対比 8月3日

 そうたと目覚める朝は昔のように落ち着いていた。仕事で嫌なことがあったとき、彼氏だったそうたとセックスをして紛らわしていた。自分勝手な女、それが自分。


 そうたの髪を優しく撫でる。彼がここにいてくれたのは、寂しい元カノを放っておけないからだ。優しい元彼。別れないまま付き合っていたら結婚して幸せな家庭を築いていたかもしれない。


 朝御飯を作っているとそうたが起きてきた。


「杏梨、おはよ」

「そうた、朝御飯は和食で良かったかな? 」

「和食がいい。さいこー。ありがと。こんなにいつも朝御飯ちゃんと食べてないよ」


 そうたと囲む食卓はさながら新婚夫婦みたい。


「一緒にいてくれてありがと。助かった」

「『癒す』って約束だろ。俺はむしろレベルアップした杏梨と出来て役得。やばいよ、あれ」

 笑うそうたを玄関から送り出す。彼は帰っていく、自分の家へ。


 気分を仕切り直して、『できる女』になって出勤する。こういうときメイクってとても便利だ。


 樹に何て返事を返そうか迷いながら、スマホを見た昼休み。彼から新たなメッセージが来ていた。


 8/3 9:16

 本橋樹:

 おはようございます。昨日は変なこと言ってすみませんでした。そして、連投失礼します。

 友達は俺が思っていたより全然気持ちわかってくれて、酔っ払ったやつに、俺もファーストキスを奪われました。友達は男です。友達もなんと初めてですよ!キスするの。

「これで彼女と同じだろ!キスはこれから何回だってすればいい。好きじゃなくたってキス位出来るんだからくよくよすんな!」ってアホですよねw ファーストキスを俺に捧げなくてもいいのに。かなり良いやつです。


 そいつのお陰で吹っ切れました。これから真理のところに行ってきます。直接会って気持ちを聞いて、精一杯口説いてきます。

 それでもダメなら、また愚痴を聞いてもらえたら嬉しいです。


 杏梨さんにメッセージ書いてると、それだけで応援してもらってる気がするのは何でだろ?変なこと言ってすみません。

 長文失礼しました。



 樹は杏梨が思っていたより根性があった。弱かったのは自分だけ。少し涙が滲んだけれど、それでも心を込めてスマホに気持ちを書いていく。


 8/3 12:15

 岡野杏梨:

 樹くんのこと心から応援してるよ!頑張って!

 本当に欲しいものはがむしゃらに掴みにいかないと自分からは来てくれない。樹くんならきっと掴めると私は信じてる。


 もし、精一杯やって、それでもダメなら、今度は私と飲みに行こう!いくらでも愚痴聞くから。

 いってらっしゃい。気をつけてね。



 同姓の友達とファーストキスをして励まされて、奮い立って頑張る樹と


 元彼の同情を誘ってセックスをして寂しさを紛らわせる自分。


 この対比は何だろう。こんな風だから金田と会うことさえ叶わないのだろうか。


 がむしゃらに頑張る。がむしゃらに、がむしゃらに頑張る頑張る。がんばる。


 何を?どうやって?


 杏梨にはもう正解がわからなかった。

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