10話 お祓いしてもらうの吉ですか?

 「ただいまー」

 しかし私が帰宅すると、猫又は何故必ず玄関で待ち構えているのだろう。

 「おう、今日は遅かったな。原稿が却下され……ギニャーアアアアア!!」

 猫又はいきなり叫んで、後ろの壁まで飛び去り毛を逆立てた。凄い技だ。

 「お、お前、なんて奴を連れてきたのだ!!」

 この人の事か?

 私の後ろにはスーツを着た男性がひとり。手のひらの上に青い炎。なんだそれ。

 「隠行の術が切れちゃいましたか」

 ちゃんとした術は使えるみたいだ。なら依頼も上手くいくかも。

 「この人? 担当さんに紹介された人。賀茂泰成かもやすなりさん。取材で会いに行ったんだけど、せっかくだから仕事を依頼した」

 「その猫又、退治しましょうか」

 猫又は既に部屋に逃げ込んでいる。

 「いやいやいや。やめてください。猫又は私の生命線なので。それに依頼は妖怪の通り道を無くしてもらうという事だけで」

 「そうですか。残念」

 何故残念なのだ。

 「こっちの部屋に来てください」

 猫又はベランダにいた。様子を伺っているみたいだ。

 「これは凄い霊気だ。しかもとんでもない事になっていますね」

 「とんでもない事って?」

 嫌な予感しかしないのですが。

 「取り敢えず依代よりしろさんにも見えるようにしましょう」

 加茂さんはスーツの内ポケットから何やら御札のような物を取り出した。それが符術で使うやつか。

 「では『急急如律令きゅうきゅにょりつりょう顕現霊波道けんげんれいはどう。疾!』っと」

 お、飛んだ。ってあわあわわ!

 何だこの強烈な緑の光は!

 「ほら見えるでしょう。妖怪の通り道」

 え? そんな簡単に?

 部屋の真ん中あたりに黄緑色に光る球体が浮かんでいて、四方八方にビーム見たいのが出てる。

 ビームの先は……玄関、トイレ、お風呂場、冷蔵庫、隣の部屋がある壁の方、クローゼット、ベランダ、そして天井に一本ずつ。

 「これ?」

 「この球体から出ているのが妖怪の通り道ですね。その球体は交差点といったところでしょうか」

 「は?」

 妖怪の通り道はひとつじゃないの? 交差点て何?

 「うーん。これ全部無くすので?」

 「そういう依頼ですよ」

 「これは私より力のある陰陽師が6人ほど、飲まず食わずで60年はかけないと無理です」

 「……マジ?」

 「私ひとりだと1本も消せませんな」

 こ、この役立たずめが! 依頼料1万円返せ。

 「そういう事で仕事終了です」

 なんだと?!

 「ええと、依頼料の他に御札2枚分、出張費、その他合わせて4万円です」

 「は?」

 何を言い出すのだ。こいつは。全部で5万円だと?

 「何か?」

 「何かじゃない! 高い! それに御札1枚しか使ってないじゃない!」

 「ここで使った1枚と隠行の術ので2枚分です」

 「隠行の術ってあんたが勝手に使ったんでしょ!」

 「とんでもないのがいたら困るでしょう」

 「それ、入る前に燃えた!」

 「あはははは」

 ぐぬぬ。

 「笑ってないで説明しろ!」

 「霊気が強すぎて相殺されちゃいました。もっと強いの使えばよかったですね」

 「よかったじゃない! 何も解決しなかったのに高すぎる!」

 「うーん。仕方がありませんね。御札1枚割引ということで3万円」

 御札1枚1万円だと? しかもそんなに簡単に割引? こいつ、適当に料金を決めてるのでは? しかしとっとと帰ってもらうには3万円を……あ。

 「出張費ってなんだ」

 「現場にいく事ですが?」

 お前……

 「現場に行かないでできる仕事か!」

 「いやあ」

 いやあ、じゃない! が。

 「ぐ……払う。払うからさっさと帰れ!」

 私はお財布から3万円取り出すと加茂なんたらの顔面に叩きつけた。

 「お金を粗末にするのはいけませんよ」

 何を言う。あ、お金が勝手にポケットに。

 お? 光も消えた。

 「それではまた。ご贔屓に」

 「するか! 早く出ていけ!」

 無理やり外に押し出してやる。

 「依頼がなくてもまたここに来て……」

 黙れ。来るな。

 思いっきり玄関のドアを締めてやった。

 あ、猫又が出てきた。

 「あんなもの呼ぶなバカタレ! 消されるかと思ったぞ」

 「ごめんなさい。私が浅はかでした……」

 取材だけにしておけばよかった。

 欲を出した私が馬鹿でした。

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