第31話 "光の勇者"って異名のほうがピンと来るかな

「では、行けっ!スラちゃん!」


 掛け声と共に、スライムが床を疾走している——らしい。現在インビンジブルスライム達は不可視状態なので俺たちの目には見えないが。

 なおもう1匹のスライム、リンちゃんとやらは現在メディナの体にまとわりついていて、不意の攻撃に対する自動防御体制に入っているらしい。


 便利なことだ。

 先日はそれを知らないシズクが不用意にメディナの前に立ったところに、スライムの自動防御が後ろから突き飛ばす形となって思わぬ事故が発生したが、気をつけていればそういうこともそうはあるまい。



 しばらくすると、探索結果をテレパシーで受け取ったメディナが俺達にハンドサインを送る。


 数は7匹。

 相手型の隊列や内訳を聞き、最適な武器を準備する。

 スコーピオン対策にハンドアックスを掲げ——



「そらっ!」



 武器の重量を生かした打撃を先制で叩き込む。

 さらに、



「はぁっ!」



 空中から迫りくるキャットバットを細剣・・で穿つ。

 更にはミイラ男は大型の両手剣の重量で叩き潰し。

 そしてレッサー・ヴァンパイアは店長お手製の日本刀でぶった切る。


 一瞬を争う戦闘時に、相手に最も適した武器に即座に持ち帰られているのには理由がある。


「ナイスっススラちゃん!

 マサキ先輩!次のエビルマミーは両手剣、その次のカースドマスクは棍棒で叩き割ってくださいッス!」



 後方に控えるメディナの声に従い、空中のスライム――スラちゃんに手を伸ばす。

 ヌチャっとした感覚を覚えつつ、使っていた日本刀を手放し、スラちゃんが渡してくれる両手剣をしっかと掴む。


 そう。

 俺たちはスライムの「食べたアイテムをいつでも自由に取り出せる」という性質を利用して、大量の武器をスラちゃんに食わせておいて必要に応じて戦闘中に武器交換するという戦略を取っていた。


 これによって攻撃やミッション達成の効率は跳ね上がるが、このスライムのメリットはそれだけではない。



「そぉ……りゃあっ!」



 もともとあまり使い慣れていなかった両手剣グレートソード

 しかし、スラちゃんによる姿勢の制御により、完全に安定した体幹から放つ一撃は十分以上の威力を持っていた。

 しかも剣閃自体の起動もスラちゃんによるアシストを受けている。

 まるで一年ばかりこの武器の使い方を修行したかのような高品質攻撃だ。


 さらに。


「すまんメディナ!シズク!

 一匹抜かれた!」



 ポイズンスコーピオンが一匹俺の横をすり抜けて後衛陣に襲いかかる。

 以前ならば動揺していたような大ピンチだが。



「大丈夫ッス!こっちで対処できます!」


 メディナの言葉通り、今ではなんの問題もない。

 スコーピオンの攻撃は空中のスライム――防御担当のリンちゃんが受け止める。


 そしてスラちゃんのアシストを受けたメディナの攻撃によってあっさりと倒す。

 その間もシズクはスラちゃんの姿勢アシストを受けた射撃で俺を援護してくれている。



 ……この体制を開始した際に驚いたもは、このスライム達の「分裂能力」だ。

 スラちゃん、リンちゃんの2匹のスライムだが、こいつらは本体をベースとしつつも体の一部を切り離し、それらも自立した運動をすることが可能だ。


 もちろんあまり多くの分裂をすると分体が弱くなりすぎるし、数にも限りがある。

 とはいえ、3人パーティのそれぞれにスラちゃん、リンちゃんを纏わせてアシストするくらいは余裕だ。



「それはマサキ先輩がミッション・コンソールで私の“スライム支配”をレベルアップしてくれたおかげっスね。

 レベル3で3体ずつってことは、上げるごとに1体ずつ増やせる感じですかね」


「まあ、今は3体で十分だろ。上げようと思えばいつでも挙げられるしな」


 ちなみに今は、攻撃担当のスラちゃんの本体は俺に、防御担当のリンちゃんの本体はメディナに付けている。


 なので武器交換のメリットは俺だけ、自動防御のメリットはメディナだけが受けているが、分体でも攻撃ならば軽い姿勢アシストと武器のコーティングによる摩耗の防止、防御ならば強烈な攻撃は防げないものの砂塵による汚れや毒液のような薄いスライムでも防げる損傷を防げるのは甚だ有難い。



 おかげで、1ヶ月はかかると見込んでいた武器使用や殲滅系ミッションも、早くも終りが見えてきた。

 今は1階層から順番に「階層の完全攻略」を果たし、8階層に挑んでいるところだ。


 なかなかこの低階層ゾーンでここまで丁寧に攻略を進める奴も珍しいが、これは俺のある『期間限定ミッション』に起因している。




「っと、もうこんな時間か。

 悪いな。昨晩言ってた通り、少し早いが今日はこれでアガりにしよう」


「……なぜ?

 まだ16時。終わりにするのは早すぎる。

 スケジュール的にそろそろ8階層まで完全攻略を目指しても良いはず。

 甘えずに、今日進めるところまで挑戦するべき」


「シズク先輩、そりゃないッスよぉ。

 マサキ先輩が昨日の晩ごはんの時言ってたじゃないっスかぁ。今日は夜に人と会う用事があるから早めにアガるって」


「……?」


「すごい!マジで一切覚えてない顔してる!

 この人ホントすごいッス!」



 シズクは本当に自分の興味のあること以外全く興味が無いからな。

 俺はもう慣れた。



「ん、てなわけで今夜はミナと3人でメシ食っといてくれ。

 そのために睡眠時間やトレーニングや栄養摂取のミッションを午前に済ませておいたけど、だからって夜更かしするなよ?生活リズムを崩すとリカバリーにめっちゃ手間取るからさ」


「あ、結構遅くなる予定なんスか?」


「ああ、酒も飲むだろうからな。

 多分泊まりにはならないと思うけど」


 ピクっ。

 パーティメンバー二人が俺の言葉に反応する。

 ん?なんか変なこと言ったか?



「えっと、マサキ先輩。こんな、なんだか詮索するようなこと聞いていいのかわかんないんスけど……」


「……どこの女と会うの?ミナ?いやミナではないはず。

 これは捨て置けない。パーティメンバーとして承諾できない。

 マサキは将来ある身。どこの馬の骨とも知れない女と遊んでいる暇はないはず」


「いやいやいや、男だよ!会うのは!

 まあそいつの彼女も来るっていうから厳密には男だけじゃないけど、とにかくメインで会うのは男だってば」


 なんでこんな必死に弁明してるみたいな感じになってんだ。

 いや誰と会おうが俺の勝手だろ。



「男の人ッスか……。ふぅ、なぁーんだ!安心したッス!」


「……女性同席。まあ、パートナー同席の場というなら許容範囲」


 こいつらは俺のなんなんだよ。



「っていうか。友達いたんッスね!マサキ先輩!

 てっきり私以外話す相手なんていないと思ってたッス!よかったじゃないッスか!」


「人をなんだと思っとるんだ。おるわい友達くらい。

 いや……同年代以上はあんまいなくて、ほぼ後輩ばっかだけど」


「ププー!

 で、でたーw同格以上の同性とコミュニケーション取れ奴www

 いやそれマズいッスよマサキ先輩。先輩風吹かせられる相手にしか会話に付き合ってもらえないって。

 孤立一直線じゃないッスか。


 知ってます?人間、格上、同格、格下の同性及び異性の全種類の人間に承認されないと本当の意味での自尊心は満たされないんスよ?

 たとえ異性の恋人がいても同性の友人に認められないと孤独だし、上の人間に目をかけられても下の連中に軽蔑されてたらマトモな仕事なんてできないじゃないッスか。

 それと同じで、後輩とばっか付き合う人間関係じゃ世界が広がらないッスよ?」


「うるせえなあ、わかってるよそんなことは」


 なんでこんなに煽られなきゃならないんだ。

 女ばっかのシェアハウスに男一人で参加してる状況、とりあえず俺をけなしてけみたいなコミュニケーションがち。



「……メディナは言い過ぎだけど、それでも付き合う相手は考えた方がいい。

 マサキの後輩となると、良くてD級か多分E級の冒険者でしょう?

 いつまでもうだつの上がらない下っ端連中と交流してる野良犬根性が伝染しそうでマサキのためにならない」


「お前ついこないだまで自分もE級だったのによくそこまで言えるなぁ。いい根性してるよどいつもこいつも。

 ともあれ今日会う奴はC級冒険者だよ。

 俺より2コ下の17歳だけど」


 2人が目を見開く。

 そりゃ驚くだろう。そんな奴、滅多にいるもんじゃないからな。



「アラン・ムサシノ……って知ってるか?いや、知らないわけないか。

 去年デビュー5年目にして早くもC級冒険者に昇格した、今一番ホットな冒険者だよ。

 "光の勇者"って異名のほうがピンと来るかな。


 実は俺はあいつとは長い付き合いでさ、っていうかあいつが一方的に絡んでくるんだけど。

 俺のD級昇格祝いにメシ奢ってくれるって言ってきてさ。

 ついでにC級昇格以降の話も聞かせてもらってくるわ。今後の参考に」

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