第30話 これがとにかくとんでもないチート能力

「マサキ先輩!いつまで寝てるんスか!さっさと起きてくださいっス!」



 バサッ!

 唐突に布団を引き剥がされ、寒さのあまり俺は体を丸くうずくまる。



「うぅ……まだ眠いよ、メディナ。

 あと5分……あと5分だけ寝かせてくれ……」


「ハァァっ!?何言ってんスかマサキ先輩!

 朝の時間は貴重なんスよ!ミナさんの出勤時間に合わせて朝食時間も決めてるんスから!

 先輩に早く起きてもらわないと——私のミッション達成に差し支えるっスよ!」



 グウの音も出ない正論を並べられ、やむを得ず俺は体を起こす。

 すると——グイっ!


 見えない力で俺は強制的に立ち上がらされる。

 さらに——バシャバシャバシャバシャっ!


 俺の顔面を、自律運動する水の塊が走り抜け、寝癖だらけの髪を洗い流し、さらには口の中まで洗浄していく。



「ガ、ガボボボっ!

 メディナ!勝手にスライムを使って人を起こすのはやめろって言ってるだろ!」


「ふふーん。私のおかげで、一瞬で洗顔と寝癖直しと歯磨きが終了したっスよ?

 どうしますか?トイレは自分で行けますか?」


「や、やめろって!スライムを使って人を押すな!自分で行けるから!」



 インビンジブルスライム。

 メディナが使役する、2匹のバスケットボール大のスライムが俺の体に纏わり付き、強引にトイレに歩かせようとするのをやめさせる。



 メディナがパーティに加入してから10日。

 つまり、メディナの隠されたユニーク・スキル、“スライム支配マスター”の存在を告白されてから10日か。


 これがとにかくとんでもないチート能力——俺のミッション・コンソールやシズクの幸運スキルが可愛く見えるほどの反則的性能で、戦闘面、迷宮ダンジョン探索面、のみならず生活面でも劇的なハックを達成してくれている。



 具体的にどういうことかというと——



「あら、おはようメディナちゃん。すぐに朝ご飯の準備をするわね。

 ——あら、既にご飯も炊いてあって、お味噌汁の具も刻んであって、主催のお魚に味付けしてフライパンにクッキングシートと一緒に乗せてあるわね。

 あら、大量の鶏胸肉も、味付けをしてオーブンで調理済みじゃない。

 しかもお漬物と昨日の残り物とお箸とお茶は既にテーブルに並んでるし。メディナちゃんがやってくれたのかしら」


「はい、ミナさん!

 私のスラちゃんにやっといてもらうようにお願いしました!食材の運搬程度は楽勝ですし、皮を剥いたり切ったりもお手のものです!野菜の皮や芯、魚の骨は食べてもらいました!

 火の扱いだけは危険なのでさせてないっス!」


「……おはよう。すまない、ミナ。

 昨日の晩の洗濯と食器洗いは私が当番なのに、忘れていた。すぐにやる……ん?

 ……既に全部片付いている。誰かやってくれたの?」


「ウッス!シズク先輩!

 私のリンちゃんに、食器や衣類に付着した汚れを全部食べてもらったっス!この子たちは基本なんでも食べるんで。

 洗った食器や衣類は全部棚やタンスの定位置に整理してあるので、ご確認くださいっス!

 あと床の埃や壁の汚れも全部除去させましたし、皆さんの装備品の汚れの除去や部品交換も完了してるっス!」


「相変わらずトンデモ性能だな。そいつら散々働かされて不満を言ってきたりしないのか?」


「スラちゃんもリンちゃんも自意識を持たない生物なので、大丈夫っス。

 特に、『毎日決まった時間にプログラム通りの動きをさせる』とかはこの子たちの得意中の得意ですよ。

 有機物なら基本的に何でも食べますし、どうしても消化できない物質は後でまとめて処理施設で吐き出させるので問題ないっス!」



 ご覧の通り、生活にまつわる雑事をほぼ全自動でこなしてくれるのだ。

 洗濯物とか自分でやるよりよっぽど綺麗に畳んでくれるからな。



「じゃ、飯の前にデイリーミッションを済ませるか。

 シズクは昨日と同じ内容。メディナは、ええと……」



 そして、日課のトレーニングを開始する。


 ここでもスライム達は、タオルや飲み物を持ってきてくれたり、体に纏わりついて呼吸や姿勢を補助——嫌でも正しい動作をしなければ動けないように矯正してくれたりする。

 ちなみに補助してくれるからと言って全く楽ではなく、むしろ最も効くフォームでのトレーニングを強制されているわけだが、ともあれミッションコンソールの回数判定で躓くことがなくなった。

 普通なら「ダルくなってきたから、ちょっとだけサボろうかな」みたいになるところを強制的に動かしてくるもんで、しんどいのは確かだが時間の節約になってることは間違いない。



「ふぅー!毎朝のこととはいえ、地味にきついっスね!」



 キツいと言いつつも、爽快な表情でメディナが言う。

 わかる。こういうの、やる前とかやり始めの時点では超絶ダルいんだけど、やってしまえば血行がよくなるせいかめっちゃ気分良くなるんだよね。

 始める時の「よし、やるか!」と自分を起動させる時の意志力の消費がとにかく大きいんだけど、メディナが加入して以来、時間になったらスライムが強制的に体にまとわりついてトレーニング開始させてくるので、意思決定に要する精神消耗が抑えられてるのが地味に助かる。



 さて、先ほどから当然のようにメディナがミッションに参加していることから分かるように、こいつにもミッションコンソールが発動した。

 先日の、スライム支配マスターの能力の存在を打ち明けられたことがきっかけだ。

 そう遠くない内にミッションコンソールにパーティメンバーとして認められるだろうとは思っていたが、予想外の速さだ。

 それ以上に予想外なのは、やはりこいつの能力だ。



 スライム支配マスター



 こいつのコンソールにも記載されるユニークスキルだ。

 能力は2体のスライム——スラちゃんとリンちゃんとか名付けているようだが、とにかくこいつらを意のままに操ること。


 モンスター調教テイムは過去にも類似事例のあるレアスキルだが、こいつのはそのスライム限定版というところだろうか。

 メディナ曰くあまりに便利すぎる能力なので、いつかは開示すべきかとは思いつつも、目立ったり誰かに利用されたりが何となく不安なのでとりあえず誰にも話さずにいた能力とのことだ。

 その対応は間違いではないんじゃないかな?とも思う。


 まあ俺達にはあっさり話してくれたんで、そこまでのこだわりはなかったようだが。

 聞けば、他に知ってるのは先日まで同居していた元パーティメンバーの同郷組だけらしい。

 そいつら、これを知っててよくメディナを手放そうと思ったなあ。



 この生活面での利便性だけでもとんでもないからな。

 なんだかんだ、家事やら片付けやらでみんな一時間以上は自由時間が増えていると思うし、デイリーミッションの所要時間も相当削減されている。


 ま、それはあくまでオマケで、本当の壊れ性能は迷宮ダンジョンでこそ発揮されるのだが……。



「さあ、朝ごはんができたわよ。一緒に食べましょう。

 メディナちゃんのお陰で本当に準備が楽になったわね」


「いただきますっス!う……やっぱり、この大量のブロッコリーはまだ慣れないっス」


「我慢して食べろよ。ミッションなんだから。

 お前のスライムが茎部分の厚い皮を向いてくれてるおかげで、同じ量のブロッコリーから可食部が大幅に増えたんだから。コストが大幅に削減されて助かるぜ」


「……ミナ、こないだのブロッコリーの茎をオリーブとニンニクで炒めたやつ、美味しかったから今度また作ってほしい」


「はいはい」



 使用済みの食器をスライム達が一瞬で洗浄するのを見届け、各々職場に向かう。


 さて、ここからが本当の見せ場だ。

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