第53話

 魔物を避けながら、見つからない様に、ひっそり近づく。

 

 相手の出方が分からない。

 迂闊うかつに近づくのは危険ね。

 

 バックからナイフ3本取り出し、カバーを外す。

 左手に二本、右手に一本、握った。

 

 相手の後ろは木がある。

 狙うんだったら、側面からね。


 ナイフが届きそうな所まで移動する。

 よし、この辺だったら届きそう。


 狙いを定め、思いっきり男に投げつける。


 いっけーー。

 

 ナイフは真っ直ぐ、男の方へ飛んでいく。

 だが……しまった!

 あれじゃ、届かない!

 

 ナイフは思ったとおり、男には届かず、手前の足もとに突き刺さった。

 

 男がナイフに気付き、顔をこちらに向ける。

 

 私の方へと体を向けると、「小娘ごときが、私の邪魔をするって言うのか」

 

 低くて野太い声が私を威圧する。

 男は腰から、ショートソードを取り出すと、構えた。

 

 やつが近づいてきた所で、私は右手にナイフを持った。


 ゆっくりと男が近づいてくる。

 私は一本目のナイフを投げた。

 

 この距離なら届くはず。

 ナイフは届いたが、難なく避けられる。


 じゃあ、これならどう?

 もう一本のナイフを右手に持ち、投げつけた。

 

 次は難なく、剣で弾かれた。


 こいつ、戦い慣れている……。

 剣を鞘から抜き、構えた。

  

 背中にスゥーッと汗が流れる。

 

 さぁ、どうする?

 こいつは明らかに格上。

 クラークさんの言葉を思い出す。


『格上相手に、真正面から攻撃をしてどうする? 頭を使え』

 

 頭を……思いついた。

 小娘ごときと馬鹿にし、腹を立てるぐらいだ。


 きっと上手くいく。 

 試したことないけど、一か八か、やるしかない!


「降参!」

 

 私はそう言って、剣を地面に置き、両手をあげた。


「ふっ、それで俺が攻撃を止めるとでも?」


 やっぱりそう来た。プライドが高い!


 男が剣を振り上げると同時に、私は剣の柄頭を触っている右足に グイッと力を入れた。


 ショートソードが右手に欲しい!

 

 キュイン──。

 

 右手が光ると同時に、男が斬りつけてくる。


 私は後ろに避けた。

 

 ポンッ!

 

 右手にショートソードが出来上がると、私は左足を軸に、男の右手を思いっきり、斬りつけた。


 鮮血が噴き出て、男の剣が地面に落ちる。

 私は剣を男に向かって突き出した。


「転移の指輪を渡してください」


 男は斬られた右腕を左手で抑えながら、

「お前もこれが目的か。そう言われて渡すとでも?」


 クラークさんが男の後ろから歩いてくる。


「黙って渡せ。お前の噂は聞いている。その指輪を使って、異世界に転移し、魔物を撒き散らせているそうだな。そんな奴に、持たせておく訳にはいかない」


「……」

 

 男は黙って下を向いている。


「殺して奪って、欲しいのか?」


 男は黙って指輪を外し、地面に放り投げた。

 クラークさんが拾い上げ、ズボンのポケットに入れる。


「いくぞ、ミント」

「はい!」

 

 私はショートソードを回収した。

 周りにいた魔物が片付いている。

 さすがね。


「くっくっくっ」


 気でも狂ったのか、男が不気味な笑いをしている。

 男はフードから回復薬を取り出すと、グイッと飲み干した。


「奪われたのなら、奪い返すまでよッ」


 男が何やら呪文を唱えている。

 

「ミント、離れていろ」

 と、クラークさんは言うと、私の前に立ち、剣を構えた。


 アラン君も駆け寄ってきて、私の前に立つ。

 

 男の詠唱が終わり、魔物が召喚される。


 鋭い黄色の目に、細長く鋭い牙2本、口から長い舌をチョロチョロ出している。


 緑色の体に鱗があり、羽根のないドラゴンと言っても過言ではない大きな大蛇だ。


「まったく、ラスボスにふさわしいもの、召喚しやがって」

 

 アラン君がそう呟く。


「やつの牙に気をつけろ。きっと毒を持っているはずだ」

「はい!」


「さて、大蛇の方は俺が引きつけておいてやる。お前は奴をサッサと片づけて来い。増やさせれも厄介だ」


「了解」


 アラン君が男の方へと走って行く。

 クラークさんは、ゆっくり大蛇に向かって歩いていった。


 二人の戦いに目が離せない。


 男は剣を拾い上げ、構えた。


「せっかくクラークさんが見逃してくれたのに、逃げないなんてバカだな」


 アラン君はそう言ってニヤリと笑った。


「弱っているとはいえ、俺に勝てるとでも思っている口ぶりだな」


「勝てるさ」

「ほざけッ」


 アラン君の剣と、男の剣が火花を散らし、激しくぶつかり合う。

 

 回復薬で腕が治ったにしても、完全ではないはず。

 そんな状態で、アラン君と互角に渡り合うなんて……。

 そんな奴を相手にしたなんて、今思うとゾッとする。

 

「ファイヤーボールッ」

 

 アラン君が魔法を繰り出す。

 だが男は難なく、右にかわした。

 アラン君のファイヤーボールだって、大きくて速くなっているはずなのに。

 

 男の動きを観察する。

 考えたらあいつ。いままで魔法は召喚だけ。

 もしかして、召喚魔法しか使えない?

 

 アラン君が男を蹴り飛ばす。

 男は態勢を崩し、膝をついた。


「どうした? 魔法を出してみろよ」

 と、アラン君は男と距離を詰め、言った。

 

 男は立ち上がると、「生意気な小僧だ。気付いているのだろ?」


「――あぁ。時間稼ぎだ。くらえ、フレイムッ」

 

 男は避けたが、広範囲の炎の渦に足が巻き込まれ、火傷を負った。


「これで素早く動けないな」


 アラン君はそう言うと、男に突き出した。

 

「ちっ」


「お前に恨みはないが、お前みたいなタイプは、きっと報復に来る。それに、お前が解き放った魔物で罪のない人々が死んでいったと思えば、償うべきだ」


 アラン君が剣を振り上げる。

 思わず目を逸らしてしまった。

 

 ソッと視線を戻す。

 その頃にはもう、決着はついていた。

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