第9話-プロローグ編-??side
名前も知らない男の子。
背丈は私より少し高いくらいなのに、安心できる後ろ姿。いつも“夢の世界”で守ってくれる私だけの騎士様
沼の様にドロドロした汚い手が私を下へと引き摺り込む、そんな夢。最初はただ怖くて、泣いて、必死に足掻いた。掴まれた足の感覚は無く壊死しているのでは、と思えるほど自由の利かなくなる下肢に絶望した
怖さが増し、カタカタと身体が震え始めた時
彼が私の前に現れた。
ふわふわと上から降ってくるのでは無く、私の前に目掛けて着地した登場シーンに私は全ての感情を忘れ、ただただ惚けてしまっていた。
“…騎士、様?”
そう発した筈なのに、声は出ず。ただ空気のみが漏れ出る形となった。前に立つ彼は、私を一瞥した後
下へと引き摺り込もうとした汚物に躊躇う事なく彼は…、そっと労わる様に触れたのだった。
私の足元にしゃがみ、地面から伸びて出てくるそれらにただ慈愛に満ちた優しい目で彼は囁いた。
『–––––––––大丈夫だよ』
たった一言の言葉なのに、穏やかで。安心できる声だった。
貴方様は誰ですか。
お名前は?
どうして助けてくれるの?聞きたいことは沢山あるのに、脳内を埋め尽くす言葉が邪魔をする。
かっこいいが過ぎる!!!
と、語彙力低下気味過ぎる単語が脳内を占領していた
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彼が汚物に話しかけた途端、汚物はサラサラと砂になって消えていった。あぁ、《何度》見ても素敵。
囚われる私を必ず助けてくれる騎士様
最初はただ怖かった夢。でもこの夢を見れば…必ず彼に会える。夢の世界で逢瀬をはたして早3年。環境ががらりと変わり、不安と緊張に押し潰されそうになったけれど…
“ここ”に来てからはより鮮明に夢を見る事が出来た。もしかしたら騎士様は…、私が来た異世界、
この世界に居るのかもしれない。
あぁ…私だけの騎士様。お会いしたいです。お声が聞きたい。あの綺麗な瞳で私を見てほしい…、
会いたいです。気が狂ってしまいそうな程、
貴方様が愛おしい。
そして夢の彼に手を伸ばしたところでいつも目が覚めてしまうのだった。
空を掴む手。
彼に伸ばした手は、虚しくも愛する彼へ触れることはなく。ただ下ろすだけ。
私がごそり、と寝返りを打てば扉の前で待機していたらしい侍女が側へと来てくれる。顔には心配の色が浮かんでおり、労わる様に小さく“大丈夫ですか…、聖女様”
そう声を掛けられた。
きっと彼女は私が別の世界から召喚され、不安で
毎夜、泣いていると誤解しているのだろう。まぁ実際に夢を見て枕を濡らすのは事実だが…、
何も不安で故郷、日本が恋しくて泣いているわけじゃない
あぁ…騎士様が居ない世界なんて壊れてしまえばいいのに。
彼との逢瀬が終わり、そう切に願う。
もう3年。夢の世界の彼に片想いしている私は…
もしかしたら狂っているのかもしれない。
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