第35話

 クラークさんに付いていき、地下の入口へと到着する。

 確かに魔物の気配がなく、出会うことはなかった。


 地下の入口の周りには瓦礫がゴロゴロ転がっている。

 塞がっていたのを、クラークさんが退かしたのかしら?


 奥へと続く下りの階段は、石で出来ていて、ひび割れはあるものの、綺麗に加工されている。


 誰かが意図的に作ったのだろう。

 入口の横に、4本、先端に布が巻き付けられた木の棒が置いてある。


 たいまつ?

 クラークさんは木の棒の近くへ移動し、しゃがみ込みと、棒を2本、手にした。


 立ち上がると、こちらへ向き「前に作っておいた松明だ」


 私は近づき、1本たいまつを受け取る。


「ありがとうございます」


 クラークさんが入口へと進む。

 私も後に続く。

 完全に光が届かなくなる少し手前で、クラークさんが立ち止まった。


 上着のポケットに手を突っ込み、何かを探している。

 ポケットから手を引き抜くと、マッチが握られていた。


 私の方に振り向くと、「松明を突き出してくれ」

「はい」


 クラークさんがマッチを擦る。

 ボアッと火がつくと、たいまつの先端に付けた。


 一気に燃え広がり、辺りが明るくなる。

 床も壁も土で出来ているかと思ったら、石で出来ていた。


「進むぞ」


 クラークさんは自分の松明にも火を点けると、そう言った。


「はい」


 クラークさんが前を向き、歩きだす。

 私も後に続いた。

 

 少し進むと、いくつもの部屋に分かれた場所に辿り着く。

 各部屋には鉄格子が設置されていて、すでに壊れて、意味をなしていないものも、いくつかあった。


 中には動物だか人間だか分からない骨が転がっている。

 多分、牢屋だったのね。

 通りで、壁や床が石な訳だ。


 奥に行くと、分厚い木の扉があった。

 ドアは閉まっており、鍵は付けたままになっている。


「念のため、鍵を回収しておくか」

 と、クラークさんは言って、鍵を上着の右ポケットに入れた。


「様子を見てくる。お前は少し下がって待っていろ」

「分かりました」


 クラークさんは、ドアノブを握り、ゆっくりと扉を押して開けた。

 松明を突き出し、左右を確認している。

 問題無いと判断したのか、奥に進み、扉を閉めた。

 大丈夫かしら?

 

 数分経つ。

 様子を見に行った方が良いかな?

 でも待っていろと言われたし……。


 ガチャ!

 ドアノブが動く。

 な、何!

 慌てて、松明を突き出す。


 扉が勢いよく開き、クラークさんが入ってくる。

 松明を地面に投げ捨てると、すぐに扉を引いて閉めた。


 クラークさんは、全体重をドアノブにかけるかのように左手で引きながら、右手をポケットに入れる。

 酷く焦っているように見えた。

 

 クラークさんがポケットから鍵を取り出し、鍵をかけた瞬間。

 ドンッ! ドンッ!


 突然、ドアに何者かが勢いよく、体当たりしているような凄まじい音がした。


「危なかった」

「魔物?」

「あぁ。木の扉だから直ぐに壊される。付いてこい」

「はい」

 

 移動中も、扉から鳴りやむことなく音はしている。

 クラークさんが、牢屋の入口で立ち止まった。


「俺より前に絶対に出るな」

「はい」

 と、私は返事をして、クラークさんの後ろに行った。


 クラークさんが何やら呟いている。

 きっと呪文ね。

 

 ドンッ! ドンッ! バリバリ……。

 ドアがヒビ割れ、変形し始めた。

 クラークさん、間に合うの?

 

 ドンッ! バリバリ……。

 ついに扉が割れ、オークが隙間から入ってくる。

 1匹……2匹……いや、それどころじゃない。


 いったい、何匹いるの?

 次々と中に入ってきて、迫ってくる。


 クラークさん! と、叫びたい!

 だけど今、叫んだら詠唱の邪魔になる。

 グッと堪え、見守る。

 

 オークが飛びかかれば、クラークさんに届く位置にまで差し迫ったその時、クラークさんが、掌を空に掲げるように右腕をあげた。


「馬鹿どもめ、ゾロゾロと集まってきよって」

「サンダー」


 バリバリと雷が掌の上に集まり、


「レイン!」

 と、腕を振り下ろすと同時に放出される。


 複数の雷が、雨の如く降り注ぐ。

 眩いばかりの光に眼がチカチカし、爆発音が耳を刺激する。


 正直、いまの状態がどうなっているのかなんて分からない。

 ただ一つ言えることは、その場にいたら、ただじゃ済まなかったということだけだ。


 雷が消え、辺りが静まりかえる。

 オークだったものが、見るも無残に黒焦げになって転がっている。


 中には、灰と化しているものもいた。

 クラークさんが苦戦する相手なんているの?

 そう思うほどの圧勝だった。


 クラークさんが私の方へと振り返る。


「よくぞ、声を出さず耐えていたな」

「詠唱の邪魔になると思って」


「正しい判断だ。もしお前が私に話しかけていたら、引っ叩いていた」

「え?」

「冗談だ」


 真顔で言うものだから、冗談に聞こえなかった。

 クラークさんの冗談は分かり辛い。


「だが、怒鳴っていたのは確かだ。状況を理解せず、喚き散らすことは、自分の命どころか他人の命まで危険にさらす。危機的状況の時こそ、冷静になれ」


「はい!」

「良い返事だ」

 と、クラークさんは言うと、後ろを振り返った。


「松明を回収してくる。ここで待っていてくれ」

「はい」

 

 クラークさんが松明を拾い上げようとしたが、動きが止まる。

 その場にしゃがみ込むと、右手で何か小さいものを掴み、拾い上げた。


 何かを上着の右ポケットに入れると、松明を拾い上げ、立ち上がった。

 こちらへ歩いてくる。



 何か見つけたのかしら?


「何かみつけたんですか?」

「あぁ」

 と、クラークさんは返事をして、松明を左手に持ち替えると、右ポケットに手を入れた。


「これだ」


 掌には小さな青い、綺麗な石が乗っていた。

 宝石?


「何ですか?」

「魔力の結晶。これはその欠片だな。これ一つで何か役に立つ物ではないがお前に渡しておく」


 私は受け取ると「分かりました」

 と、返事をし、バックのポケットにしまった。


「これが落ちているということは、ここから先、危険かもしれない。今日はもう帰るぞ」

「はい」


 これが落ちているから危険? どういうことかしら?

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