『戦国時代を忠実に再現した超リアルな仮想現実世界で、戦国武将に生まれ変わったオレの無双伝説が今始まる!』という名のゲームをプレイした話

大肝

プロローグ

203x年x月 ~introduction 女神たちの座談会


 



「日本民族終了のお知らせとか、ちょっと笑えないよね~」


 厳島はゆるふわウェーブの掛かった艶やかで繊細な濃紺色の髪を指で弄びながら、詰まらなそうに口を尖らせて不満を漏らす。


「ほんとほんと」


 春日が何を考えているのか分からないニコニコ顔を張り付け、全く心のこもっていない棒読みの相槌でそれに応えた。


「だから私は申し上げたのですよ。下賤な輩にこの国を任せてはならないと」


 石清水は前々からこの結末を知っていたかのように自身の予想を披露し、腹を立てながらも何故か得意気に微笑んでいた。


「え~? そんなこと言ってた~?」

「ほんとほんと」

「前々から何度も申し上げておりました!」

「そうかな~? 初耳ぃ~」

「そう初耳」

「あなた方が私の話を聞いていないだけです!」

 





**********



 西暦二〇三x年、日本人の少子高齢化は更に加速し、国民平均年齢は六十歳を超えていた。

 人口減少を海外からの移民で補う政策が本格的に施行されてから凡そ二十数年が経過している。


 それを皮切りに近隣大陸の厨華皇国から大量の移民が押し寄せると、いつの間にか手厚い外国人優遇法と外国人参政権付与法が成立した。

 今では有権者の約半数が厨国人だから、既に議員の殆どは厨国に尻尾を振る者しか当選できない状態になっている。


 愛国心ある議員は駆逐された。

 売国心ある議員ばかりが蔓延る。


 厨国の傀儡と化した日本政府は法律を変え、優良国有資産を次々と彼の国へ切り売りした。

 それだけではなく、日本国土の資源地、元国営企業が有する主要インフラ、その他諸々の買収が隠す必要もなく堂々と進められた。


 日本人の総人口がピーク時から半減しているのに有権者の半数を移民が占めている。

 しかもその移民の多くは少々のカネを握らされて厨国本土を追われた自活能力のない浮浪者か病人か犯罪者だ。

 彼らが日本国内で好き放題に振る舞い罪を犯しても何故か警察も司法も動かず、何故か移民だけが手厚い医療保障と生活保護を受け、長年掛けて日本の先人達が積み上げた国富は簡単に吸い尽くされ、大多数の日本人が貧困層となり婚姻数は激減した。

 もちろん子を産み育てるだけの財力を持つ者は殆どいない。


 化石燃料資源に恵まれない国土でありながら、代替資源の研究予算すら惜しんで外国人優遇政策に国費を注ぎ込んだ日本政府の無為無策が長く続いた結果、輸入に頼るあらゆる資源は産出国側の法外な言い値で買わざるを得なくなった。

 当然ながら多くの製造業が日本国内では原料調達も儘ならず、先見性ある企業は海外へと出て行き、取り残された企業は経営困難になって倒産が続出、国内の雇用は大幅に減少した。

 陰で資源産出国へ共謀を持ち掛けて資源価格を法外な高値へと誘導していたのも、投げ売り状態となった倒産企業を二束三文で買い漁ったのも厨華皇国だった。


 日本の国土もインフラも政治や会社も悉く他国に握られて、それでも多くの日本人は長年の平和ボケですっかり牙を抜かれて危機感を持つ者は少なく、行動を起こすこともなく、ただ泥沼に足を取られて沈んでいくのを眺めて衰弱していくだけだった。


 文字通り日本民族の終了だ。


 軍事力を用いない実質的な占領であった。

 この段階に至っては自力再建の目途は完全に断たれている。

 いずれ一つの厨華に飲み込まれるのは時間の問題だろう。


 かつて大海の向こう側には、長年にわたり日本から莫大なお布施を巻き上げていた超大国があった。

 日本側は同盟国だと信じて疑わなかったが、日本が厨国のマンパワーに押し切られて草刈り場と化すや否や、海の向こうの超大国は富の争奪戦で大暴れして目ぼしい財産を早々に確保した後、あっさりと日本を切り捨てた。

 既に裏では日本の国富と国土を分け合うことで厨国と手を打っていたからだ。

 日本人は何をされても怒らないと全世界が共通認識を持っている。

 経済的旨味がなくなり負担ばかりになった泥船に拘る必要はなかったのだろう。

 味が無くなったガムは吐き捨てるだけだった。




**********



「じゃあ、どうするって言うのよ~」

「そうだ~、どうする~」


 厳島と春日の軽い掛け合いには全く議論を進める気が感じられない。

 そんな二人を見て、奈々は怒り半分呆れ半分で窘めた。


「ちょっと厳島さんも春日さんも真面目に考えましょうよ。日本の危機なんですから、こんな時ぐらい皆さんで協力して……」


「お~、パチパチ。さすが奈々ちゃんは真面目だね~」

「うん、マジメマジメ」

「名無しの奈々さんは出しゃばらないでください。ご自分だけが国を憂う優等生かのような物言いは不快です」

「はいは~い、石清水ちゃんもツンツンしないで~、仲良くしましょうよ~」

「そーそー、仲良く仲良く」

「私は貴女方と馴れ合う気はございませんの。皆さんと一緒にしないでくださるかしら? それに私はもう次の手を考えておりますのよ」

「え? 石清水ちゃんスゴイね~。で、次の手ってどうすんの~?」

「そーだー、どうするー」


「もちろん、やり直すのですよ」キリッ!



 厳島、春日、石清水、奈々の四人……いや、四柱は十数年後の近い将来に日本が滅亡することを女神達だ。


 石清水が言った「やり直す」とは、過去を改変することを意味していた。

 基本的に女神が現世に手を出すことは厳しく戒められており、もちろん過去改変なんて摂理に反する禁断の行為である。

 だからこそ、この期に及ぶまで彼女達は民族の自発自浄に期待して、ただ見守ることしかできなかったのだから。 

 それに、無理な力の行使は彼女達自身の存在をも危うくするため安易に揮える力ではない。




 今、日本人が絶滅に至ろうとしている直接の原因、それは東西の二大国から経済的政治的に事実上侵略されてしまったこと起因する。

 しかし、間接的な原因はもっと過去に発生していたはずだ。

 では、いつまで過去に遡れば、この侵略の根本原因を排除できるのだろうか。


 売国政治家が祖国を食い物にしても、なお政治に無関心な国民を育てた、戦後の平和ボケ教育が原因だろうか。

 それとも国民の教育のみならず愛国意識も変えてしまった大東亜戦争の敗戦が全ての原因なのだろうか。

 ならば、あの戦争へ突入した原因を排除するため、もっと過去に遡ればよいのだろうか。

 軍国主義に至りながらも軍部同士が足を引っ張り合う愚行と軋轢の原因が元凶だろうか。

 それとも黒船来航時に的確な手を打てなかった幕府が既に問題を抱えていたのか……


 どこまで過去に遡っても因果にキリがないし、また、原因は一つに絞れるものでもない。






 石清水の口から禁断の「やり直す」発言を聞いて、厳島と春日は興味津々で目を輝かせた。

 その様子を傍で見た奈々は心の中でため息を吐く。

 次の展開が何となく予想できてしまったからだ。



「お~!やり直すのか~! それはいいよね~。じゃあ私の可愛い子供達を送り出そう!」

「のーのー。ウチの子供達の方が適任」

「何を言っているのですか? 日本の棟梁は源氏と昔から決まっているでしょう? つまり私の子供達です。お二人はそんな基本のキの字も御存じないのですか?」

「え~、石清水ちゃんところの源氏がやった結果が今の惨状じゃ~ん」

「違いますぅ! あれは宮崎と稲荷が悪いんですぅ!」


 やっぱりこうなるか……

 奈々は嬉しくない予想が当たって、ぐったりと脱力した。

 厳島と春日と石清水の各自が『自分の子』を過去へ送り出して、天下を取らせると言い始めたからだ。


 本来の趣旨から話が逸れ始めているのに、誰も一歩も引こうとしない。

 民族滅亡の危機に瀕したこの状況に至っても、まだ内輪の主導権争いが止められないなんて……


 こんな争いになるのも、そもそも彼女達が自身では過去へ遡行できないし、現世に手を出せないからだ。

 彼女達は人類の歴史より遥か以前から、ずっと日本に存在していた。

 自身が存在した時代に自身が遡行すると、その瞬間に、同時に自身が二柱存在することになってしまう。

 同一の存在が重複することは看過されないパラドックス、深刻なエラーが生じるため絶対に避けねばならない。

 非常に繊細で壊れやすい摂理を僅かに捻じ曲げようとしているのだから、負荷が掛かって摂理が世界を壊してしまっては元も子もないのだ。


 基本的に女神が現世に手を出さないことは当然として、彼女達が持つ権能だけでなく神であること自体を人間に知られてはならない。

 もちろん過去へ送り出される当人に対しても秘密だ。

 神の存在は存在自体が神秘であるからこそ保たれるのだから。



 奈々は会話の軌道修正を図るべく、まるで我儘な子供を諭す要領で口を挟んだ。


「ある程度の歴史知識と領国経営能力と、何よりも救国の高い志を持つ有能な適正者を、皆で協力して探しましょうよ!」

「さっすが奈々ちゃんは優等生だね~。だいじょびだいじょび~。私の子供達はみ~んな有能だから、何とかなるって~」

「名無しの奈々さんはお黙りなさい。有能な適正者とは即ち貴種なのです。当然私の子供達に決まっているでしょう?」


 名が無い彼女を奈々と愛称で呼ぶ皆の声には少しの侮りを含んでいる。

 この危機的状況ですら互いにマウントを取り合い、自分の主張を押し付け合って主導権争いをしている現状に、奈々はやるせない悲しい気持ちになっていた。



 そして……

 これまで単に相槌を打つだけだった春日がボソリと呟いた。


「私は自分の候補者を用意する。皆もご勝手に」


 その一言が、この我儘な主張合戦の方向性を決定付けることとなった。

 それを聞いた厳島と石清水は目を合わせてニヤリと口角の端を上げ、それを見た奈々は頭を抱えてしまった。


「それだ~!! 春日ちゃん冴えてる~! じゃあ、いっそのこと戦国時代まで遡っちゃえ~い!」

「まあ、勝負の結果は見えていますが受けて立ちましょう」

「お~! 受けて立つぞ~!」


 過去改変はたった一人の存在が後に大きな影響を与える可能性がある。

 いや、可能性が予測できないと言っていい。

 なのにそこへ、一致協力が期待できない多人数を送り込んでどうなるのか。

 相争って混沌を生むだけではないのか。

 しかも凡そ五百年前へ送り込むとなれば、摂理に対する負荷がセーフかアウトかも微妙な本当にギリギリの攻めになってしまう。


「……はぁ」


 奈々は更に脱力してしまった。

 こうなった彼女達三人は止めても無駄だ。

 止めたところでたぶん、いや、確実に、各自が自分だけ勝手に実行してしまうだろう。


 奈々は悟った。

 少数派の自分だけでは、このビッグウェーブには抗えないことを……










**********




「と言うわけで神宮さん、戦国時代に行きませんか?」

「え? どういうわけ?」


 突然、何の前触れも説明も無く、どういうわけかも分からず、俺は「戦国時代に行きませんか?」と誘われてしまった。


 誘った少女は萌黄の和装が良く似合う茶屋の娘で、胸には「奈々」と書いたネームプレートを付けている。 

 艶々の黒髪で人形のように揃った前髪、生真面目そうな切れ長の整った猫目に小振りの薄い唇は何処から見ても純和風の美少女だ。

 そんな奈々ちゃんに、うるうる上目遣いでヘンテコなお願い事をされて俺は狼狽えていた。

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