第18話

シャフマ地区の東の街に着いたザックたち。

「ザック、宿へ急ごう。すごく寒い。凍えそうだよ」

デヴォンが真剣な顔で言う。

「そんなに寒いの?あんたは俺たちの中で一番厚着だろう」

「寒いよ。ここはストワードの寒さとは違った寒さだから余計にさ……」

ストワード地区は雪が降る。シャフマ地区は乾燥地帯のため、雨雪はほとんど降らないが、温度自体はストワード地区と同じになったりはする。

「宿へすぐに行くのは賛成じゃ。はっくしょい!!!」

「オッサンも寒いのダメなんだよ。フートテチの南の方の生まれだからねー」

「肌を晒して生活できん寒さは窮屈じゃ」

そう言いながら着物の前を閉める。

「じゃあすぐに宿へ行こうか、たしか向こうに……ん?」

ザックが中央広場に出来ている人集りに気づく。

「あっちに人間がたくさんいるのう」

「ほんとだー。なにしてんだろ。……あ、ザック?」

「ちょっと、どこ行くの!?そっちは宿じゃないって!」


ザックが真っ直ぐに人集りの真ん中へ走る。

(アイツか!?アイツがこの街にいるのか!?)

広場の真ん中でカードを広げて遊んでいるのは、やはり。

「ラビー!」

「あ、ザックじゃーん」

ヒラヒラと手を振る少年。猫のフードで黒髪を隠している彼は、そう、ザックの弟。

「待っててね。すぐ終わるから。おっ、ボクこのカードで」

ラビーが1枚のカードを対戦相手に見せる。対戦相手は舌打ちをしてチップを投げた。それを器用に受け止め、口角を上げる。

「またギャンブルか?」

「だって儲かるんだもぉん、みぃんなザコだしぃ?キャハッ」

「あんたねェ……」

ザックがため息をつく。

「ってか、ザックはストワード地区に遊びに行ってたんじゃないの?もう帰る途中?」

「まぁいろいろとあってね。今は父さんに会わなくちゃあならないから帰っているのさ」

「父さん?ストワード地区中央に向かったけど」

「えっ」

「さっきリスおじが来て伝えてくれたよぉ。あ、ザックがストワードへ遊びに行ったのもそこで聞いたんだぁ」

「リスおじ……ゾナリスか!」

ゾナリスはアレストの伝令役だ。

「ザックのこと探してるって言ってたよぉ。ま、会えないなら会えないでいいとも言ってたけどさ。まだこの街にいるかもだから、あんたも探してみたら?」

「そうか……ありがとう」

頬がピクピクと引き攣る。まさか行き違いになっていたとは。完全に想定外だ。礼を言ってデヴォンたちと宿に行こうとラビーに背を向ける。

「ちょっと待ってよ『お兄ちゃん』」

ラビーの高い声だ。

「ボクもストワード中央に行きたいなぁ〜。連れて行ってよぉ」

「え?」

「かわいい服とか美味しい食べ物とかあるじゃん!欲しいなぁ〜」

キラキラした瞳でそんなことを言う。いつものオネダリだ。

「父さんに会いに行くだけだぜ?」

「それでもいいから連れて行ってよぉ。一人じゃ怖いもん。ボク、かわいいから攫われちゃうよぉ」

「……分かったよ。だがゾナリスに会うのが先だ」

「やったぁ!だぁいすき、お兄ちゃんっ」



〜翌日〜


ゾナリスはこの街にはいないようだ。すストワードへ向かう途中で会えるだろうと、ザックは荷物をまとめる。

「……俺はストワード地区中央へ戻ることになった」

ため息。せっかくシャフマ地区に帰って安心できると思っていたのに。

「ザックの父親、アレスさんがストワード地区中央に……見事な行き違いだね」

「全くじゃ」

「うーん……中央に戻るのねー」

「『お姉ちゃん』もボクたちと一緒に中央へ行くぅ?ね、ね、どーする?どーする?」

ラビーがヴァレリアの右手を握ってはしゃぐ。

「ウチは……」


―ヴァレリア!お前はダメな娘だ!もう帰ってくるな!


(……どーしよっかな……帰る家も特にないし……)


(でも、師匠が……)


ヴァレリアがリュウガの方をチラリと見る。一瞬目が合い、すぐに逸らされた。


「仕方ないのう!我が着いて行ってやる!」


(……!)


「ヴァレリアも来るじゃろう?ま、拒否権なぞないがのう!これも修行じゃ!ガッハッハッ」


(師匠……)


「そうと決まれば早速出発じゃ!シャフマは昼は暑すぎて敵わん!!」

「ウチも行くよ。ウチはスナイパーだし。また砂の怪物が出たら仕留めたげる」

それから、野宿のときの食料も。そう付け加え、眉を下げて笑う。


「バレリア、ストワードに戻りたくはないか?」

ザック、デヴォン、そして新しい仲間のラビーの少し後ろを歩くリュウガとヴァレリア。

「……いや、別に。ウチはストワードは嫌いじゃないし。あの洞窟だってストワードだったわけじゃん」

「……」

「まー、ウチは、さ」


「シャフマでもストワードでもフートテチでも、師匠と一緒にいれたらいいっていうか」


「またアイツに会ったときは、師匠がウチを守ってくれるって言ったじゃん」


「だから信じてんだよー。これでも」


彼女は普段はポーカーフェイスであまり喋らない。

(それは……こやつが……)

リュウガの大きな手のひらが、ヴァレリアの頭を撫でる。

「当然じゃ!我は強いからのう。人間になど負けん!」

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