第34話
次の休みの日。
私は買い物に出掛ける。
橋を渡りながら、プレゼントを何にするか考えてみる。
靴や服は、サイズが分からないし。
かといって時計は高いから遠慮されちゃうでしょ。
うーん……そういえば、クラークさんの財布、古かったわね。
財布にしよう!
雑貨屋に向かう。
中に入るとメンズの財布を探した。
黒に茶色に紺色など、様々な色がある。
確か今のは黒だったわね。
茶色とかも良さそうだけど、黒が好みなのかもしれないし、黒にするか。
あとはサイズ……。
長財布だと、はみ出したりするし、動きまわるのには不便よね?
二つ折りのにするか。
だとすると……これかな?
私は黒い革の二つ折り財布を手に取ると、レジへと向かった。
買い物を済ませ、外に出る。
思ったより早く、用事は済んだし、いまは10時30分ぐらいかな?
クラークさんの所に行っても大丈夫かな。
クラークさんが泊まっているホテルに行き、201号室に行く。
ドアをノックすると、「入っていいぞ」
と、声がした。
「お邪魔します」
と、中に入ると、クラークさんが窓の外を眺め、立っていた。
こちらへ振り返る。
私はクラークさんに近づくと、「おはようございます」
と、挨拶をした。
「服装を変えたのか。良いではないか」
「ありがとうございます」
「今日は何の用事だ?」
「まずはこれを渡したくて」
と、さっき買った財布の入った袋を渡す。
クラークさんは、受け取ると「これは何だ?」
「日ごろの感謝の気持ちです」
「礼はいらないと言っておいたはずだが?」
「アラン君のは、私が命を助けてもらった時点で、ないみたいなものですから」
「……」
クラークさんがアゴ髭を触りながら、黙っている。
何かを考えているのかしら?
「これは私への対価ではないのだな?」
「はい、その話とは別です」
「――分かった。頂いておく。だが、今度からは物はいらない。お前の気持ちを示してくれれば、それでいい」
「分かりました」
なんだか難しい課題を貰ったような気持ちだ。
感謝しきれない思いを形にと思っていたのに、気持ちで示すって、どうすればいいの?
「今日の用事はこれだけか?」
「あ、いえ。お勉強にも来ました」
「分かった。では出掛けるか」
「はい!」
「その前に……」
と、クラークさんは言って、古い財布を取り出し机に置いた。
新しい財布を袋から取り出す。
古い財布から小銭やお札を取り出すと、新しい財布に移し替えていく。
下を向きながら作業をしていたクラークさんが、ふと顔を上げる。
「なんだ、ニヤニヤして」
「ニヤニヤしていました?」
「あぁ」
「嬉しいからです」
「そうか」
と、クラークさんは返事をすると、また移し替え作業に戻った。
照れているのかな?
私を視界に入れようともしない。
すべてを移し替えると、上着のポケットに財布をしまう。
椅子に立てかけてあった剣を握ると「いくぞ」
「はい」
町を出て、遺跡へと向かう。
途中の草原で、先を歩いていたクラークさんが立ち止まった。
「どうしたんですか?」と言って、近づく。
「遺跡に着けば魔物がいるかもしれない。ここらで昼にしよう」
「分かりました」
クラークさんは腰から下げてあった袋から、
ラップに包まれた野菜だけのサンドイッチを取り出した。
大きさは食パンの半分ぐらいしかない。
「クラークさん、それだけで足りるんですか?」
「あぁ」
本当かな?
痩せてはいるけど、少なすぎる。
私はバックからメロンパンを取り出すと、「食べますか?」
「おまえの分だろ?」
「大丈夫です。他にもあります」
「――では、半分いただく」
私はメロンパンを半分にすると渡した。
「どうぞ」
クラークさんが受け取る。
「クラークさんの、ご家族は?」
「誰もいない」
「ごめんなさい」
「謝る必要はない。だから一人でこうして、自由に旅ができるのだ」
「なぜ旅に出ようと思ったんですか?」
「退屈だったからだ」
「それだけ?」
「あぁ、家にこもって、一人で何の変化もなく暮らすより、旅に出て、色々みて回った方が面白い」
「なるほど」と、返事をしてメロンパンに噛り付く。
クラークさんはサンドイッチを食べ始めた。
口の中が無くなると「クラークさんは何歳なんですか?」
クラークさんはサンドイッチを飲み込むと、「45だ」
と、答えた。
45歳なの。私はてっきり、50歳を過ぎていると思っていた。
「もっと上だと思っていたのか?」
「え?」
「顔に書いてある」
「ごめんなさい」
「大丈夫だ。慣れている」
と、クラークさんは言って、サンドイッチに噛り付く。
「良かった」
私もメロンパンに噛り付いた。
パンを食べ終え、数分が立つ。
「そろそろ行くか?」
「はい」
食休みで草の上に座っていた私は、立ち上がると、お尻をパッ パッと払った。
クラークさんが歩きだす。
私は駆け寄った。
遺跡の入口に到着すると、クラークさんは立ち止まった。
私も立ち止まる。
「遺跡周辺の魔物はあらかた片付けておいた。前より簡単に奥へと進める筈だ」
「奥には何かあるんです?」
「地下へと続く階段を見つけた。今日はそこから先へ行く」
「分かりました」
クラークさんに付いていき、地下の入口へと到着する。
確かに魔物の気配がなく、出会うことはなかった。
地下の入口の周りには瓦礫がゴロゴロ転がっている。
塞がっていたのを、クラークさんが退かしたのかしら?
奥へと続く下りの階段は、石で出来ていて、
ひび割れはあるものの、綺麗に加工されている。
誰かが意図的に作ったのだろう。
入口の横に4本、先端に布が巻き付けられた木の棒が置いてある。
たいまつ?
クラークさんは木の棒の近くへ移動し、しゃがみ込みと、棒を2 本、手にした。
立ち上がると、こちらへ向き「前に作っておいた松明だ」
私は近づき、1本たいまつを受け取る。
「ありがとうございます」
クラークさんが入口へと進む。
私も後に続く。
完全に光が届かなくなる少し手前で、クラークさんが立ち止まった。
上着のポケットに手を突っ込み、何かを探している。
ポケットから手を引き抜くと、マッチが握られていた。
私の方に振り向くと、「松明を突き出してくれ」
「はい」
クラークさんがマッチを擦る。
ボアッと火がつくと、たいまつの先端に付けた。
一気に燃え広がり、辺りが明るくなる。
床も壁も土で出来ているかと思ったら、石で出来ていた。
「進むぞ」
クラークさんは自分の松明にも火を点けると、そう言った。
「はい」
クラークさんが前を向き、歩きだす。
私も後に続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます