飛翔
第16話
それは、真に異様な光景だった。半日しかたっていないが、村はまったくその姿を変貌させていた。木製の高い塀が周囲を囲み、高見櫓が出現している。そしてそれを取り囲む武装集団。基本的には古代にふさわしい野暮ったい鎧などだか、武器は銃剣やカーサイト銃まで混ざっている。
「どうなってんですか、これは……」
「どうやら本気で奪いに来たようだ。しかしなぜ気付かなかったのか、イェ」
まだ戦闘は始まっていなかったが、状況は悪そうだった。村人の人数は決して多くないし、人間には子供という存在がいる。ひたすら守りながら戦うというのは、疲労がたまりやすいものだ。
「対策はしているんでしょう」
「ああ。しかしこれだけの数を風が知らせないというのは、おかしい。風までをも操れるはずもないし……」
恐ろしいほど風は吹いていない。確かに、どこか意図的な静けさだ。
ラッパの音が聞こえてくる。太鼓の音も聞こえてくる。どうやら村人たちが、「音楽」しているようだ。
「なぜ音楽なんですか」
「知らん。儀式だ」
僕の首が傾げられていた。人間たちの不可解な行動は数多いけれど、音楽ほどわけのわからないものはない。わざわざ音階を弄繰り回して、挙句の果てには歌詞までつけたりする。そこに何かを感じたいというが、そんなことをしている間に世界共通語でも作ればよかったのに、と思ったものである。
「お前のところでは、どうしていたんだ」
「え?」
「戦う前は、どうしていたんだ」
「僕らは……何もしませんでした。そして、負けてしまいました」
「……そうか」
そう、僕らは戦うことを知らず、そのくせいつまでも勝者でいられると信じていた。もしも音楽が効率的だと証明されていたならば、僕らも音楽を利用しただろうに。
「ついてきてくれ。試したいことがある」
僕らは村が見える場所を離れ、岩の間のくぼみになった場所に入っていった。外からはわからなかったが、狭い通路のようになっている。フューレンはランプを取り出し、ずんずんと進んでいった。
「ここは、何ですか」
「墓だ」
しばらくいくと、急に道が開けた。周囲が全て岩の空間の真ん中に、ポツリと一メートルぐらいの鉄の棒が立てられている。
「あれが……?」
「あの中には多くのものが刻み込まれている。その力を得るためには、これだけの空間が必要なんだ」
「で、誰の墓なんですか」
「わからない。ただ、族長の仲間であったとは聞いている」
「じゃあ、ああいう方はいっぱいいたんですか」
「ああいう方というのが何を指すかはとにかく、族長の仲間は多くいたと聞いている。各地に散らばってしまったそうだが」
フューレンの顔には、嘘をついているときの兆候が見られない。この世界の異常さの底には、その者たちが大きくかかわっているのではないか、と思う。
「しかし……やっぱり、だ」
棒……墓標の前に立ち、フューレンは手をかざしたり息を吹きかけたりしていた。僕には何も感知できないが、人間には霊感というものがあるらしいので、何かを感じられているのかもしれない。
「何がわかるんですか」
「いなくなっている。奪われてしまった」
「奪われたって、何を」
「魂だ。この地を守っていた魂が奪われている。風の力も、大地の力もだ」
「どうやったら奪えるんです」
「奪われないために、誰にも教えられていない……。おそらく奪ったのは、同族だろう」
「同族……族長と?」
「敵の後ろに、いるだろう。残念ながら」
フューレンは、もはや奉るべき対象を失った棒を引き抜いた。
「かつて族長が言っていた。『力あるものは、力を信じてはならない』と。けれども、信じてみたくなるものだ。それはあの方たちも変わりない」
目は大きく見開かれ、唇は引き締められていた。そして、僕の胸は痛んでいた。過去を思い出し、悔いることがあるときにそうなるらしい。思い当たることは、確かにある。
「どうすればいいんですか」
「答えはわからない。ただ、黙って見ているわけにはいかない」
人間は、強いのかもしれない。そんなことを、思った。できることと、やらなければいけないことは違う。しかしフューレンは、やらねばならないことだけを見据えている。
「とにかく、やればいいんですね」
「そうだ。やらなきゃいけない」
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