終、だから僕は就活をやめた
就活は、私にとって初めての挫折だった。今まで、それなりの努力をしていれば、中高一貫の学校にも、大学にも合格できた。ペーパーテストではさほど苦労はしてこなかった。家とのあれこれはあったものの、それも他の人の力を借りつつのりきれた。大学の成績も、家を出てから一切落とさず、最後2年はGPAも4以上をキープできていた。
なまじっか、自分の力を過信しすぎていた。小説でうまくいかないことは多くても、実生活で躓くことはあまりなかった。
だから私はたぶん、挫折に対する耐性がなかったんだと思う。
就活。さんざん罵詈雑言を吐いてきたが、色んな不文律や理不尽で成型し、矯正し、「企業」と「個人」との力関係を植え付け、「従順な社会人」を生み出すには、これほど効率的なものもない。転職は昔より盛んになっているとはいえ、就活がこれほど大変なのだからと、転職をためらう人も多かろうと思われる。それも含めての調教としては、これほど見事なものもない。
私は、そういう「社会人」として適応できなかった。
就活がうまくいかなくなるほど、「お前はどうせ社会じゃやっていけない」「どこででも野垂れ死ね」という父の言葉が具現化するようで、ひどく恐ろしかった。
我ながら、メンタルは強くない方だ。このまま、どこかで完全に折れて、ひっそり自殺なんかしてもおかしくなかった。
そんな私の前に、ギリギリのところで、ふたつの救済が現れた。
ひとつ。母と再婚家庭が離島の実家に行くことになり、就活に疲れたと延々泣き言を言うと、「卒業したら何か月かゆっくりする?」と誘われたこと。
ひとつ。4年間真面目に勤めたバイト先から、社員登用の話が降りてきたこと。
突如現れた理解のあるバイト先くんである。こんなのありかよ、と憤る人もいるだろう。小説だったら「リアリティがない」と罵倒されてもおかしくない展開。
私はすぐ、母に「島に行きたい」と相談した。最初は「やめておきなさい」と言われた。「今のあなたは、ただ就活から逃げたがっているようにしか見えない」「もっと前向きな気持ちで行けるようにならない限り、お母さんは賛成できない」と。
正直、就活からは逃げたくて仕方なかった。これ以上いると何かが壊れてしまう気がしていた。
懸命に言葉を重ね、母をどうにか納得させることができた。バイト先にも「7月ごろまで母の実家で心を休めたい」と相談したところ、無事に了承してもらえた。
こうなると、就活どころではない。新卒で入っていきなり「3か月休ませてください」なんて話を聞いてくれるところはそうないだろう。
こうして私は就活をやめた。今は離島で、こんな記事などを書いている。
私は就活に致命的なほど向いていなかった。「成長」できるほどポジティブにもなれず、苦痛と病歴以外に得たものはなかった。と思う。
読んでくださった人の中には、「どうしてこんな簡単なことができないのか」と疑問に思ったり、苛々した人もいるかもしれない。適合できる側の人にはわからない苦しみだと思う。私だって、同じように「普通」に適合できなかった様々なケース、たとえば不登校やひきこもりに、100%理解を示せるとは思わない。私は当事者にはならなかったから。幸運なことに。
ただ、あまりにもきらきらギラギラとした就活の世界で、疲れてしまう人もいると思う。何せ7人に1人が病む「通過儀礼」だ。プラスの感情だけを持ち続けられる人なんて、半分もいないと思う。(……いないよね?)
そんな人たちが少しでも共感し、「自分だけじゃなかったんだ」と安心できたり、「なんだこいつさすがにひどいわ」と反面教師にしてもらえたらいいなと思って、私はこの記事を書いた。
どこかにいる、7人に1人のあなたへ。少しでも励ましになりますように。
ゆきこ
追伸 バイト先から職場になったところは1カ月で体調を崩してやめてしまいました。現在母方の祖母宅で療養中です。どうなることやら。
就活クソッタレ備忘録(22卒) 澄田ゆきこ @lakesnow
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