偽装
第23話
石を積み上げた牢屋。僕はその中にいる。
光は少しだけ差し込んでくるが、外は見えない。他の建物は土でできていたため、ここは特別に造られた部屋だとわかる。
みんなはどうしているだろう。どこかに連れていかれた。ヴェルタは治療を受けられたのだろうか。フューレンはおとなしくしているだろうか。そしてリードは。
なぜか、ひどく落ち着いていた。ここまでがいろいろありすぎて、ゆっくりと膝を抱える暇すらなかったせいかもしれない。
ここは、仮想世界だ。だから、地上絵があろうが、恐竜がいようが、理屈が通らないということはない。けれども、自分が創った世界である以上、むちゃくちゃすぎるのは納得がいかない。プログラムは、乱数を肯定したが、乱数を支配する一定の法則もまた、存在する。何もかもが自由な創造では、世界の成立自体が無理なのだ。
この世界において異常なのは、配置されているものはめちゃくちゃなのに、どれもがほぼ現実世界にも実在するものだということだ。存在形態だけは正常で、存在する時代がめちゃくちゃというのはどういうことだろうか。
そして、ミットライトはどうしているのだろうか。僕にとって、ミットライトのいる生活が当たり前になっていた。けれども今、彼はどこにもいない。こうして僕が生きている以上、僕のそばにいるはずなのに、それがまったく感じられない。
僕にとって、仲間とはいなくなっていくものだった。僕らに足りなかったのは、仲間に対する意識だったと思う。計画的に生産され、計画的に生涯を終える。予定された通りの能力、予定された通りの寿命。それは素晴らしいことでもあったが、一度歯車が狂ったときにはひどい欠点になってしまった。僕らは、僕らが何なのかを知らなかった。失って初めて、他者の大切さを知った。もし一人きりならば、僕はとっくの昔に生きることをあきらめていただろう。
「おい、出ろ」
僕の思考は品のない声で中断せられた。白い光が差し込んでくる。黒く長い帽子をかぶった、樽のような体型の男が部屋に入ってきた。
「解放してくれるんですか」
「それを決めるのは俺じゃない。あと、聞かれたこと以外を喋るな」
高圧的な態度に腹はたったが、言われたとおりに声は出さなかった。僕はできるだけ他の皆の迷惑にならないようにしなくてはならない。最も役に立たないと思われているだろうし、最も共感を得られない、他民族の人間に見えているだろうから。
僕は、手枷と目隠しをされて引っ張られていった。残念ながら、目以外の機能で周囲の様子は丸わかりだった。牢を出た後は、狭い石畳の道を進んでいき、階段を下り、水路の横を通り、トンネルを抜けて行った。牢自体が町のはずれにあったのだが、それよりさらに奥へと進んで行く。
「入れ」
突き飛ばされた先は、完全に光の遮断された部屋だった。軽くデジャヴュだった。ちなみにロボットと違い、人間のデジャヴュは対象となる記憶を探し出さないらしい。
そして、似通った感覚。突きつけられる共感。
「ほう。俺が見えるってか」
どすの利いた、重たい声。頭の中に直接のしかかってくる。
「ええ。形はわかりませんが」
「まあ、ないからな。リードの野郎、詳しいことは言ってないのか」
「そうですね」
「どうりでてめえだけ恐れも何もねえわけだ。しかし、知らないことだらけでもねえだろう。この世界に、慣れすぎてねえか」
「そうでしょうか」
「ああ、なんというかね、そういうものの見方ってのは、人間には出来やしない。奴らは完全にこの星の内側から生まれてきたからな」
「あなたは……」
「ちょっと今、大変なことが起こっちまいそうなんだ。秘密を守ってる場合じゃなくてね」
心の中心に、言葉をどんどん投げ込んでくる。特に「この星」という発言は、僕の鼓動を刺激した。しかし、無駄だと思っても、それを悟られないように対応する。
「大変なこととは」
「俺らの技術を狙ってる奴らがいる。まあ、今までだっていたんだがよ、今回たちが悪いのは、身内なんだよ。こいつは一筋縄じゃ行かねえ」
「つまり、技術の独占を狙っている人がいると」
「そう。わざわざばらけてたっていうのによ」
「わざわざ?貴方達はどういう関係なんですか」
「一言でいえば遭難民さ。お前にはわかるだろ、イェ」
その可能性については、考えてはいた。しかしこの世界の設定上、ありえないことだと思っていた。僕はそこまで世界を製図していないのだから。
「この星の外から来たんですね」
「ああ。それをすんなり受け入れられるってのは、ますますてめえはタダものじゃねぇ」
「僕もあなたと似たようなものですから」
「だろうな。にしては、察しはいいのに無知すぎる。まさか、俺らよりも外側から来たんじゃねぇだろうな」
「それにはノーコメントで」
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