第52話

 30分ほど歩き、林に到着する。


 林の中は、細い木が生い茂っているものの、木漏れ日より暗くはない。


 木の間隔も広く、歩くのに苦労は無さそうだ。


「ここから十分ほど歩くと到着だ」

 と、アラン君は歩きながら言った。


「意外に街から近いのね」

「あぁ。だから目撃情報もチラホラあり、噂になっていた」


「傭兵を雇って退治するって、話にはならなかったの?」

「実害がないから、手を出していないらしい」


「用心深いのかしら?」

「かもな」


 奥に進むにつれ、開けていく。

 数分経つと、見覚えのあるロングコートを着た男性が見えた。

 

 え? クラークさん?

 

 アラン君は男性に近づくと、「クラークさん。遅くなって、すみません」

 

「構わん」


 私も近づくと、「クラークさん、何でここに?」


「お前を連れて来たいから、見張りをして欲しいとアランに頼まれた」

「あー、そういうことですか」


「アラン、見張りをしていた数日だが、やつに動きは無かったぞ」

「そうですか、ありがとうございます」


「攻め込むのか?」

「はい」


「ではまず、奴らを片づけないとな」

「そうですね」


 ボロ家の周りにはオークやゴブリン、プラントAまでもいる。

 あれは……。


 オーク達に混じって数匹、頭は犬で、体は人間のような姿をしたコボルトが混じっている。


 槍を持っており、毛は茶色、私を殺した種類に似ている。

 いったい、何匹の魔物がいるのだろうか?


 あれだけ居れば不自然に思われるのも仕方ない。


「俺がまず囮になって、戦います。その隙に、クラークさんはサンダーレインの準備を」

「うむ、分かった」


「ミントはクラークさんの後ろに居てくれ」

「うん。気を付けてね」

「あぁ。これぐらいならいけるはずだ」


 アラン君はそう言うと、私より長い両刃の剣を抜いた。

 私に背を向け、ゆっくりと魔物の方へと歩いて行く。

 

「一気に方をつける! フレイムッ」

 

 なぎ払うかのように炎が放たれ、渦となっていく。

 以前のフレイムとは威力も範囲も段違いだ。


 数十匹の魔物はアラン君の炎に巻き込まれ、灰と化していった。

 

 ドキ、ドキ、ドキ……。

 アラン君の成長が私を興奮させる。

 

 続いてアラン君は狙いを定めたかのように、真っ直ぐプラントAに向かっていく。


 速い! 魔力だけじゃない。

 速さにもキレがあり、上がっているのが見て取れる。


 プラントAはあっという間に、上半身が切断された。


 これなら数分で全滅、出来そうね。

 そう思った瞬間――。


「しまった! 皆、口を塞げッ!」


 慌てて口を塞ぎ、後ずさりする。

 

 プラントAがアラン君の炎に巻き込まれ、毒袋が破けた。

 辺りが紫色の霧となっていく。

 

 幸い、こちらには届いていない。

 だけどアラン君は、バンダナで口を塞ぐものの直撃だ。

 

 急いで、毒消し薬をバックから取り出す。

 

 毒の霧が晴れ、アラン君の姿が見えてくる。

 アラン君は、地面に膝をついていた。

 

「アランッ、退け!」

 

 クラークさんがそう叫ぶと、アラン君は首を振った。


「大丈夫、まだやれます」

 と、アラン君は、体を微かに震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

 クラークさんはアラン君の方へと駆け寄り、

「どの道、サンダーレインは間に合わん! 今度は俺が、引きつける。早くミントの所へ行け」

 

「すみません。では、お願いします」

 

 私は毒消し薬の蓋を開けると、アラン君に駆け寄った。

 アラン君は私から薬を受け取ると、飲み干した。


「大丈夫?」

「あぁ、ありがとう。助かった」

 

 アラン君はそう言うと、バンダナをまた頭に巻き、直ぐ様、クラークさんの所へ戻って行った。

 

「すみません。クラークさん」

「構わない」


 クラークさんがそう答えたとき、ボロ家のドアが開く。

 

 ヤバい、気付かれた?


 家の中から、いかにも怪しい黒いローブを着た人が出てきた。


 フードを被っていて顔はハッキリ分からないが、髭が見えるので、男だと思う。


 ローブから覗く細い指から、多分やせ型。

 右手の人差し指に、金色の指輪をしていた。


 あれが転移の指輪かしら?


「アラン君、クラークさん。気付かれたッ!」


「何だって!」

「ちっ」

 

 二人がローブの男の方を見えると、ローブの男はプラントAを中心に、魔物を増やしていった。


「なかなかの切れ者のようだ。状況を直ぐ把握して、嫌な魔物を増やしてやがる」

 

 クラークさんはオークを斬り捨てるとそう言った。


「これじゃ、広域魔法で一気には無理ですね」

「あぁ。単体魔法と剣で、片付けるぞ」

「はい」


 二人は戦いに集中している。

 戦うために修行をしてきたのに、私は見ていて良いの?

 

 ん?

 良く見るとローブの男の口が動いている気がする。

 いや……。

 

 気のせいじゃない!

 指輪が微かに光っている。


 ヤバい、早く阻止しなくちゃ。

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