第19話

 不可解なことが起きた。フューレンが、飛行機に向けて右腕を伸ばした。すると、そこに向かって縄が伸びてきたのだ。彼女に向って縄が落ちてきたのではない、縄自身が彼女に向かっていったのだ。

「つかまれ」

 とっさに手を出すと、すごい力で引っ張り上げられた。僕らはあっという間に機内にいた。

「ヴェルタ、お前にはまだこれは操れない」

 操縦席には、細い髪の男が座っていた。振り返ると、細い目に少し歪んだ唇。

「どうすればいいんだ」

「逃げます」

「なんだと」

 機内にはそれほどのスペースはなく、三人でいっぱいだった。しかし、後部にもう一人、人がいるような気がする。人間のこういう直感は、当たりやすいというデータがある。

「族長を連れてきています」

「村のみんなは!」

「……」

 そう、ここには族長がいるのだ。

「見捨てるのか」

「このままでは、全滅です」

「……代われ」

 力強く操縦席を押し出されたヴェルタと、目があった。睨まれているようだった。

「お前が来て、おかしくなった」

 そして、想像通りの敵対的な言葉を投げつけてきた。

「おい、ヴェルタ」

「そうじゃないですか、フューレン。こんなわけのわからない男が、理由もなしにここに来るわけがない」

「やめろ」

「いや、いいです」

 この手の人間は、社会からあまり必要とされない、というデータがある。その通りだと思う。

「あなたが僕をスケープゴートにして気が済むならば、それでこの場は治めましょう」

「す、すけーぷ……?」

 彼には深層心理学の知識がないようで、僕の嫌みは通じなかった。非常に残念だ。

「あいつらはヴィーレとは関係ない」

「でも……」

「こいつはそんなに要領がよくない。それに、違うにおいがする」

 ヴェルタはそれきり黙ってしまった。基本的に立場が弱いようだ。

「くそ、どう離脱すればいいんだ」

 相変わらず攻撃はされていないが、攻撃の態勢はとられている。

「何が問題なんですか」

「こちらの武器を知っているんだ。停止状態からは有効だけど、敵全部をやれるわけじゃない。動き出したら突破するだけの敵も倒せない」

「つまり、動いた瞬間を狙っているんですね」

「そういうことだ」

 こういうのをこう着状態というのだろう。しかし、分は圧倒的にこちらに悪い。敵は被害を覚悟すれば攻撃してこられるし、こちらの燃料切れを待つこともできる。こちらは動かないことには何も達成できない。

「このままではすべてが駄目にっ、ああっ」

「静かにしろ。手はあるはずだ。だからこれを出したんだろう」

「……そうでした、族長は『目を使え』と」

「目を使え?」

 二人は、答えを探し、見つけられずにいる。あの族長は、見通しの立たない言葉を吐いたりはしない、と思う。とすれば、この二人に向けられた言葉でないと考えるべきだろう。

「強い風雨がやってくるかもしれません」

「えっ」

「風雨だと? なんでわかる」

「勘です。強い勘」

 これまでこの土地を守っていた風がなくなった分、コンピューターが予測できる領域が広がったのだろうか。非常に明快に周囲の状況が読み取れるようになっている。

「そんなことが、この土地のものでもないお前にわかるわけないだろう」

「あなたも僕のことはわかってないでしょう。僕の目の力のことを、あなたは知らない」

「本当に来るんだな」

「来ます」

 族長は、僕のことをかなり見抜いていた。恐ろしいことだが、現存している物体を見ればそれぐらいのことをしても不思議ではない。彼こそ異様に「勘がいい」と言えるだろう。

「フューレン、こんな男の言う事など!」

「ヴェルタ、黙っていろ」

 ヴェルタは完全に黙った。

「それはどれぐらいの時間だ」

「あまり長くはないでしょう。けれども相当の強さです」

「何か生かす案はあると思うか」

「武器によります」

「火力は強いが、一発しかない。しかも、狙いを定めるのに時間がかかる。発射後しばらくはエンジンは利くが操縦桿が不安定になる」

「なんでそんな装備になってるんですか」

「もともとは片道用だからだ」

「片道?」

「特攻機だ」

 常時使用データの中に参考になる単語はなかった。マザータウンに問うと、「片道限定の戦闘機」というわけのわからない答えが返ってきた。

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