第40話 そんな超絶ウルトラつよつよ装備がいきなりポップしたら
スフィンクスが消え去り、静寂が訪れた。
熱砂に足を取られながら、俺たちは勝利の余韻の中に立ち尽くしていた。
刀を鞘に収め、荒い息を整えながら、仲間たちのもとへ向かう。
「……シズク、大丈夫か?」
矢筒を背負い直し、弓を肩に掛けたシズクが頷く。
普段の冷静な表情は崩れていない。
だが、微かに上下する肩と額の汗が、先ほどまでの激闘を物語っていた。
「……問題ない。私たちが勝つのは当然のこと。
でも……今回ばかりは少し疲れた」
声には疲労が滲んでいるし、呼吸も乱れている。
だが、口元に浮かぶ微かな笑みは隠しきれていない。
「メディナ!」
続いて視線を向けたのは、床に倒れたままのメディナだった。
体が微かに震え、唇は青白い。目の焦点が合っていない。
悪夢に囚われていた時間が長かったせいだろう。
俺は彼女のもとへ駆け寄り、その肩に手を置く。
「大丈夫か?メディナ。具合の悪いところはないか?」
シズクも跪き、淡々とした口調で彼女に話しかけた。
「……体が冷えているなら、これを着ておくといい。
そもそもメディナの格好は露出度が高すぎる」
「え……、あ、ええ!大丈夫ッス!あはは、私はいつでも元気ッスよ!」
急に空元気を見せるメディナが、立ち上がりながら服を整える。
「ほんとに大丈夫なのか?」
「へへ、大丈夫ッス!」
明らかに疲れている様子だな。
無理もない。俺も正直、ここまで手こずるとは思わなかった。
「えっと……。勝った……ってことでいいんスよね?」
メディナが恐る恐る問いかけてくる。
あー。状況わかってないか。目を覚ましたばっかだからな。
「おうよ。完全勝利だぜ。
途中、結構マジでやばかったけど、終わってみりゃ最高の結果だ。見ろよこのドロップアイテム!」
俺は床に指をさす。
そこには、戦いの証とも言えるドロップアイテムが散乱していた。
金色に輝く「スフィンクスの髭」が2つ。
虹色に輝く「砂漠のルビー」。
それに加えて、妙な透明感存在感を放つ布切れも転がっている。
「完璧だな。砂漠のルビーがゲットできたのは僥倖だぜ。
これは勢いついちゃうなあ。こっからはイケイケドンドンだろ俺ら」
期間限定ミッションも確認しとくか?
いやまあ、それは引き上げてからでいいか。
早く帰って風呂入りてえ。さみーんだよここ。砂だらけだし。
「……おお。それはすごいッス……けど」
なんだか居心地の悪そうだな。
「どうした?勝ったってのに」
「いや、ちょっと……。申し訳なくて。最後の方は私は寝てただけッスから……」
気にすることはないんだけどな。
まあ気持ちはわかる。
こっちとしちゃ、無事に目を覚ましてくれただけでもありがたいんだけどな。
「……問題ない。仲間(パーティ)が足りないところを補い合うのも、先輩が後輩を守るのも当然のこと」
シズクの言葉が場を落ち着かせた。
俺たちは再び床に散らばるアイテムに注目する。
やっぱ気になるのは、柔らかな光を放つ謎の布切れだ。
「これ、なんだろうな……ただの布じゃなさそうだが」
「……マサキ、それは"蜃気楼の衣(ミラージュクロス)"かもしれない」
シズクが言った。
「ん?なにクロスだって?」
「……"蜃気楼の衣(ミラージュクロス)"。
生半可な全身鎧を超える防御力を持ちながらも、極めて軽く、斥候職や軽装戦士にとってのほぼ最高位に近い体防具。
本物だとしたら。レア度的には、B級冒険者の中位~上位クラスでもなかなか取得できないレベルのはず。
特性として、たしか装備者が微弱の魔力を流すことで、自分の幻影(ダミー)を周囲に発生させて被弾確率を下げるという効果がある」
「なっ……!」
あまりの説明に、流石に言葉が詰まる。
「なんじゃそりゃあっ!
え、マジかよ!?あり得るのかそんなこと!
そんな激レア装備を俺達がゲットしたっていうのか!?」
「……落ち着いて。あくまで本物ならばの話。
私もスフィンクスが"蜃気楼の衣(ミラージュクロス)"をドロップしたという話は聞いたことがない。
一旦帰還して、ミナに見てもらおう」
言ってるシズクも珍しく汗をダラダラ流している。
いや、そりゃそうだよな。
そんな超絶ウルトラつよつよ装備がいきなりポップしたら誰だってそうなる。
これ金額だといくら位の装備だろ。
そもそも値段つくのか?ヤバいわよ!
スフィンクスがこれをドロップするのは前代未聞だと思うが……考えられるのは。
「……?」
なんにもわかってない顔でキョトンとしてるシズク(こいつ)の幸運スキルだよな。
いや、すごすぎでしょ。全部の冒険者の中で最強のスキルなんじゃないかこいつ。
「さて……じゃあ、この"蜃気楼の衣(ミラージュクロス)"?はメディナが装備するってことでいいか?」
「え……?わ、私ッスか!?」
鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しやがって。
「いや、当然だろ。
だってこれ、斥候職向けの装備なんだろ?だったらメディナだろ」
「い……イヤイヤイヤ!無理ッスよ!
一番下っ端の私がこんな高価な装備!」
「一番下っ端だから、だろ。
言っちゃ何だが、今の俺らで崩される可能性があるとしたら、メディナの耐久力だからな。
俺はこの中じゃ一番硬いし、シズクはそもそもダメージをめったに喰らわない前提の陣形で戦ってる。
だったら、一番対応すべきリスクは前線の俺が敵に抜かれて、中衛のメディナがやられることだろ。
お前が気絶でもしたらスライムたちも停止して劇的に戦力がダウンするし。
まあ今の階層ならそんな危険も有りえないけど、これからC級B級と上がっていけば敵の攻撃も激しくなるだろうからな激しくなるだろうからな」
俺の言葉にプレッシャーを感じたのか、また少しうつむき加減のメディナだったが。
「……了解ッス。マサキ先輩」
一応は納得してくれたのか、"蜃気楼の衣(ミラージュクロス)"を受け取ってくれた。
そんなことをしている内に、部屋の奥の壁の一部がガラガラと崩れ、通路が出現する。
ギルド直通の転移門への通路だ。
今倒したスフィンクスが復活するのが3日後らしいが、そのタイミングでこの通路も自動的に塞がれるそうだ。
しばらくその通路を進むと、転移門にたどり着く。
スフィンクス打倒の記録を取るため、転移門横の読み取り機にライセンスを翳(かざ)そうとした時。
「へへっ。お先に失礼するっス!」
メディナが俊敏な動きで俺の前に割り込み、肘で俺を軽く突き飛ばしながら自分のライセンスで読み取り機にタッチする。
ピッという音とともに読み取り機の緑のランプが光り、転移門が開いた。
「うおっ。何すんだよお前」
「えへへっ。マサキ先輩がトロいのがわるいんッスよ~だ」
ベロベロバー、とチョケたおした態度で俺を挑発してくる。
まったく。いつもいつも人のことを小馬鹿にしやがって。
でもまあ、元気が出てきたのかな。
俺達のそんなじゃれ合いを、シズクはすげえどうでもよさそうな目で見つつ、自分のライセンスを読み取り機に当てていた。
ああ、俺もライセンスを読み取らせないとな。
「……ギルドに戻ったら、まずはC級昇格試験受験の申請に行く?」
「あ、シズク先輩。このまま一旦帰っちゃうのってアリですかね?
私ちょっと体が冷えちゃったみたいで。今日はもう休みたいッス」
「それがいいかもな。俺も早く風呂はいりてえよ。砂だらけだしな。
手続やら何やらで時間取られて睡眠とかのデイリーミッションを取りこぼしたらマズイし、受験の申請は明日でいいだろ」
そんなことを言いつつ、転移門をくぐるのだった。
ふぅ、疲れた疲れた。
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