バウンダリ編 第23話 変質

 経過観察用の個室に入り各自魔素のコントロールをしながら経過を記録していた、予想通り5人とも熱を出し導人達よりもさらに激烈な痛みが体を襲った、尉官のため全員が24歳前後であり、成熟し出来上がった体の再構築は導人や凛の未熟な体の再構築とは比べ物にならなかった、一晩中意識の喪失と覚醒を繰り返し女性も2人いたが髪の毛がごっそり抜けていた、また変化に要した時間も12時間を超えていた。


 ただ苦しんだ分だけのことは有り、身長や体重その他の筋肉や脂肪のバランスはその人物のパフォーマンスを発生させる最適なものに変えられていた。


 ただし、重要なリポートは発熱までは詳細に記録がされていたが、変質の起こり始めた所から全員〈苦しかった〉の一文で、その苦しさによりいろいろ漏らし、また抜けた髪は変化では戻らず生え揃う期間と同時に精神的に立ち直るためにもしばらくの期間を要した、なおかつ服を買い直す必要もあった。


 「ううむ、無事変化を乗り越えたようだが精神的なダメージが大きいな・・・12時間以上の拷問のような痛みか・・・あの兄弟のリポートでは・・・いや体験しないと理解できないと言っていたか」



 ああ、熱が出始めたか・・・リポートにあった通りのようだ、篠田2尉は軍幹部候補として士官学校を卒業し2年、突然陸軍研究所の山本大佐から声が掛かり新規に編成される部隊への招聘と「さらに能力を高めたいか」と言われ二つ返事で受諾、各種書類と秘密保持契約(NDA)にサインし、被験者として部外秘リポートを読ませてもらった・・・


「魔法使い? これは・・・本当に魔法使いになれるのですか?」

「そうだ、すでに実績もある」

「私も実際魔法を使う所を見て、その力も理解している、大型の装備が必要な結果を生身だけで起こすことができる、また使い方により身体の強化も行える、この資料も見せよう」


「・・・本当ですか? いきなり倍近くにアップしている」

「本人は体のダメージを考えて少しだけ強化したと言っていた」

「信じられませんが・・・本当なんですよね・・・あっ、失礼しました」

「いや良い、まあ実際に体験しないと理解はできまい、ただそのリポートにあるように能力の取得には強烈な痛みに耐える必要があるようだ、身体的変化も起こるとある」

「これは、その魔素による身体再構築が起こると言う事でしょうか?」

「身体の最適化が起こるようだとなっているが、詳細はまだ不明なところが多い、言葉はあれだが君たちがその被験者となり解明に力を貸してほしいというのが本音だ」


「君たちと仰るということは、私のほかにも幾人か受けるのでしょうか?」

「全員と言っても、君を含めて5人だ」

「そうですか、それでいつから開始の予定でしょうか?」

「ああ週末、土曜日に開始する」

「承知しました」


 土曜日10:30に陸軍研究所に集合し山本大佐に案内され地下5階に降りていく、見た感じ同期か?女性隊員もいるため2手に分かれ不織布の全身防護服に着替える。

 ゴーグルをつけ、隣の部屋に移動し長椅子に全員腰を掛ける、待機をしていると山本大佐と私たちと同じ格好した人間が入って来た。

「では開始してくれ」

 と山本大佐の号令で隣にいる何者かが何かをしているようだ、たぶんリポートにあった魔素の注入だろう、見ることができないから想像しかできない。

「温かい何かを感じることが出来るかね?」

 全員首を横に振る。


 幾度か繰り返すうちに、温かい何かが体に入って来ているのがわかるようになった、これか。

「温かい何かを感じることが出来るかね?」

 に対し手を上げた。

 その後も繰り返されると10回ほどで全員の手が上がった。


「それじゃあ、周辺にある魔素を感じられるかね?」

 全員が首を振る。

「周辺から、温かさの元を取り込むイメージをしてくれ」


 ええと、霧があってそれを体内に引き込むイメージ・・・

 山本大佐の横の人物が指を2本立てできている2人を指差す。

「できていないものはこちらへずれてくれ、できているものは各自で感覚を覚えるように、ではこちらのグループはもう一度だ」


 畜生・・・焦る、体内に引き込むイメージ、と考えていると押し込まれているのだろうか、温かいものが流れ込んでくる・・・

 少し経つと入ってくる量が増えた気がした、こうか?


 山本大佐の横の人物がサムズアップをしている。

「良しやめ!」

「各自その感覚を忘れないように適度に訓練を続けてくれ」


 というと、2人は部屋を出て行った、それを見送りながらさっきのイメージを試す・・・うん温かいものが流れ込んでくる。


 よし、次は命令を与えて物質化だ、周りの魔素を手のひらに集めるイメージで液体・・・水を頭の中でイメージする・・・おお手のひらの少し上に水の球が浮いている卓球の球程度だができた、意識をほかのメンバーに移した瞬間弾けてしまった思わず「ああっ」と声を出してしまった。

 その声でこちらを見たメンバーも手のひらで水の球を作り始める、なんていうことだサイズに違いはあるが全員出来ている、焦る。

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