33日目 社内恋愛禁止規定

 大学を卒業して入った会社は、社員同士の飲み会などが禁止だった。

「そういう業務時間外の誘いは禁止されているんだって」

「へー」

「だから、社内恋愛とかも禁止らしいよ」

 新人として入社したばかりの頃は、会社での付き合いなんて不要だ、なんてことを思っていたので、そういった社風であればむしろやりやすいものだ。僕はそんな風に考えていた。


 そんな僕が、同期の水田かなえと付き合い始めたのは、入社して十年経ってからだった。

 長い付き合いにはなるが、異性として意識したのはここ最近の事だった。もともと水田は同期の中でも優秀と言われているウチの一人で、同じく優秀だとされていた僕はライバルとして意識していたのだった。

 新人として配属された部署も別だったので、仕事の付き合いも少なく、新人時代以降はほとんど忘れていて、たまに社内の報知で名前を見るくらいだった。

 それが直近の一年で水田が異動してこちらの部署にやって来て、同じプロジェクトを一緒に任されることとなった。大変なプロジェクトで、僕も水田も夜遅くまで会社に残って仕事をすることになった。水田は異動してきたばかりだというのに優秀だった。

 やはり一緒にいる時間が長いといろいろと見え方も変わる物である。プロジェクトの打ち上げの後、二次会、三次会と続き、そこでデートの約束をしてしまった。幸いにも、水田も僕のことを同じように思ってくれていたようで、うまいこと恋人関係に慣れたというわけである。


 水田と付き合い始めてから、僕たちは社内恋愛禁止の規定について意識せざるを得なかった。

 少し周りに聞いてみたんだけど、と前置きして水田は言った。

「どうやら、大学時代からの関係です、って言うのであれば大丈夫らしい」

「いや、もう入社して十年目だし、ダメじゃない?」

「だよね。あとは、共通の知り合いがいて、みたいなのでも良いらしいけど」

「いなくない?」

 一応確認してみたのだが、水田は東京の大学で、僕は大阪の大学を卒業している。地元もそれぞれ別だし、趣味なんかも共通の物はない。

 最悪、片方が会社を辞めるか、なんて話まで出たのだが、うちの会社は福利厚生がしっかりしているので、それをするのも惜しかった。

「共通の友人がいないなら、作っちゃえばいいんじゃない?」

 煮詰まった水田はそんなことを言い出した。

 僕と水田は、それぞれ友人関係をさぐり、合コンを開くことになった。

 もう結婚した人もいるので、それほど何回も取れる手ではない。僕たちは気合いを入れて会をセットした。

僕たちの尽力の結果なのか、それとも相性が良かっただけなのか、会は成功し、一組のカップルが生まれた。さらに、そのほかのメンバーも相性は良くなかったので、僕と水田も含めたグループで遊んだりもしよう、ということになった。

 ここまでくれば、付き合った順番を逆にして、別のカップル経由でグループ交際することになった、という言いわけも通るだろう、と僕と水田は安堵した。


  結婚の報告を上司にすると、上司は特に咎めることもなく祝福してくれた。

 少し肩透かしを食らった僕は、庶務事項を話した後に、つい聞いてしまった。

「あの、社内恋愛って、禁止じゃなかったんですか?」

「あぁ、あれね。噂はあるけど、別にそんなことないから」

 僕と水田は、無駄な事をしてしまった、とお互いに目を向け合って苦笑いした。

 その様子を見たからなのか、上司は言った。

「実は噂の元になった話が合ってね」

 この会社では、飲み会などは禁止としているが、そのことで社内の交流が不十分になり、事故が起こることがあったのだという。その解決策を考えていたときに、社長がこんなことを言ったのだそうだ。

「活性化したいなら、むしろ禁止にすれば良いだろう」

 その話が、今になっても噂話として残っているということらしく、実際に社内恋愛する人は多くなったそうである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る