バウンダリ編 第29話 開爺

 連絡が来ていた通り開爺とばあちゃんが遊びに来た。

 病院も今は非常勤としてしか関わっておらず暇らしい。


「いやね、本人は常勤で務める気だったのだけど、見た目が若いでしょ、若い医者がおじいさん医者を叱りつけているのが、患者さんに見られて問題になっちゃって・・・実際の年は逆なんだけどねえ」


 と、ばあちゃんが言っていた。


「見られるようなところで、叱っているのが悪い」

 とも言っていたが・・・

 開爺の言い分としては、

「失敗の起こった現場で説教するというのが当然だ、失敗は現場で起こっているんだ」

 と言うことだ、記憶の関連付けと保持については、その時のイメージが需要だそうだ。


 で、懲罰をとの話も出たらしいけど、立場が立場だし年齢を理由に病院からお願いされて依願退職扱いとなっちゃって・・・

 退職金はずいぶん取り上げたらしい、くれないと理事になって居座ると脅したらしい、もともと自分で作った病院だけど、経営がめんどくさいと言ってさっさと法人化して現場で働いていた。


「で、本当にお土産を取りに来たの?」

「ええそれは本当、せっかくの孫からの心遣いですもの」

「それで、じいちゃんはどこに行ったの?」

「少し散歩に行くって言って出ていったけど、まあすぐ帰ってくるでしょう」

「どうしよう、お土産見る? じいちゃんが帰ってきてからにする?」

「うーん、帰ってきてからにしましょうか、先に見ると拗そうだし」

「そうだね、じいちゃんなら拗そうだ」



 話題にされている開爺さんはその頃、近所の河川敷で凛と戦っていた。


 孫の導人から先日ヤマト地方とヤマシロの都へ修学旅行に来ていたと連絡をもらい、来ていた時に連絡をくれれば乱入したのにと言ったら、だから連絡しなかったと言われ落ち込んだ・・・が、お土産を一応買ってあると言われた瞬間にはエイドに行くと宣言した。

 まあ、理由は病院のいざこざで実は少し傷ついていて、気分転換をしたかったのが大きい。


 土曜日エイド首都駅高速軌道ホームに昼過ぎには到着し、近くにあったサヌキ系うどん屋へ寄り軽く食事を済ませると移動を開始し14時過ぎには導人の家に到着していた。

 チャイムを押すと、凛と澪が姿を表し出迎えてくれた、開は凛にお土産を渡しながら上がり込む。


 お茶をすすりながら凛に導人の行方を尋ねたが、少しでかけていて夕方には帰ってくる予定だと言うことだ。

 この日導人は山本所長に意見を聞きたいと呼び出され、陸軍研究所に行っていた、ちょうど皆の話をすり合わせたリポートが出来上がり、導人に見せて補足がなにか無いかを問うためだったが、変化時の時間は長すぎると山本の私見と同様のものだった。

 ただ、導人がぼそっとつぶやいた大人は大変だな、のつぶやきが耳に残った。


 どういう意味かは不明だったが、体の出来上がっていない未成年と出来上がった大人では変化時のダメージが違うのではないかと思い至った、当然検証が必要なため正式には書かずメモとして添付した。

 当然、導人がぼそっとつぶやいた大人は大変だなと言うのは、命令であの苦しみを受けたのかの意味であった。


 後は訓練法について、反復が重要では有るが漠然とではなくイメージをとにかくしっかりとする事が重要であると言い残し導人は帰宅した。


 送ってもらい、家に入ると見慣れない靴が並んでいる、おっじいちゃんたちが来たのだと理解しリビングに向かう。


 ばあちゃんと、話をしながら待っていると凛とじいちゃんが帰ってきた「おかえり」と言ってじいちゃんを迎える、凛は汗かいたと言ってさっさと浴室に向かう、じいちゃんが「おお、導人ちょっと見ない間に大きくなったな」と言ったが「ちょっと前にいきなり10cm位一晩で伸びた」と説明すると驚かれた、病院に行って検査はして問題はなかったことを説明、そこでやっと安心したようだ。


 じいちゃんが帰ってきたので、お土産候補を幾つか持って降りてきたら「木刀は?」と聞かれ「???なんで木刀」と聞くと「修学旅行の土産は木刀と決まっている」と言われた、「そんなものを買ったら帰りの高速軌道に乗れなくなる」と返事をしたが「つまらない世の中になったと」しみじみとつぶやいていた。


 結局、おそろいの湯のみ茶碗と新茶をお土産として渡した。

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