる。
「これを待っておったぞ!!!」
リュウガが最後の力を振り絞って体に力を入れる。
手錠が外れる、足枷も粉々になる。
「薄い魔力ばかり流しおって。濃い魔力なら痛く感じるように加工されておっても、吸収がいくらか楽じゃ!ガッハッハッ!!!」
リュウガが変化する。5メートルの龍に。
(傷だらけでたたかうことは無謀。だが、逃げるだけならば!)
突進で壁を壊し、目にも止まらぬ速さで逃げる。
「待て!ヴァレリーの居場所を言え!!!」
「言うかアホウが」
リュウガが口から炎を吐く。研究員たちはさらにパニックに陥る。
「ヴァレリー……何故、分かってくれないんだ……」
「父は、お前の悲しみを埋めるために……」
「あの御方のために生きているというのに……」
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