たこパwith彼氏①任せておけ 5月3日

 4月29日にそうたからたこパの真髄?を教わってから、ついにこの日がやって来た。


 たこパ本番の杏梨vs金田戦だ。


 メイクよーし。

 髪の毛よーし。

 服よーし。

 材料下準備よーし。

 たこ焼き器よーし。

 お部屋よーし。

 セコンドよーし。(撮り貯めたドラマを家でみてるから何かあったら連絡してといってくれたそうた)


 準備万端っ!いざ勝負よ、金田さんっ!

 本日の勝利ポイントは


 ①美味しいと言ってもらう

 ②好きと言ってもらう

 ③いつもよりいちゃいちゃする


 この3つだ。


 たまには金田さんにも私にどきどきして欲しい。頑張るっ!


 金田とは11時に家に来てもらうように約束してあった。仕事の日は寝るのが遅いみたいだったので少し遅めの集合だ。


 金田さんが来る前にタコや野菜は下準備してある。後は焼くだけの状態だ。


 今日のコーディネートは髪の毛は軽く巻いてアップ。メイクはナチュラル、唇は春っぽい淡いピンクでぷるぷるに。Vネックのセーターに黒のスキニーパンツを履いている。


 下着はあえて可愛い系を用意してみた。出番はあるだろうか?



 恋愛映画やコメディ、サスペンスやホラー等映画も借りてきているし、いざというときは杏梨が撮りためているお気に入りの映画等を観てもいい。


 飲み物類も種類豊富に揃えている。


 お昼ごはんにたこパをしてまったりとテレビをみる。夜ご飯は仕込んでおいたローストビーフにおつまみをちょちょっと目の前で作って食べ、その後の流れは金田さん次第だ。


 頑張れ私、この日のために用意してきたのよ!


 ピンポーン

 チャイムが鳴った。10時55分、5分前集合だ。


 いざ、出陣である。


「金田さんっ、いらっしゃいませ!来てもらってありがとうございます」

「っん、あぁ、おはよ」

 金田は眠そうだった。


 ロンTにチノパンにスニーカーのラフな格好だ。いつもスーツも似合ってるけど、なんか今日は自然体で違う意味でどきどきする。


「どうぞっ入ってください」

 手招きして招き入れる。


 この間はあっという間だったけど、金田さんが自分の家にいると思うとどきどきする。

 なんか……一緒に住んでるみたい。


 開始30秒で既に杏梨は金田に負けそうだった。


「なんか、飲みますか?」

 リビングでぽやんとする金田に声をかける。

「んっいや、いいよ。ごめん、ちょっと横になっていいかな?」

 なんだか、金田はだるそうだ。


「もちろんです。体調悪いですか?」

 金田はソファーに倒れ込むように横になり、そしてなんとそのまますやすやと寝てしまう。


 安らかな金田の顔に思わず杏梨は見いってしまった。


 寝ちゃった。疲れてるのかな?かわいい。


 金田と一緒に寝たことはあるがいつも先に起きて、何か仕事をしていることが多い。無防備な顔を見るのは初めてだった。


 目の下にうっすらとくまができている。


 お仕事忙しいんだよね……あんまり寝れてないのかな?


 肌触りのよいブランケットを持ってきてそっと金田にかける。


 スペースあるから大丈夫かな……?せっかく一緒にいるんだから


 杏梨はいそいそと金田の横に添い寝した。触れている部分が金田の体温で心地よく温かい。


 えーなんか、すごく幸せ。


 少しだけ金田にすり寄り首もとに顔を埋めた。

 金田の匂いがする。男っぽくてちょっと汗の匂いもも交じっていて、とにかく安心する匂いだ。


 この匂い好き。普段はあまり嗅げないので、起こさないようにそっとでも遠慮なく吸う。


 いい匂い

 んー、金田さん金田さん、好きー。


 鼻を少しだけすりすりしてしまう。


 私もなんか心地良くなってきちゃった……。

 杏梨はうとうとと眠りに落ちた。




 ものすごく気持ち良く寝ていた。温かくて心地良かった。しかし、頬にざらっとした感触を感じ、杏梨は目を覚ました。


 目は開けていないので何かわからないが、ほっぺたに生暖かい感触がある。


 ……!もしかして金田さん、私のほっぺたにキスしてる?


 どきどきどきどき


 気づかれたら止めちゃうかも。寝たふりをしておこう。


 頭をそっと撫でられている。


 ええーそんなことされたことないよー


 撫でてくれる手が優しい。


 そして、杏梨の唇に温かいものが触れた。

 最初はそっと、でもだんだん強く押し当てられる。金田の舌が杏梨の唇を舐めた。そしてそのまま押し入ってくる。


 舌を吸われ、口の中を舐められる。


 金田の手が杏梨の頭をそっと支えて、キスから逃れられないようにした。


 こんなキス、金田さんするんだ?

 そろそろ目覚めたふりをした方がいいかな?


 そう思ったときだった。


 金田のもう片方の手が杏梨の鼻に伸び、指で鼻をつまんだ。


「んっ!!?」


 口はキスされているし、鼻はつままれているので息ができない。


 そのまま強引にキスを継続される。


「っん、んんっ、んーんん」


 手で金田の胸をとんとん叩いて抗議する。


 杏梨の目が涙目になった頃、金田は杏梨を解放した。


「っん、はぁ……はぁ……かっ金田さん、何するんですか?」


 杏梨は息が上がっていた。つままれていた鼻が少し痛い。


「途中から起きてたでしょ?」

 そう言って金田はふっと馬鹿にしたように笑った。


「えっいや、だからってひどい……」


 せっかく、なんかいい感じだったのに、杏梨は茶化した金田にふてくされた。


「そっか、嫌だったんだ?キス」

「キスは嫌じゃ……」


 杏梨はもう何も言えなかった。


 時計を見ると時刻はもう13時半になっていた。

「金田さん、昨日も遅くまで仕事だったんですか?」

「ああ」


「お腹空きました?たこパ始めます?」

「ああ」

 金田はまだぼんやりしている様子だった。


 たこ焼き食べたら、元気になるかな?


 杏梨はたこ焼き器をテーブルにセットし、具材を並べ始めた。


「あれ?下準備ももうしてくれたの?」

「はい、あとは焼くだけですよ」


「別に切ったりやったのに」

「金田さんはお仕事忙しいじゃないですか、今日は私にもてなさして下さい」


「えっ、嫌だ」

 ……はい?


「具材は全部でこれだけ?道具はこれで、箸はこれ使っていいの?」

「はい、そうですけど……」


「んじゃ後は俺がやるから杏梨はゆっくりしてて」

「えっいや、あの今日は私が金田さんにふるまおうかと……それか一緒にやりましょ?」


「任せておけって言っただろ?」


 ああ、あのメッセージはそういう意味ですか。


「一緒にやりたいです。特訓したんです」

「特訓?…だれと?」

「えっと…友達に教えてもらって」

「うん、男ね」

 なぜか、ばれてる?!


「俺が焼く」

 有無を言わせない言い方に杏梨はもう何も言えなかった。


 あっという間に生地や具材を乗せて手際よく焼いている。


 金田はとてもたこ焼きを焼くのが上手かった。

「金田さんめっちゃお上手ですね」

「誰かににわかに仕込まれた杏梨よりは上手い」

 言葉になんか嫌味が混ざっている。


「……」

 強めな金田の言い方に杏梨はそれ以上何も言えなかった。


 たこ焼きが丸く美しく焼き上がっていく。


 その中でも美味しそうな一つを皿にとり、金田はソース、鰹節、青のり、マヨネーズをトッピングした。


 その皿を杏梨の前に置く。


「はい、食べて」

「えっ、金田さんお先にどうぞ?」


「食べて?」

 言葉に圧を感じる。


「ありがとうございます。いただきます」

 たこ焼きを一口で口の中に入れる。


 熱くてほふほふしてしまうが、外はかりっと中はとろとろで金田の焼いてくれたたこ焼きはとても美味しかった。


「んっはふっ、はふっ、

 んーー、金田さんおいしいですっ!」

「それは良かった」

 金田の口元がゆるみ目が優しくなったのがわかる。


 金田はまたたこ焼きを数個皿に乗せ、トッピングをして杏梨の前に置く。


「いっぱい食べろ」

「金田さんは?」

「俺も食べてる」

 いつの間にか金田の前にもたこ焼きが並んでいた。


 たこやきをほふほふしながら食べている金田はなんだか可愛かった。


 しかし、金田に何かしてあげようとしても先手をとられ、次々とたこやきを給仕され、杏梨は何もできなかった。


 金田さんばっかに働かせて私何もしてない。こんなんじゃだめだ。


「金田さん、私がやるので金田さんはゆっくりしててください」

「……たこやきを教えた男はどうだったか知らないけど……今日は俺が杏梨といるからやらせない」


 金田は顔をそらしてそっぽを向いてしまう。

「金田さん、確かにたこ焼きを教えてはもらいましたけど、それは……金田さんと一緒に楽しく過ごしたかったからです。

 寂しいなら他に男作れって言ったのは金田さんじゃないですか?」


「そうだな、寂しくなくなったか?」

「……っ!一時的に癒されますけど余計寂しいです!」


 悔しさと悲しさで杏梨の目には涙がにじむ。

「そっか、じゃあ俺はいない方がいいな」

 金田の言葉に杏梨の頭に衝撃が走る。


 金田さんに捨てられる。そんなに私は必要ないの?


「……いなきゃっだめです。私が好きなのは金田さんだけです。何でわかってくれないの?」

 杏梨の目から涙がこぼれる。


 金田が振り向いた。杏梨をみて驚いたように目を見開く。


「杏梨はどうして欲しいの?」


 ……金田がどうしたいのかが聞きたいのに、また私に聞くの


「私に聞かないでください!いつも金田さんの気持ちが全然わかんない。

 金田さんはどうしたいんですか?」


「杏梨、俺は杏梨がして欲しいことをしたいんだけど」

 金田の顔が明らかに困っている。


「一緒にいて金田さんが私にしたいことをして下さい」


 金田は私といていちゃいちゃしたいとか思わないのだろうか?


「えっ?でも俺がしたいようにしたら杏梨嫌じゃない?」

「金田さんなら何でも嫌じゃないです」


 金田はしばらく考え込んでいた。

「んじゃ、とりあえず俺の焼いたたこ焼き食べて」


 その後杏梨はお腹がいっぱいになるまでたこ焼きを食べされられた。


 金田は片付けもやってくれた。自分の家なのにほぼ手を出すことがなかった位だ。


「よし、じゃあ次は何したいかな?」

 金田が優しく聞いてくれる。何か子ども扱いされているような気がするのは気のせいか。


「映画観たいです」

 いちゃいちゃシーン多めの恋愛映画を用意してある。


「これ観ましょ? 」

 これをきっかけに金田ともっとくっつけるだろうか。

「これ? まぁ……いいけど」

 金田はちょっと嫌そうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る