終わりで始まり 5月15日

 杏梨は金田に夜通しありったけの思いを込めたメッセージを送り続けた。


 ぼろぼろと涙が溢れて、その都度拭わないと文字があまり見えなかった。


 既読はすぐつくが返信は来なかった。


 気がついたら外が明るくなり始めていた。


 メッセージを送って、既読がつくのを確認して、返事を待って、返事が来なくて、また泣いて、ただひたすらそれを繰り返していた。


 もう朝の5時半なのに、金田へ送ったメッセージにはすぐ既読がついた。


 泣きすぎて、目が痛かった。

 ゴミ箱には涙と鼻水を拭ったティッシュが山盛りになっている。



 金田さん……。本当に別れる気だ。


 そんな訳がないと信じきれずに金田にしがみついていた杏梨の心が、そっと手を離した。


 心がしーんと静まりかえっていく。


 金田の少しだけ笑った顔が杏梨の心に浮かんで消えた。


 金田の送ってくれたメッセージを杏梨は改めて読み直した。


 心が決意で踏み固まっていく。


 杏梨は今一度金田にメッセージを打った。

 何度も何度も読み返して、金田に届くように心を込めて送信を押した。


 5/15 7:20

 杏梨:

 しつこくしてしまって申し訳ありません。

 別れるということで大丈夫です。

 今まで大切にしてくれて、本当にありがとうございました。


 金田さんは変わらなくていいです。

 私が変わります。

 ただの知り合いでいいです。復縁したいなんて言いません。

 今度は私が金田さんご飯に誘ってもいいですか? 半年に1回とかでいいです。

 ご検討の程よろしくお願いします。


 7:20に既読がついた。


 5/15 7:40

 金田:

 わかった。


 金田からの返信を見て、杏梨は先程とは別の意味で目の前がぼやけた。



 化粧を落としてお風呂に入る。

 冷えた身体を温め、湯上がりに丁寧にスキンケアをして良い匂いのボディクリームを塗る。


 火照ったまぶたを少し冷やして、気分の上がるメイクをする。

 強くなれるように、赤い口紅をのせていく。


 ピンヒールでかつかつと歩き出す。


「大分軽くなりますねっ」

 しゃき……しゃき……


 色々なものが肩から落ちていく。

 目の前の自分が変わっていく。


「前のもすごく似合ってたけど、私はこっちも好きです!」


 お世辞ではなさそうな言葉に思わず嬉しくなってしまう。


 鏡の中の杏梨は短くなった髪型で軽やかに笑った。


 杏梨もその姿は嫌いじゃなかった。


「ふふっ、ありがとうございます。

 今日から心機一転頑張りたくて」


 え~何かするんですか?という美容師の言葉に杏梨はにっこりと笑顔を返した。

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