第一節 不穏な依頼 5


「それで、その依頼はいつなんだい?」

「二日後。四日後にレク・サレムの戦闘訓練があって、それまでに慣れておきたいみたいな依頼だったから」

「ふむ」

「でも当の本人はハルバードを振り回せるくらいの怪力で、戦闘訓練なんか問題にならないくらいだったんだよね」

「…………怪力?」


 訝し気な表情を浮かべるマスター。

 そりゃそうだ。依頼者はミュース伯爵の愛娘…………十四の小娘だってんだから。


「うん。なんか…………って、説明できることでもないか。とにかく怪力少女だったってこと」

「そうか…………それで変だということだね」


 まあ、それだけじゃないんだけど…………っていうか、冷静に考えたらあのクリューナって子が平然とハルバードぶん回してたのが一番おかしい気がしてきた。


「うーむ…………不安ならこちらから偵察でも回しておこうかい?」

「ん…………大丈夫」


 偵察って、そんな大事にしなくても…………

 なんというか、マスターはマスターで変なところがあるんだよなあ。あんまり頼りたくないというか。


「まあ、依頼は私の方で適当に済ませるから」

「うむ、わかった。レク・サレムの方は…………」

「それもいいよ。そんな気にすることじゃないでしょ」

「む…………そうか…………」

「それじゃ」


 歯切れの悪いマスターを置いて、私は部屋を後にした。

 マスターと会う時はいつもこうだ。マスターは口でこそ心配はすれ、私が突っぱねると特にこれといった行動まではしない。かといって、心配しているというのは本当っぽい…………となると行動力が低い人なのかとなるが、それも違うだろう。冒険者ギルドのマスターなんて、それこそ行動力がある人じゃないと務まらないからだ。

 つまり何が言いたいのかと言うと、どうにもマスターに対する不信感が拭えないということだ。マスターは何か腹に一物…………って、どいつもこいつもそんなんばっかじゃん。


「はあ…………」


 思わずため息を漏らす。

 これじゃあ村にいた頃と変わらない。妙な期待を寄せる人。押し付けられる仕事。めんどくさがって全部受け入れてストレスだけ抱え込む私。何かを変えないとだけど、場所を変えてもダメだったということは、私が変わるしかないのかな?いや、でもそれは面倒だな…………


 などと考えながら、借家に向かって夜道を歩くのだった。

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異世界流・社会不適合者 @YA07

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