45日目 どこでも穴

 僕は火星での研究任務を拝命して、ワームホール便で向こうに行くことになった。

 ワームホール便は距離を無視して移動できる手段だ。しかし、コストがかかるため、今は月や火星に向かうときくらいしか使うことが出来ない。もちろん、僕は初めて使う事になる。

 ワームホール便について説明する時、どこでもドアのようなものだ、と言われる。しかし、使い勝手は全然違う。

 ワームホールを使う場合には、人の身体を入れる大きな筒に入れられる。その筒は一列に並べられて、ワームホールに向かってどんどん加速する。そして、最高速度に達した段階でワームホールに突入するのだ。

 なぜこのような仕組みになっているのかと言えば、ワームホールを開けるためのエネルギー量が非常に多いからだった。そのため、ワームホールを開くのは可能な限り短い時間で、最小限の大きさで行うことになっていて、高速で移動する筒が数秒でワームホールに突入するという仕組みになっているのだった。

 僕はその仕組みをしっかり頭に入れていたのだが、慣れない移動手段であることの不安はなくない。もし、ワームホールではなく壁に突撃したら、即死である。

 一人用の狭い筒の中でそんな不安に駆られながら、身体にかかる加速度を味わっていたのだが、かなりの速度になったところで原則に転じ始め、止まったところで外の人の手で筒の扉が開かれた。

 そこは、もう既に火星になっていて、とても素晴らしい技術だ、と感心した。


 火星の研究所は実に良い研究環境だった。地球にいた頃、理論でしか出来なかったことが実証で簡単に確かめる事が出来る。今のところは余計な雑務に関わられることもない。僕はそんな生活に満足していた。

 火星の研究所で不思議な事と言えば、なぜかダイエットについてとても宣伝されていることだった。ご飯を大盛りにしようとすると、嫌な顔をされたりする。

 確かに先任の研究者達は皆太り気味だったので、そう言われるのもおかしくはないのかもしれない。そんな風に思っていたのだが、ある日真実を告げられた。

「太って、ワームホール便の筒に入れなくなれば、地球に戻されることがなくなるからだよ」

 僕は納得し、早速逆ダイエットを始めなければ、と決心したのだった。

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